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135話 黒竜の洞窟1

用語説明w

ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意、魔法不可の弓も使う

ロゼッタ:MEB随伴分隊の女性隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)

データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している

リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている

ヒコザエモン:泉竜神社の宮司で霊能力者。眼鏡をかけたエルフ


「いきなり見つけてしまった…」


「ほんとだねぇー」



黒竜がいた、魔属性環境になってしまったあの森の調査に出発する日の朝、隊舎に出勤するとゼヌ小隊長が調査メンバーを選んでくれていた

メンバーは、ジードとロゼッタだ


今回の調査依頼は、あの森の奥で何度か大きなエネルギー反応があったことによる

強力な何者かが戦った可能性が高いらしい

黒竜、若しくは同レベルの存在の可能性があり、まともに戦っても勝てるわけないので、逃げることを念頭に今回は高機動力の隊員が選抜された


それに加え、俺達の後で調査を行った別の小隊が、黒竜がいた洞窟を発見できなかったということもある

俺が選ばれた理由は一度黒竜の姿を見ており、黒竜の所在を見つけられる可能性が高い…かもしれないからだろう

そんなわけで、変なプレッシャーを感じていた調査任務だったのだ




「…入り口が壊されているようだな」

ジードが入り口を観察している


下に川が流れる崖に近い斜面の中腹にぽっかりと洞窟が口を空けているが、周囲が黒焦げ、陥没して岩や土が飛び散っている


魔属性中毒だったお陰で記憶が曖昧だが、この辺の景色は見覚えがある気がする

俺が出てきた洞窟の出口とみてよさそうだ


「リィ、黒竜の気配はするか?」


「ヒャン…ヒャン!」


俺が洞窟の中を覗き込みながらリィに聞くと、警戒するような鳴き声が帰って来た



「…」 「…」 「…」


三人で顔を見合わせる



「…リィ、奥に何かいるのか?」


「ヒャン!」


警戒心丸出しのリィ

こんなリィは初めて見た


まぁ、この状況を考えれば、洞窟の入り口をこじ開けた奴がどこかにいるってことは明らかだ



「…報告と応援要請をする。その後、洞窟内を調査だ。二人とも戦闘の準備をしておけ。魔属性対策の護符も貼付しろよ」

ジードが指示を出す


この護符は、泉竜神社のヒコザエモンさんが用意してくれた物だ

高濃度の魔属性環境に入っても、ある程度人体を守ってくれる


……





俺達は洞窟を中へと進んでいく

先頭はデータ2の外部稼働ユニットだ



…進んで行くと、だんだんと悪寒がしてくる

洞窟の中から殺気が撒き散らされているような感じだ


間違いなく、何かが奥にいる


「この殺気は、あの黒竜のものか?」

ジードが聞いてくる


「はっきりとは分かりませんが、違うと思います」


そう、あの黒竜とは違う気がする

何で分かるのかと言われてもそう感じるとしか答えようがないが



しばらく進むと、川の音が大きくなり広い空間に出る

ここは覚えがある

俺とリィが寝かされていた、あの黒竜の洞窟だろう


「音と熱源、霊体感知、竜と思われる大型の個体と正体不明の個体がいるよ!」

データが報告する



言葉の通り、俺達の視界の先に黒竜が見える

黒竜は地面に伏せて動かない

だが、呼吸音が聞こえるので生きていることが分かる


俺はちょっとホッとする

こいつは俺とリィの命に恩人だからな



そして、さっきから殺気を撒き散らしている奴の姿も確認できた

やはり、この不快な殺気は黒竜のものではなかった

前に会ったとき、黒竜は無愛想だが俺と普通に会話を交わしたんだ

こんな気持ち悪い、威圧するような殺気を撒き散らす奴じゃなかった


俺は、殺気を発している方を観察する

そいつは人間と同じ姿をしている

人間と同じ体格、二本の腕、二本足…、一見すると人間だ


だが、人間と同じ姿をした、人間とは異なるものなどいくらでもいる

こいつは、間違いなくその類いだろう



そいつは、黒竜に左手を向けていた

黒竜は動けないのか、そいつを睨み付けている



改めて見回すと、洞窟内部にはいくつもの傷が有り、一部が崩落して日の光が入ってきている

戦いがあったのだろう、黒竜も傷を負っている



「ご主人! 体温が低く、霊体のサイズが大きい、アンデッドの特徴を確認できるよ!」


やはり人間ではなかったようだ



「…人間か? なぜこんな所にいるのだ」

そいつは声を発した



俺は銃を構える

それに続いて、ロゼッタとジードも戦闘体勢を取った



「…」


「…」



探り合うための沈黙


なぜ、黒竜とアンデッドが戦っている?

そもそも、あの竜は俺を助けた黒竜なのか?



「おい! お前、あの時の黒竜だろ! 何やってるんだ? まさか、やられてるのか」

俺はアンデッドの動きを警戒しながら、黒竜に声をかける


「グルル…」

歯を剥き出す黒竜


反応した、やはり俺を助けた黒竜だ



「…貴様、まさかこの竜を知っているとでも言うのか?」

アンデッドが俺に顔を向ける


「ちょっと縁があってね。あんたは何者だ? その竜に何をしている?」


俺が問うと、バンパイアは不快感を顕にする


「人間ごときが口の利き方に気を付けろ。我はアンデッドの頂点、バイパイアだぞ」

尊大な態度でバンパイアは口を開いた


多分、こいつは強い

()()させている殺気の量でそれは明らかだ


俺は改めてバンパイアを観察する


…さっきから俺には、バンパイアが俺達と戦う気が無いように感じる

こいつからは、殺すと決めた時のデモトス先生のような、殺気を()()させられる感じを受けない

うまく言えないが、威嚇に近い殺気に感じ、俺達と戦いたくないという本音が垣間見える気がするのだ


実際、イラつきながらも攻撃はしてこない



「…答えろ、その竜に何をしている?」

俺は態度を崩さずに続ける


ピクリと怒りに顔を歪めるが、戦いを避けたいのかバンパイアは質問に答えた


「…ただ、この竜を喰らうだけだ。貴様らが邪魔をしなければ何もせぬ。殺されたく無ければさっさと消えろ」


「グルル…」


黒竜がまた唸る

さっきからバンパイアは左手を黒竜に向け続けている

どうやら、黒竜は何かの力によって動きを封じられているようだ



「どうやら何かの魔法で竜の動きを封じているみたいだな。ラーズ、どうする気だ?」


ジードが尋ねる

戦うか撤退か、決断は早い方がいい


「ジード、ロゼッタ、力を貸してもらえませんか? あの黒竜は、俺を助けた奴です」


「だが、バンパイアは危険だぞ…?」



アンデッドとは死体のモンスターだ

正確には、生体反応が無くなった生物の体に特殊な霊体が宿る、若しくは霊体が変質したモンスターだ

生命力を数値で表すなら、マイナスの数値を表す状態だ


だが、高位のアンデッドの場合は生体反応に近い反応を持つようになる

こうなったアンデッドは危険だ

強力な力を持つようになる


生物の霊体が傷を負うと、肉体にもその傷の影響が出る

その逆で、強力なアンデッドの霊体が死体に影響を与え、あたかも生体反応のような動きを見せるのだ


一番危険なのは思考力だ

通常のアンデッドは、霊体の脳の情報で本能的な動きをする

だが、高位のアンデッドは死体の脳が霊体の影響で活動を始める

霊体と肉体の脳で思考を始めるのだ

その思考プロセスは最早生物と変わらず、知能が人間を超える者もいる


結論、肉体が活動を行うほどの力を持ったアンデッドは()()()

そして、バンパイアはそのヤバいアンデッドの代名詞だ



そして、バンパイアは霊体を喰らう

正確には獲物の霊体や魔力を吸収して力を増すのだ


竜を喰らえる機会なんてそうそう無い

バンパイアはこの機会にどうしても黒竜を喰らいたいのだろう


「あのバンパイアが、竜を喰らって力をつけるのは危険です。それに、奴は黒竜の動きを封じる魔法を使っていて余裕がなさそうです。今が戦うチャンスだと思うんです」


闘いに消極的なときに責める

積極的になったら逃げる、デモトス先生の教えだ


「しかし…」

ジードは渋い顔をする


「ラーズ、もっと素直に言いなよぉ。本音を言わないと真面目なジードに伝わらないよぉ?」

ロゼッタがイタズラっぽく笑う


俺は少しだけ考え、言い直す


「…ジード、あの黒竜は俺とリィの命の恩人で、俺は借りを返したい。お願いです、力を貸してください」


ふぅ…、とジードがため息をつく


「応援も呼んだ。バンパイアの強化を見逃すのは危険で、今回の異変の原因も奴の可能性が高い。戦うメリットはあるか…」


「ジード…! ありがとうございます!」


「だが、危険を感じたら撤退を命令する! その時は絶対に黒竜を諦めろ! わかったな!」


「了解!」 「了解ぃー」



ジードは素早く補助魔法をかける

「硬化魔法(小)」「魔法防御(小)」「防御魔法(小)」


更に、「身体強化(小)」


「バンパイアは下手するとBランクモンスターだ! 無理は絶対にするなよ!」



ジードの声を受けながら、俺とロゼッタはバイパイアに向かう


忌々しげに顔を歪めるバンパイア

左腕を黒竜に向けたまま宙を浮いてそのままの姿勢で近づいてきた


「下等な人間ごときが! 我に楯突くなら容赦はせんぞ!」


バンパイアは、左手を黒竜に向けたまま襲いかかってきた

右手を向けて、



ボヒュッ ボヒュッ!



黒い玉が打ち出される

恐らく魔属性の投射魔法だ


俺とロゼッタは左右に別れて避ける

ロゼッタが一気に間合いを詰めて青い片手剣を一閃



ガギィィィン…!



バンパイアは、右手を剣に変えてロゼッタの剣を受け止めた


「うそぉ!?」

ロゼッタが慌てて飛び退く


バンパイアの右手は、血液を魔属性の魔法で固めたような嫌悪感を抱かせる色をしていた




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