133話 調査報告会 二回目
用語説明w
魔導法学の三大基本作用力:精神の力である精力、肉体の氣脈の力である氣力、霊体の力である霊力のこと
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
決まっていなかった特別クエストの報酬額が決まった
リザードマンとスフィンクスの討伐報酬 二百四十万ゴルド
シオンと分けて一人百二十万ゴルド
甲冑ムカデとエレメントの討伐報酬 百二十万ゴルド
ダニーと分けて一人六十万ゴルド
これで貯金が四百二十万ゴルド
属性装備まで残り八十万ゴルドだ
メイルが早速手続きをしてくれた
相変わらず、特別クエストは報酬額がいい
「ラーズ、口座には入金したからね。最近どんどん報酬が入ってるけど、バカな使い方しないで堅実にやるんだよ?」
「ありがとうございます、メイル。ただ、私の報酬は全て属性装備の資金に消えてるので大丈夫ですよ」
「…仕事だけの人生もつまらないわよ、ラーズ?」
いや、どっちやねん!
だが、地道に特別クエストを続けただけあり、属性装備まであと八十万ゴルド
つ、ついにゴールが見えてきた!
俺は経理室を出て倉庫に行く
カヤノにサイキックの訓練をお願いしたのだ
俺のサイキックは地味に強くなってきている
と言っても、カヤノやフィーナのように攻撃に使ったり空を飛んだりといった使い方はまだまだ無理だ
「へー、安定してるわね」
「ぐぐぐ…、ど…どうです…か…?」
俺は、テレキネシスで陸戦銃を持ち上げて見せる
目の前に陸戦銃が宙に浮かんでいるのだ
「サイキック訓練を続けてたのね。かなり精力が強くなっているわ」
俺のサイキックは、一時期伸び悩んだ
精力の腕で物を持ち上げる場合、一定の重さを越えると持ち続けることができなかったのだ
そもそも、腕がどうやって物を持っているのか
それは、持ち上げる、持ち上げた物を骨や筋肉で支える、という二つのステップを踏んでいるのだ
だが、精力の腕には実体が無い
つまり、持ち上げた後に支える骨は筋肉のような物が無いのだ
そこで、腕のイメージをやめ、常に下から押し上げるイメージを持ってみた
ヘリコプターのホバリングが、常に重力と釣り合うように上昇し続けている原理と同じだ
このイメージが出来てから、今までよりも重たいものを持ち上げ、浮かばせ続けることが出来るようになった
だが、浮かべた物体に運動エネルギー与えて飛ばしたりなんてことはまだ出来ない
「イメージ通りの使い方はできそうなの?」
「練習あるのみですね。多少はよくなったんですけど、まだ怖くて実戦では使えていません」
もう少し練習したら、早く御披露目したいぜ
俺の新しい戦闘スタイル…、になったらいいんだけど
サイキックを使った戦闘スタイルってかっこいいよな
「サイキックを直接攻撃や移動に使わないというのは面白い発想よね。そのサイキックの名前は決めたの?」
サイキックには、独自の個性が出る使い方がある
この場合に名前をつけるのが一般的らしい
「サードハンドかキャットハンドで悩んでるんですけど、どうですか?」
「キャットハンドって…、何で猫なの?」
「猫の手も借りたい、みたいな…」
「…」
あれ?
俺ってネーミングセンス無いの?
そんな事ないよね…?
・・・・・・
今日は久しぶりにデモトス先生が隊舎に帰って来た
オズマも来て、久しぶりのバックアップ組織調査の報告会だ
小隊長室のモニターに画像が表示される
「ラーズ、風の道化師と名乗った女で間違いないな?」
ジードが静止画を表示させる
「はい、間違いないですが…」
画像は、俺が路地裏で襲われた時の映像を切り取ったものだ
だが、あの女の顔だけが黒い影に覆われている
「ラーズの動画を確認したが、この女の顔だけが全てこうだった」
ジードは残念そうに言う
「私が肉眼で見たときはちゃんと顔が見えていたのですが…」
「おそらく魔法でしょうね。肉眼でしか顔を認識できない、つまり、直接会った人間にしか顔を見せない。聞いたことがあるわ」
ゼヌ小隊長が画像を見ながら言う
「そんな魔法が…」
「だが、顔は見えなくても、声、体格、仕草、参考になる情報はいくらでもあるさ。部下の顔はしっかり写っているしな」
デモトス先生が締めくくる
「デモトス先生に言う通りね。次はオズマ、お願いできる?」
ゼヌ小隊長が同意して、報告を進める
オズマが頷く
「ラーズの画像から、風の道化師の部下が接触していた男を特定できました。過去にテロリストとして逮捕されている男で、おそらくこいつも風の道化師の部下だと考えられます」
俺もそう思っていた
あの男二人は、連携が取れた戦い方をしていた
おそらく、組んで戦うのは初めてじゃない
「更に、トウク大港周辺の捜査の結果、マフィア等の動きが活発化していることが分かりました」
「バックアップ組織の影響なのかしら?」
「これは想像ですが、バックアップ組織が本当の狙いをカモフラージュしている印象を受けます。マフィアの事件捜査に警察の目を向けさせているような…」
「具体的に、マフィアにどんな動きが?」
「薬物事案、小さい組の抗争、恐喝や障害等ですが、明らかに去年の同じ時期よりも増えています。まるで、マフィアを使い捨てにしているようにも感じます」
「捕まったマフィアは何かしゃべってるの?」
オズマは首を振る
「上からの指示だ、と言うのがほとんどですね」
ふーむ、何が狙いなんだろうか?
「次は私かな」
次に、デモトス先生が手を挙げる
「私の調査でも、マフィアの動きが活発化していることが分かった。そして、同時にトウク大港周辺を拠点にしているテロ組織の動きが沈静化していることも判明した」
「沈静化?」
「そうだ。だが、代わりに唯一動いているテロリストに関連のある組織…。それが風の道化師だ」
皆がデモトス先生を見ている
「私も具体的な狙いは分からない。これ以上の調査は私の姿を晒すことになるからね。あと、もう一つ気になることがあってね」
「何ですか?」
「たまに、海から何かの音がすると、住民が言っていたんだよ」
「それは俺も聞きました。巡回中の警察官も聞いているし、住民からも相談されたと」
オズマも口を開く
海からの音
最近になって聞こえるようになったらしい
デモトス先生がSNSを開く
デモトス先生、SNSなんかやってるの!?
そんな驚愕している俺をよそに、デモトス先生がSNSにアップされた海の音を流した
ズズズズズ…
「あれ!?」
それを聞いて、俺は変な声を上げてしまった
「私この音聞きました。風の道化師に絡まれた直後に」
「ふーむ、関連は今のところ不明だが、気にしておいた方がよさそうだね」
デモトス先生がジードに海の画像を送信する
「一応、防衛海軍の知人に調査をお願いしてみますわ」
と、ゼヌ小隊長
「私も湾岸警察と港湾局の入管保安庁に聞いておきます」
オズマも頷く
今日の報告会はこれで終わりとなった
「今日はオズマと喧嘩にならなかったな」
ジードが笑いながら言う
「挑発されなければ喧嘩なんてしませんよ」
「いつも挑発してるのはお前だろうが」
オズマがイラッとした顔をする
「誰がいつ挑発したんですか? 自分の胸に…」
パンッ!
ゼヌ小隊長手を叩く
「はい、おしまいよ。それよりラーズ、魔属性環境になったあの森の調査依頼が来たわ」
「え!? あの森ですか?」
ゼヌ小隊長が頷く
「ちょうどいい、ラーズ。ちょっと中庭に来たまえ」
そこで、デモトス先生が口を開いた
「フル装備をしてきなさい」
…え、何やるの?
めっちゃ怖い