145話 属性装備完成
用語説明w
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
リロ:MEBパイロットの魚人隊員。十歳程度の容姿をしている
エレン:獣人の女性整備隊員。冒険者ギルドの受付も兼務
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
「ラーズ、昨日はお疲れ!」
リロが元気に挨拶してくる
出勤すると、待機事務室にリロやエレンがいた
「なんか、MEBハンガー以外で顔を会わせるのが新鮮だね」
整備班やリロは、基本はMEBハンガー内で作業をしており、報告書等作成もハンガー内の端末で行っている
そのため、隊舎にはあまり来ていなかったのだ
「自分の机があると私物を置けるし、休憩も取れるしいいですね」
コーヒーを飲みながらエレンが笑う
「待機室は冷暖房も完備だからいいよね!」
リロも菓子パンを噛りながら同意する
昨日のリロは、MEBでデーモンベアにとどめを刺す大活躍だったのだが、こうして見るとただの中学生、下手すると小学生にしか見えない
「…昨日のリロは凄かったね。熊を足払いで倒して脳天にパイルバンカー一発でさ」
「えー? それはラーズが熊を引き離して、カヤノ達がラミアを殲滅してくれたおかげだよ。補助魔法で強化されていたら、あんなに簡単にはいかないし」
熊の体はでかくて強い、それがモンスターの熊なら尚更だ
だが、もし熊に負けない力と体格を人間が持てたらどうだろうか?
それを実現するのだMEBという巨人なのだ
熊は牙や爪という武器しか使えない
だが、人間の体は、盾や武器、技を使える器用さ持っている
モンスターが経験のない投げ技は、面白いように決まっていた
「でも、あのMEBで柔道技出せるんだから、リロの先生も凄い人だったんだろうね」
リロは普通にやっているが、MEBで柔道の技を出せるのは凄い
MEBは死角も多く、モンスターの体勢や位置を想定してMEBを操らなければいけない
かなりの達人技だ
ふと、気が付くと、リロの顔がひきつっている
「あたしの先生… 凄かったよ… たくさん投げさせられて…投げて投げて投げて投げて投げて… 疲れて動けなくなると、今度はあたしが投げられて投げられて投げられて… また、投げて投げ…」
「リロ! 大丈夫! もう訓練は終わったのよ! 先生誉めてたでしょ、よく頑張ったって! 戻ってきて!」
エレンがリロの肩を激しく揺さぶる
「はっ!?」
リロが我に返ったようだった
「ラーズの訓練も凄いですけど、リロの訓練も負けず劣らずだったんですよ。厳しく、痛く、辛かったから、たまにトラウマを発症するんです。でもそのおかげで、リロのMEB戦闘技術は達人レベルにまで上あがったんですけどね…」
リロの先生の訓練も大変だったんだな…
分かるよ、俺は現在進行形だから
Cランクは伊達じゃない
地獄を見なければ、なれないのだから
・・・・・・
「さ、見てくれよ!」
ここはジャンク屋
突然、スサノヲから属性装備が完成したという電話があったのだ
「いつも突然すぎだっての、もっと早く言えよな…」
「いいから! 早く見ろ! あたしの最高傑作だ!」
鎧にかけられた布をスサノヲがとる
「…おおっ! これが俺のフェムトゥ…!」
俺の鎧であるフェムトゥの外見はかなり変わっていた
色が濃い灰色から漆黒となり、滑らかだった表面には竜の鱗の名残であろうゴツゴツとした素材で覆われている
「この背中の鱗を見ろ! これが逆鱗だ!」
スサノヲが興奮して言う
フェムトゥの背中の腰辺りに、他とは違う少し小さい鱗が装飾のように取り付けられている
「逆鱗って?」
「おまっ、電話で言っただろうが!」
スサノヲの言葉に、電話の内容を思い出すが…
「あんな早口で、音割れて、しかも勝手に電話切られて伝わるわけねーだろ!」
「何だと!?」
どうやら、スサノヲの電話は逆鱗が混じっていたことの驚きと興奮を伝える電話だったらしい
スサノヲの説明では…
俺から受け取った九枚の黒竜の鱗を確認すると、一枚だけ他とは違う鱗があった
それが、逆鱗だったのだ
逆鱗とは、竜の顎から喉の辺りに、他の鱗とは逆の方向に生えた鱗
竜の急所を守るための鱗で、他の鱗よりも硬度が高く属性値も高い
逆鱗に触れるという言葉の元になった鱗だ
「黒竜がくれた鱗の中にそんな鱗が…」
「死期を悟っていたからこそ、くれたのかもしれないな。それだけ黒竜に感謝されていたんじゃないのか?」
「…」
黒竜が、そんな大切な鱗を俺なんかに…
「逆鱗の凄さは属性値だ。その黒竜は地竜だけあって、逆鱗はものすごい土の属性値を持っていたぞ」
竜は属性親和性が高い
持って生まれた属性の、高い属性値を持つ
つまり、その属性の強力な技やブレスが使えるということだ
しかし、同時に反対属性の攻撃で大ダメージを受けてしまうということにもなる
逆鱗はそれを防ぐため、その属性を放出して防御する機能があり急所を守っている
土属性と風属性は互いに弱点属性だが、土属性の逆鱗が防御のために土属性を放出して風属性の攻撃を軽減する…、といった具合だ
「つまり!」
スサノヲが自慢するように言う
「お前の鎧は、逆鱗のおかげで土属性の防御力を持ったってことだ。風属性のダメージを軽減できるってことだぞ!」
フェムトゥは魔属性の属性装備となった
聖属性のダメージを軽減できるのだが、それに加えて更に風属性までも軽減できるようになったらしい
「凄いな…、属性を軽減できるってだけで凄いのに、その属性が二つだなんて」
「ああ! 言っただろ、これは間違いなくあたしの最高傑作だ!」
俺は改めてフェムトゥを見る
こんな凄い鎧が俺の物に…、実感が湧かないな
「なあ、スサノヲ。そういえば、魔属性装備って認識を下げる効果とかあるのか?」
俺は、風の道化師が着ていた魔属性装備のことを思い出した
「お、よく知っているな。魔属性は死に近い属性だ。光学迷彩と違って、見えているのに認識することを避ける。そんな本能を利用した認識阻害効果が魔属性の属性効果だな」
「やっぱりあるんだ! 認識阻害って便利そうだよな。土属性の属性効果はないのか?」
「属性効果はオーブを使って初めて備わる機能だからな。そこまでは無理だね」
ちょっと残念だが、風属性軽減だけでも充分凄い
黒竜に会ったときにお礼を言わないとな
「着てみていいか?」
「もちろんだ。調整するから早く着てくれ」
俺は、肌着になってフェムトゥを着る
女子の前で肌着になるというのに、スサノヲ相手だとまったく意識しないな
ちなみの、フェムトゥは肌着を着たままの方がいい
フェムトゥのセンサーは肌着越しでも関知するし、肌着は汗を吸ってくれるので快適だ
「うん、サイズもぴったりだな。しかも、呪いも無くなってるのか?」
「呪い? あれだけの濃い魔属性にさらされたら、上書きされて呪いの形なんか保てないさ」
「そっか…、属性装備で、しかも呪いの無い完璧なフェムトゥが手に入るなんてな。スサノヲ、ありがとう!」
「へへっ、いい出来だろ? だけどフェムトゥって、この鎧の商品名だぞ。竜の鱗で装甲を作り替えた上に属性装備になったんだからもう別物だ。オリジナルの名前をつけた方がいいんじゃないか?」
「鎧の名前か、ちょっと考えてみるよ」
その後、新機能の説明を受けた
腰のPITや倉デバイス装着ホルダー、太腿にナイフホルダーが付いている
その他はフェムトゥの機能をそのまま引き継いでおり、脳ミソガード用のウェアラブルセンサーと接骨機能だ
一通り説明を受けた後、最終チェックをする
そして鎧を受け取り、倉デバイスにしまった
「よし、確かに受け取った! 使った感想はまた連絡するよ」
「絶対だぞ! 調整とチェックもやってやるからまた持ってこいよな」
「ああ、分かったよ」
「ラーズ、次は武器の番だろ? 何か高くて作りがいののある奴を注文しろよな」
帰ろうとした俺をスサノヲが引き留める
鎧を完成させたばかりなのに、もう次の話しか
スサノヲの職人としての意欲は凄いな
「ああ、分かった。また相談に来るよ」
そう言って、俺はジャンク屋を出た
ああ、早くこの鎧を使ってみたい!
その帰り道、電話が鳴る
ゼヌ小隊長からだ
「ラーズ? 出国許可が出たわよ」
帰省の許可が下りたという連絡だった