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138話 黒竜の洞窟4

用語説明w

リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている

スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋


バンパイアが消し飛んだ…


「…」 「…」 「…」


三人でそれを呆然と見つめる



や、やはり高ランクのドラゴンの戦闘力は別格だ

あのバンパイアが瞬殺…!?




ミシ…ミシ…



突然、俺の足元の地面が不穏な音を上げる



「あ…?」


ゴゴゴ… ゴゴ…



「うわっ!?」 「ヒャン!?」


ドドドドドドーーー……



「ラーズ!」 「あぶなぁい!」


サンドブレスの衝撃に耐えられなかったのか、突然洞窟の地面が地下へ崩落する

黒竜を中心に、近くにいた俺とリィが崩落巻き込まれた


「うわぁぁぁっ!?」


ジードやロゼッタが手を伸ばす姿が見えたが、その姿がどんどん離れていく

俺とリィは、黒竜と共に地下深くに落下していった




・・・・・・




黒竜が地属性魔法と思われる効果で大地をクッションのように柔らかくしてくれた

おかげで、かなりの深さを落下したにも関わらず怪我一つ無かった


先程の洞窟よりは少し狭いが、ここもそれなりの広さのある空間だ

横の壁がひび割れており、光が入ってきて明るい


俺はリィが無事なことを確認すると、黒竜と対面する


先に黒竜が口を開いた

黒竜は穏やかな表情をしているように見える


「礼を言う、人間よ。おかげで、竜をひざまづかせたあの不死者に屈辱を晴らすことができた」


黒竜が礼を述べる

さっきと態度が全然違くない?


「さっきは、誰が助けろと言った! みたいなことか言いかけてたよね?」


何で最初からバンパイアを倒してくれなかったんだ

いろいろ覚悟しちゃったんだぞ?


「…」

無言の黒竜


「…」

それを見上げる俺


「……今回は魔属性の呪いによる体の衰弱で、不死者ごときに不覚をとってしまったのだ」


さらっと無視された!?

いや、それよりも…


「魔属性による衰弱?」


魔属性の竜が魔属性で衰弱って…


「お前達も気がついているのだろう? この高濃度の魔属性による呪いだ」


「あんたは魔属性の竜なんだろ? むしろ、あんたの影響で上の森が魔属性環境になったんじゃないのか?」


黒竜は首を振って否定する


「我は地竜、地属性の竜だ。この魔属性の魔力は、ここよりはるか地下の鉱床に埋まっている巨大な魔昌石の影響だ」



魔昌石


魔晶石は、魔力が結晶となり物質化したもの

魔昌石は魔力の燃料となる採掘資源でもある

だが、魔力を帯びているだけあり、特定の属性に片寄って魔力が放出されると、今回のように環境に悪影響を与える場合があるのだ



「あんたほどの強力な竜でも魔属性環境は毒なのか?」


バンパイアを瞬殺した強さは、成長度が老竜(エルダー)クラス

大地をクッションにした魔法を使っているので、能力ランクは知能竜クラス

恐らく黒竜の戦闘ランクはA~A+はあるのではないだろうか?


「竜とはいえ生物であることは変わらない。高濃度の魔属性に長期間晒されれば悪影響はある」


「それなら、どうしてここを離れないんだ?」


「竜にとって、縄張りとは特別な意味を持つ。新たな竜に奪われる以外に、自ら縄張りを離れるなどあり得ない」



竜の縄張り


竜は一人立ちすると縄張りを持つ

竜の縄張りは、竜が自然の調和を保つことで、複雑で豊富な生態系を作る場合が多い

竜はこの縄張りにプライドを持つことが多く、他の竜やより強い存在に縄張りを奪われない限り、寿命を全うするまで縄張りを守り続けるのだ


中には、縄張りのエリアに迷宮や城を築き、金銀財宝を貯め込むことで縄張りの豊かさを知らしめる俗な竜もいる

竜にとって縄張りとは、同族に見せ付ける栄誉であり、守るべき誇りであり、己の生きた証でもあるのだ



リィが黒竜に近づく


「ヒャンヒャンッ!」


「おお、あの時の小さき竜か。息災のようで何よりだな」


リィも黒竜を覚えていたようで、嬉しそうにすり寄ろうとする

だが、黒竜は首を振ってそれを止めた


「小さき竜よ、我に近づくと呪いが移る。触れてはならんぞ」


黒竜は、そう言って体を横たえる

体を動かすことも辛い様子だ


「…体が辛いのか?」


「うむ…、この呪いを我が吸収して百年がたつ。しかも最近は更に魔属性の噴出量が増している、我もまもなく命を落とすだろう」



つまり、こういうことだったのだ


百年ほど前に地下の魔昌石から魔属性が噴出した

本来は、この時点で魔属性環境が出来上がってしまうはずだった


しかし、ここは地竜の縄張りだ

地竜は縄張りを守るため、百年もの間たった一人で魔属性を吸収し続けていた

自身の体が黒く染まり重度の魔属性中毒を発症、黒竜と姿を変えるまでずっと…


だが、さすがの地竜も体を蝕まれ、魔属性をこれ以上吸収出来なくなってしまった

そして吸収出来なくなった魔属性の魔力が上の森に流れ出し、魔属性環境となってしまった



…なんて高潔な竜なんだ

誰にも知られることなく、自らの縄張りために命を使う

苦痛もあっただろう、だがたった一人で耐え、死のうとしているのだ


俺は、国のために死ねと言われて死ねるのだろうか

自らの大切なもののために苦痛を受け入れて死ぬことができるのだろうか



「…縄張りとは命よりも大切なものなのか?」


黒竜は静かに頷く


「そうだ。縄張りとは同族を殺してでも手に入れるもの。勝ち取った竜はその縄張りと共に死ぬ、それが誇りであり、殺した竜への誓いなのだ」


そこで、黒竜は俺を見た


「ただ…」


黒竜が何かを言い淀む


「ただ?」


「…いや、人間に言っても詮無きこと。それよりも人間よ、我に何か借りを返せることはないか? おかげで不死者ごときに命を散らさずに済んだのだからな」


「俺もあんたに川から引き上げてもらって助かったんだ。借りを返しただけさ、いらないよ」


この誇り高き竜の生き方を、俺は尊敬してしまっている

そんな竜に借りを返すことができ、対等に話せている

それだけで、どこか誇らしく、満足してしまっている


「ふっ…、小さき人間が体を張って我の危機を救ったのだ。指先一つでお前を拾い上げた、我の労力とでは釣り合わぬだろう?」


黒竜は目を細め、笑っているようにも見えた



そこで、俺はスサノヲが竜の鱗を手に入れてくれと言っていたことを思い出した


「なら、あんたの鱗をくれないか?」


「鱗を?」


「ああ、あんたみたいな強力な竜の鱗は、俺達人間にとっては貴重品だ。俺の鎧の素材に使わせて欲しいんだ」


「だが、我の鱗はすでに呪いにまみれているぞ。いいのか?」


俺はうなずく

すると、黒竜は首の辺りの鱗を十枚ほどを爪でむしり取り、俺に渡した


「足りるか?」


黒竜の鱗は、一枚がラウンドシールドくらいの大きさがある

十枚もあれば充分だろう


「充分だよ、ありがとう」


俺は鱗を倉デバイスしまった




「そういえば、あのバンパイアはなんだったんだ?」

俺は思い出して黒竜に聞く


「流れの不死者だろう。道化に死にかけの竜がいると聞いた…などと口走って突然襲いかかってきたのだ。我も体が思うように動かずに、あの血の束縛魔法を受けるという不覚をとってしまったのだ」


「…道化?」


まさか、風の道化師?

だが、人間の風の道化師にアンデッドの知り合いがいるのか?

判断にはまだ情報が足りないな




そろそろ、洞窟を出てジード達と合流しなければいけない

地下だけあって、さっきから電波による通信ができないのだ


装備品の確認をしている俺に、少し悩むように、次は黒竜が話しかけてきた


「…やはり、一応聞いておきたい。お前に竜の知り合いはいるか?」


「竜? 実家にサンダードラゴンの子竜ならいるけど、何でだ?」



フォウル


俺の実家にいる子竜のサンダードラゴンだ

普段は肩に乗るサイズなのだが、力を溜めれば一瞬だけ大きくなりサンダーブレスを吐くことが出来る


ボリュガ・バウド騎士学園時代は、フォウルを連れてダンジョンにも潜っていた

いざという時のサンダーブレスは心強かったな



俺がフォウルのことを話すと、黒竜は驚いたように言った


「聞いてみるものだな。その子竜の症状は恐らく不可逆の竜呪だろう。もし可能なら、ここにつれてきてはくれぬだろうか」


「不可逆の竜呪? いや、それよりも何で竜を連れてくるんだ?」



黒竜は、目を細めて少し悩む素振りを見せた


「…我を殺して欲しいのだ」


「えっ!?」


黒竜は続ける


「竜は二面性を持つ。一つは縄張りに対する誇り。そしてもう一つは闘争だ」


「誇りと闘争…」


「そうだ。我は間もなく死ぬが、それに後悔はない。だが、どうせ死ぬのなら闘争の中で死にたい。しかし、もはや闘争ができる体ではない。ならば、せめて同族の手によって殺してもらいたいのだ」


闘争の中で、か

病気で死ぬよりは戦って死にたい

俺も兵士の端くれだ、気持ちは分かる気がする


「…あんたのためなら、連れてくることは構わない。だけどフォウルは子竜で、さすがに力不足じゃないか? しかも一発しかブレスを吐けないし」


「不可逆の竜呪を一時的に止めれば問題はない、今の衰弱した我なら充分殺せるだろう。本来、人間に頼むことではないのだが、なんとか頼む」


「ああ…」

俺は頷く


格下のあいてに拘束され殺されそうになった

動かない体を自覚し、改めて自分の死期を悟ってしまった

そして、せめて死に方を選びたいと思ったんだろうな



だが、こんな安請け合いしていいのか?

結構重要なことの気が…


いや、これは俺が黒竜に対して、この高潔な竜に対してやってやりたいと思ったことだ


ジード達やゼヌ小隊長に話して頼み込んでみよう





人が増えて嬉しい、読んでもらえて嬉しい

ブクマ、評価本当にありがとうございます

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