136話 黒竜の洞窟2
用語説明w
シグノイア純正陸戦銃:アサルトライフルと砲の二連装銃
ロケットハンマー:ハンマーの打突部にロケットの噴射口あり、ジェット噴射の勢いで対象を粉砕する武器
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意、魔法不可の弓も使う
ロゼッタ:MEB随伴分隊の女性隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
バンパイアは、右腕の剣をすぐに消す
どうやら、出すのも消すのも自在らしい
地面に魔法陣が光る
ギャアァァァァァァ…!
「ぐあぁぁぁ!」
亡者に叫び声のような音が響く
魔属性範囲魔法(大)、かなり広い範囲攻撃だ
とてもじゃないが避けられない
「データ2、リィ、チャンスがあるまで下がっていろ!」
データ2とリィは温存だ
俺は魔法防御と護符のおかげで、なんとか軽傷だ
すぐにジードが魔法防御(小)をかけ直してくれる
というか、一発で補助魔法が消し飛んだのか!?
ダダダダッ
ボシュボシュ…
アサルトライフルで射撃
だが、バンパイアも防御魔法を使っているらしく弾を止められる
続いてロゼッタが飛び込み、片手剣で攻撃
ガキッ キィン…
バンパイアは血液の剣を出現させて防ぐ
だが、ロゼッタは剣の達人だ
今度は二の腕を切りつけた
「人間ごときがっ!」
バンパイアはロゼッタを振り払うと、魔法を放つ
自身の体から血液を染み出させ、それを弾丸として乱射
バシュバシュバシュッ!
なんだ、あの魔法は! 水属性魔法か!?
俺は小型杖で土壁を作る
弾除けが無いと避けきれないと判断した
少し離れた場所にもう一つ、これはロゼッタ用だ
「データ、ロケットハンマーを」
データに倉デバイスの操作を頼み、俺自身はモ魔で竜巻魔法を読み込む
ガガガガガッ
射撃しながら間合いを詰める
バンパイアは防御魔法で弾を止め、魔属性投射魔法を放つ
ボヒュッ
俺はモーションを見てホバーブーツのエアジェットでジャンプ、投射魔法を飛び越える
同時にロケットハンマーを倉デバイスから引き出して…
ボゥッ ゴガァッ!
ロケットハンマーのジェットを点火、叩きつける
バンパイアの額の上辺りに突き刺さり、頭蓋骨が陥没して歪んだ
「…っ!?」
だが、そこまでだった
ロケットハンマーが頭蓋骨を少し陥没した所で止まったのだ
どんだけ固い骨してやがるんだ!?
戦車の装甲を叩き壊すための武器なんだぞ!
バンパイアは、お返しとばかりに右手に血液の剣を出し薙ぎ払ってくる
ドゴォッ
「ぐはっ…!」
ラウンドシールドで防ぐが、そのまま吹き飛ばされる
そして、間髪入れずに魔属性範囲攻撃(大)が発動する
「うぐっ…」 「あうっ!」
範囲内にいる俺とロゼッタが呻き声を出す
ジードがすぐに魔法防御(小)をかけ直してくれる
そして、…
ボボォォッ!
「ちっ…」
火属性魔法付加した矢を放った
矢は弾かれたが、付加された火属性魔法がバンパイアを焼き、バンパイアは舌打ちをする
だが、あまりダメージが通っていない
「魔法防御も展開しているな。奴は補助魔法でガチガチに固めているぞ!」
ジードが警戒しながら言う
「…ラーズの言うとおり、黒竜を押さえてる今じゃないと戦えなかったねぇ」
ロゼッタも剣を構える
その通りだ
バンパイアは今、左手を常に黒竜に向け、黒竜の動きを封じながら戦っているのだ
おかげでかなり行動が制限されており、なんとか戦えているけなのだ
だが、こちらの攻撃が通らない
ロゼッタが切った箇所や、俺が陥没させた頭蓋骨は、もう何事も無かったかのように元に戻っている
「いろいろ試してみましょう」
俺は陸戦銃を構え、小型杖に魔石を装填する
「データ、ハンドグレネードを」
俺はエアジェットで距離を詰め、アサルトライフルを撃つ
ガガガガガッ
防御魔法を削りながらロゼッタの接近を確認、そして散弾を発射
ガシュッ
散弾の大部分がバンパイアに着弾した
防御魔法を削りきったようだ
すでにロゼッタが距離を詰めていたので、攻撃を譲る
「データ、霊札を」
そう言って、ハンドグレネードのピンを抜く
ガキッ ガキキィン
ロゼッタとの切り合いが終わったタイミングで、バンパイアの足元にハンドグレネードを転がす
ドッゴォォォン!
ハンドグレネードの爆発の直後、エアジェットで煙に突っ込みナノマシンシステム2.0を発動
左手で霊札を貼り、ワン・ツーの要領で強化した筋力で右ストレートをぶち込む
ズガッ!
「くっ!」
バンパイアが嫌がった
よし、少し効いたか!?
「こっ…この! 人間共がぁぁぁ!」
バンパイアは怒声を上げた
バンパイアの全身から血液が吹き出す
吹き出た血液はバンパイアの体を包み、柱のようにそそり立った
血液の柱は、無数の鋭い棘を生み出しながら俺に向かって上端を振るう
鞭のように血液の棘の塊を叩きつけてきた
ザクッ…
「ぐあぁっ…!」
体を反らして避けようとしたが、軌道が変化して横腹を抉られる
続けてバンパイアは、俺を無視して血液の柱をロゼッタに向けた
ドガッ!
ロゼッタは柱の攻撃を避けたが、地面に着弾した柱がそこにバンパイアの体を引き寄せ噛みつきを狙っ
「…あぐっ!?」
ロゼッタの左腕にバンパイアが牙を突き立てた
まるで、俺が使う引き寄せの魔法弾のように高速移動をしたバンパイアは、あの一瞬でロゼッタの首に牙を突き刺そうとした
だがロゼッタがそれに反応し、左腕で防御したのだ
シャッ!
ロゼッタが片手剣を振るうが、バンパイアは余裕を持って距離を取る
そして、バンパイアが呪文を唱えた
「ラーズ、ロゼッタを守れ!」
ジードが叫びながら土属性魔法を展開し、土壁を作る
俺はエアジェットでロゼッタの前に飛び出し、ラウンドシールドを構える
ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ!
血液が四つの弾を作り、俺達に向けて打ち出された
土壁を粉砕、魔法防御や防御魔法を撃ち抜いて俺達は吹っ飛ばされた
「ぐぁ…」
衝撃で左腕が折れた
抉られた腹の出血も酷い
だが、なんとか生きている
まずいな、こんな威力の攻撃魔法を持っていたのか
まるでロケットランチャーを乱射されたみたいだ
もう一回撃たれたら生き残れる気がしない
せめて鎧があればな
ナノマシンシステム2.0の硬質化した皮膚があるとはいえ、あの火力相手じゃ焼石に水だ
ナノマシン群で治療し、カプセルワームを傷に貼り付けながらバンパイアの様子を見ると、奴はロゼッタの様子を伺っていた
「うあぁぁぁ…!」
不意に、ロゼッタが呻き声をあげる
振り向くと、ロゼッタがバンパイアに噛みつかれた左腕を押さえている
「ご主人! ロゼッタの腕の傷に黒い魔力が入り込んでいるよ! バンパイアの呪いによる攻撃の可能性が高いよ!」
バンパイアは、吸血することによって対象を僕にするという伝説がある
正確には、自身の魔力を呪いという形で対象の霊体に注入して自由を奪う
そして、ある程度行動をコントロールできるのだ
「ジード、ロゼッタがバンパイアの呪いを受けた! 護符で解呪できませんか!?」
まずい、ロゼッタが動けなくなったら…
「やってみる! ラーズ、しばらく時間を稼げ……なっ!?」
その時、すーっと、リィがロゼッタの前にやって来た
「ヒャンッ」 パクっ…
リィは、ロゼッタの腕の傷を咥える
「…リィ!?」
俺は、バンパイアを警戒しながらリィを見る
「ご主人、リィが黒い魔力を吸い取っているよ! ロゼッタの霊体からバンパイアの魔力が消えていく!」
暫くすると、リィはロゼッタの腕から口を放す
ペッ… ビチャッ
リィが口から黒いものを吐き出すと、それはもやになって消えてしまった
「か、解呪したのか?」
ジードが驚愕してリィを見る
「解呪じゃないよ! 呪いの霊的構造を霊体の唾でくるんで捨てた…、オブラートみたいな感じと考察するよ!」
「ば、バカな…! 我の魔力を!?」
気がつくとバンパイアも驚いていた
いや、お前もかよ!
「ありがとぉ、リィ」
ロゼッタは大丈夫そうだ
よし、仕切り直しだ
だが、バンパイアは強い…、どうするか?
このままだと負ける
黒竜を助けたい、バンパイアなんかに喰わせたくない…
リィも頑張ってくれた、データ2も温存している
ロゼッタは復帰、ジードもまだいけるはず…
…うん?
その時、思い付いた
何で…
何で俺達だけが戦ってるんだ?
「ジード!」
俺はジードを呼ぶ
狙うならこれだ、これしかない!
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