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134話 中間テスト

用語説明w

デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む

フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している


フル装備で中庭に出ると、デモトス先生が口を開いた


「ラーズ、これから中間テストを行う」


「ちゅ、中間テストですか?」


デモトス先生は頷く


「ちなみに、期末テストと卒業テストもあるからしっかり乗り越えるように」


テスト多いな!


デモトス先生の試験…、俺はもう知ってるぞ

試験の失敗は下手すりゃ死だ

死にたくない!

考えろ! ヒントを探せ! 集中しろ!


最初から本気になった俺の様子を見て、デモトス先生が満足そうに微笑む


「うん、成長したね」


そりゃ、あれだけ何度も殺されかければ成長もしますよ!


「この世を支配するエントロピー増大の法則を知ってるかね?」

デモトス先生は講義を始めるかのように話す


だがこれはテストだ、油断はできない


「物事は必ず乱雑さを増していく、という法則です」


「そうだ。熱力学第二法則とも言う。星も、自然も、温度も、全てはいつかその姿を失い拡散していく、という法則だ」


「はい…」


「だが、宇宙の大原則であるこの法則に唯一抗っている存在がある。それは何だね?」


「は、はい。生命です!」


デモトス先生が微笑む


「素晴らしい、その通りだ。生命は世界の乱雑さを減らしながら、栄養を、資源をあつめて成長していく。そう、エントロピー増大の法則に抗っているのだ」


「…」


「だが、生命の時間は少ない。宇宙の大原則に抗える時間はほんの少しだ。では、生命がその時間で得たものは何だと思うかね?」


「えっと…」

なんだ、何ができるんだ!?


「答えは選択だ。宇宙の時間に比べれば一瞬とはいえ、生命が生きてる間はエントロピー増大の法則に抗うという選択ができる自由を得たのだ。もちろん抗うことをやめることもまた自由だ」



そういうと、デモトス先生の雰囲気が変わった

話は終わりということだろう


この殺気は…、風の道化師の殺気と同じだ

殺気の焦点を自分に合わせられたような、膨大な殺意を集中されているような恐怖だ

一気に冷たい汗が吹き出す



「ラーズ、裏の仕事とはどんなものだと思うかね?」


とんでもない殺気を出しながら、デモトス先生は問いを続ける

精神的な疲労で集中力が途切れてしまいそうだ…!


「ぼ、暴力とかですか?」


「喧嘩で死んで()()()()、リンチしたら()()()()()()()、そんなものはただの犯罪行為だ。裏の仕事とは、自分で選択して命を奪うことだ」


選択した上で…殺す

この怖さを、デモトス先生の訓練で嫌というほど味わった


「では、始めよう。私も本気で行く、銃でも杖でも好きな武器を使いたまえ」


やっぱり、戦えってことなんですね?


「リィ、データ2、離れてろ。これは俺の中間テストだからな」


そう言って、俺はナノマシンシステム2.0をゆっくり起動する

デモトス先生へ、俺一人でやりますというアピールだ


俺じゃ、とてもじゃないがリィやデータ2を守りきれない


俺は陸戦銃を構える

短期決戦だ



ガガガガガッ!



アサルトライフルを撃つ


「…っ!?」


が、デモトス先生の姿が透けて消えていく



ガッ!


「うわっ!?」



視界の横からナイフで切りつけられる

ラウンドシールドでガード、危ねぇ!


殺気で誘導されたのか?

デモトス先生の姿が朧気に見える


うん、無理だ

よし決めた


俺は覚悟を決める


ナイフを構え、ラウンドシールドの裏でハンドグレネードをこっそり握る



ヒュッ



ナイフを突きながら、ハンドグレネードを転がす

一瞬その場に留まってフェイント、ホバーブーツのエアジェットで脱出!



ドオォォォン!



ハンドグレネードが爆発する


俺は…、このまま隊舎の柵にむかう


もちろん! 柵を乗り越えるためだ!

俺は逃げると決めた! ()()したんだ! 文句あるか!



バシッ!


「うおぁ!?」



空中で足に衝撃があり、体勢を崩す



ドガァッ!



受け身…からの、脱出!

俺は、一気にエアジェットで跳ぶ…


「えぇぇぇっ!?」


動きを読まれていたのか、柵の上にデモトス先生が立っていた

ナイフを突き出し、蹴りと見せかけてデモトス先生の立っている柵を蹴って反転する


直線距離はホバーブーツの方が上だ!

全て出しきれ! 隊舎の敷地を突っ切って反対側から…


その時、黒い影を伴ってデモトス先生が俺の進行方向に現れた



「な…!?」


何ですか、それ!?

反則じゃん!


「これは忍術の一つだ。私の特技(スキル)だね」

事も無げにデモトス先生は言う


そう言えば、デモトス先生が魔法や特技(スキル)を使えたっておかしくない

何で使えないことを前提に戦ってたんだ、俺のバカ!



「合格だ、ラーズ」


「え!?」


デモトス先生が微笑んだ

殺気も消えた、本当に終わりらしい


「ラーズ、生きるものには少しとはいえ選択の自由がある。非生物である物質には選択の余地などなく、ただエントロピー増大の法則に流され姿を変えていくけだ」

デモトス先生が続ける


「逃げることも自由、戦うことも自由、諦めることも抗うことも自由だ。一番大切なことは、選択の自由を奪われないことだ」


「は、はい」


「選択できない状況、これは命を持たない路上の石ころと同じ、ただあるがままに姿を失うのを待つだけの状態だ。生きたいなら少しでもいい、必ず選択の自由を守るのだよ。特にあの森では、何が起こるか分からないからね」


「…はい!」


「格上だと思ったら逃げることは恥じゃない。戦いの本質はサバイバルだ。生き残ることが至上命題だ、生きるための選択肢を守るようにな」


「はい、ありがとうございます!」




・・・・・・




疲れきった俺を見て、ゼヌ小隊長が今日は帰っていいと言ってくれた

調査任務は明日出発、メンバーはゼヌ小隊長が決めておくとのことだ


デモトス先生は、しばらく調査から離れるらしい

あまり長期の調査は目をつけられる可能性があるからだ




「フィーナ、飯食いにいこうぜ」


「あ、お帰り。行く行く!」


帰ってフィーナと飯を食いに行く

近所のファミレスだ


「最近忙しすぎない? ずっと仕事だよね」


「うん、特別クエスト担当をなめてた。こんなに連続でクエストに行かされるとは思わなかったよ」


しかも、隊員二人だけでだ

クエストによってはなかなか厳しい場合もある


「でも、もうすぐ属性装備が作れるんでしょ? お金たまってよかったじゃん」


「いや、そりゃそうなんだけど、忙しすぎるんだよ…。フィーナの方はどうなんだよ、一億ゴルドの借金は」


フィーナは、自分に武器を一億ゴルドで買ったらしい

どんな武器なんだ


「そんなに早く返せないよ。ゆっくり払って行くつもり。あ、見る? 私の新しい武器」


フィーナがPITに自分の武器のカタログを表示させて見せてくる


「何これ、布?」


「羽衣だよー! 宝貝(パオペエ)の一種で、氣を流すと硬度が変えられて、闘氣(オーラ)の浸透率もいいんだよ。綺麗な色でしょ」



宝貝(パオペエ)


魔道具が魔力を使うのと同様に、氣を使うことでその特性を発揮する道具だ

作るには専門技術が必要で、当然値段が高い



「…だから何なんだよ、その不思議武器は! こっちは鎧一つでこんなに苦労してるってのに」


「属性防具は充分貴重だよ。そもそも勝ち負けじゃないけど。ねぇ、それより、魔属性中毒になった森にまた行くんでしょ? 大丈夫なの…」


「調査だけだから大丈夫だと思うよ。エネルギー反応があったからその原因を調べるだけだし」


俺を助けてくれたあの黒竜が暴れるって感じはしなかったんだけどな

そもそも俺が行ったって、またあの洞窟と黒竜を見つけられるとも限らないし


「…気を付けてよ?」


「分かってるよ。フィーナこそ、Bランクだからって油断するなよ? 相手にするモンスターだってそれだけ強いんだから」


「分かってるよー。たった二人でクエスト回している防衛軍よりは、ちゃんとパーティを組めるうちの騎士団の方が安全だし」


「…確かに」


防衛軍の人手不足は深刻だ

なんとかならない…だろうな




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