12話 出撃と負傷
用語説明w
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
ジード:情報担当の隊員
ロゼッタ:MEB随伴分隊の隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)
出撃命令が下った
俺にとっては二回目の防衛作戦だ
後一時間で非番だったのに…!
なんて心で泣きながら、俺は作戦会議に出ている
「今回は、オートマトン一小隊規模とミノタウロスと思われるモンスター2体です」
角がある魔族系の男性隊員、ジードが現状を説明している
情報担当だ
「現在、現地の守備隊が応戦中ですが時間はあまりありません」
「オートマトンの武装は?」
ゼヌ小隊長が確認する
「自動小銃とロケットランチャーを確認しています」
「市街地の入り口で建物もあるし、待ち伏せて面殲滅でどうかしら。側面を射手とMEBで射撃、前衛が防御しながら範囲魔法でどう?」
「異義なし、了解です!」
今回は敵の数が多いため、他の小隊から応援を出してもらい、合同防衛作戦となるらしい
規模の大きい戦闘は初めてだ
緊張する!
・・・・・・
現場はビルの立ち並ぶ市街地
雑居ビルに囲まれた大通りを、人型の自立ロボットであるオートマトンが銃を乱射しながら進んでいる
俺は今回も前衛で強襲担当
今回はサイモン分隊長は非番のため、MEB随伴分隊でサイモン分隊長の部下のロゼッタが相方だ
ロゼッタは、白髪の髪を肩まで伸ばしたノーマンの女性隊員
眠そうな目が印象的だ
「ラーズです、二回目の出撃ですがよろしくお願いします」
「聞いてるよぉ、よろしくねぇラーズ」
「狙撃班の狙撃が始まってから強襲でいいんですよね?」
「白髪おんなじだねぇ」
「あ、そ、そっすね…」
確かに俺も白髪だ
だが、目の色は反対で俺は青、ロゼッタは赤色をしている
「大丈夫、あたしがスタート言うからぁ、ホバーブーツで近づいて優先的にオートマトンを狙ってねぇ」
ロゼッタが眠そうな口調で言う
緊張感ねーな
友軍の現地の守備隊が意図的に下がっていることで、戦線が近づいてきている
東側の少し離れたビル影で待機
近くのビルには、応援の範囲魔法担当が数人待機中のはずだ
「こちら情報1、敵の先頭が狙撃ポイントにはいる。狙撃班は敵部隊の中心が狙撃ポイントに入り次第攻撃を開始せよ」
インカムから指示が来る
「射手班了解」
「MEB1了解」
俺は陸戦銃のグレネードの装填を再度確認し、緊張しながら指示を待つ
ロゼッタの方を見ると、青いきれいな片手剣を抜き電撃魔法の付加をパリパリと指で遊んでいた
余裕がスゲーな
シュゴオォォォォォォォ…!
後方からロケットランチャーと思われる白煙の帯が三本上がった
「行こぅ」
ロゼッタが軽く言って、壁を走りながら迎撃ポイントに向かう
「早ぇ!」
…とんでもない速さだ!
ホバーブーツの俺が追い付けないって、強化人間か!?
後で聞いた話だが
ロゼッタは、先天的に高い身体能力を持っているらしい
その身体能力は固有特性と認められている
固有特性とは個人で持つ優れた特性のこと
これを持っていると、一目置かれる兵士となる
確かに固有特性ってスゲーわ
チュドオォォォォォォォン!
現場にはオートマトンの残骸が散らばっていた
ロケットランチャーで数体が爆発
更に、ビルからの雷属性範囲魔法と爆破の範囲魔法で数体が行動を停止した
「残りオートマトン4、ミノタウロス2。範囲魔法班は撤退しろ、オートマトンのロケットランチャーで狙われるぞ!」
「魔法班了解! 撤退します」
「遊撃1、引き継ぎまぁす」
ロゼッタが答えながら、ビルの隙間からオートマトンの一体を切り伏せる
さらに、魔石杖を振って土属性魔法弾で土壁を道路に作っていった
弾除けか、手際いいな
俺もビルの隙間からグレネードを撃つ
しかし、オートマトンの近くに着弾したが当たらない
くそッ!
するとオートマトンが俺に気がついたようで、射撃がこっちに向かって集中した
ガガガガガ…! ドガガガッ! ガガガガッ!
「うおぉぉっ!?」
か、完全に狙われてるって! やベーよ!
ビル影に身を隠し、他の場所に移動する
その時…
ドガァァァン!
爆発音がした
「ラーズ。そこからどんどん撃って、敵の注意を引き付けてねぇ」
ロゼッタの声がインカムから聞こえる
見ると、ロゼッタが二体のオートマトンを破壊していた
言われた通り、すぐにビルの隙間からアサルトライフルを撃つ
オートマトンが反応し、俺に銃を向けると…
ザシュッ!
ロゼッタがあっという間に距離を詰めて切り裂く
いや、違う…
斬撃が明らかに飛んでいる!?
凄すぎて、囮しか出来てないよ!
「…あっ!」
その時、ビル影にミノタウロスが見えた
銃を避けて大通りに出ず、裏道から進んでやがるんだ
「ラーズ、一体足止めおねがぁい!」
ロゼッタがミノタウロスを狙ってビルの隙間に消える
ミノタウロスか
パワー系のモンスターだが、オートマトンの銃やロケットランチャーの方が怖い
近接攻撃しかないし、こっちには銃があるからな
俺はモ魔で風属性の竜巻魔法(小)をロード
ボッ!
ホバーブーツのエアジェットで、ビルの隙間から見えているミノタウロスに一気に接近する
ぶんっ!
「…えっ!?」
ミノタウロスが振りかぶって何かを投げつけてきた
ドガァッ!
「ぐあッ!」
エアジェットで飛び込んだ瞬間に、いきなり散弾のように石が飛んできた
瓦礫の破片か!?
避けられるか、こんなの!
右足に石が直撃し、俺はバランスを崩して吹っ飛ぶ
ズガァッ!
アスファルトの地面に激突
受け身を取るが、凄い衝撃で呼吸が止まる!
吐くことも吸い込むことも出来ない…
完全に意表を突かれた
ミノタウロス君には近接攻撃しかないと思い込んでいました
…くそっ、敵がいるのに寝てられない
起きろ!
ズキッッッッ!
「いっ…!」
右足に激しい痛みを感じて、転んでしまう
痛みで動けない…!
何だ、何があった!?
ミノタウロスが片手斧を振り上げて走って近づいて来る
殺る気満々だ
ヤバいヤバいヤバい!
落ち着け俺!
ドンッ!
「ヴモォッ!」
グレネードを撃つ
ミノタウロスの腹に直撃し爆発、血まみれの穴が空いた
…だが、一発では倒せない
グレネードは弾切れ、リロード時間はなさそうだ
基本だ、基本を思い出せ! 足だ!
俺はアサルトライフルをミノタウロスの膝に集中して撃ち込む
ドガガがガガ!
「グモォォッ」
ドオッ…
ミノタウロスが、バランスを崩して倒れる
だが、ミノタウロスは立ち上がるのを止めて、頭を腕でガードしながら這って近づいてきた
近寄られたら殺される!
ガガガガガ…!
俺はアサルトライフルを連射する
だが、顔を撃っても腕でガードされ致命傷が与えられない
くそっ! 左足は動く!
左足のホバーブーツのエアジェットを噴射し、なんとか真後ろに飛ぶ
ボッ! ズシャッッ……!
「ぐぅぅ…痛い…」
右足に死ぬほどの痛みが響いた
だがダメだ、ミノタウロスの方が早そうだ
追い付かれる…!
どうする!?
魔石装填型小型杖か?
混乱の魔石を装填してるけど…、効かなかったら死ぬ!
あ、さっきモ魔で風魔法ロードしてたじゃん!
早速モ魔のエンターキー連打で竜巻魔法(小)を実行する
ゴオォォォォ!
「ブモォォォォォ…ッ!」
竜巻がミノタウロスを切り刻み動きを止める
よし、この隙に散弾を装填
アサルトライフルをしこたま喰らい、竜巻で切り刻まれ、両足はもう動かないであろうミノタウロス
どうやら俺の勝ちみたいだな
「地獄で会おうぜ、ベイビー」
俺はどこかで聞いた決め台詞を吐いて、銃を向ける
…ちなみに、二度と会いたくないし、地獄に行くつもりもない
ザシュッ!
「え!?」
突然ロゼッタが上から降ってきて、ミノタウロスの頭に青い美しい剣を差し込んだ
「お疲れぇ」
「…」
今の決め台詞聞かれてないよな?
本日結果、負傷一名(俺)、敵の投石直撃による右足頸骨骨折
生きててよかったです、はい