132話 パワードアーマーソルジャーのアドバイス
用語説明w
PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
樹木の影からデータ2が睡眠の魔法弾を打ち続けている
やはり体がでかい分、簡単には眠らない
睡眠属性は精神属性の一種なので、脳や神経に近いほど効果が高い
甲冑ムカデは攻殻が頑丈な分、重いので動きはそこまで早くないのだが、体が長いだけあって立体的に動くので頭を狙いにくいのだ
ボッ! ガゴォッ!
「キシャァーーーーッ!」
ドッゴォン!
「キシャァァァァッ!」
俺とダニーは、何度かの打撃で攻殻を砕く
「データ、ロケットランチャーを出してくれ!」
PITの振動でデータが了解を示し、倉デバイスが動き出す
俺は、モ魔で火属性魔法(小)を読み込む
「ダニー、モ魔で火属性魔法撃ちますよ」
インカムを聞いて、ダニーが背中のスラスターで甲冑ムカデから距離を取る
ボボボゥッ!
「キシャァァァッ」
肉を焼かれ、甲冑ムカデが苦しむ
熱属性である火と冷属性は、範囲内の空間に魔力で熱エネルギーを増減する
つまり、魔法防御力がないと、甲冑の中にまで熱でダメージを与えられるのだ
「動きを止める! 甲冑の穴を攻撃しろ!」
ダニーが、甲冑ムカデの顔にスラスターで突っ込む
ゴゴォン!
「キシャァァーーッ!」
パイルバンカーを口の側面に叩きつけ、そのまま地面に頭を押さえつける
パワードアーマーの出力全開だ
俺は動きが封じられた甲冑ムカデに、倉デバイスからロケットランチャーを引き出して構える
狙うは甲冑の穴だ
ボシューーーー!
ドッガァァァァァン!
十メートルくらいの近い距離からロケット弾が甲冑の穴にめり込み、爆発する
血と肉を撒き散らし、甲冑ムカデの体が、頭から三分の一くらいの場所で半分ちぎれる
「攻撃止めて! 寝たよ! 攻撃止めてーー!」
その時、インカムでデータが叫ぶ
データ2が打ち続けた睡眠の魔法弾の効果がついに出たようだ
甲冑ムカデは動きを止めている
「データ、ハンドグレネードを出してくれ」
「了解だよ!」
ダニーは、甲冑ムカデの頭に登りパイルバンカーの準備をしている
「甲冑の穴にハンドグレネード仕掛けるんでちょっと待ってくださいね」
「分かった、準備できたら言ってくれ」
俺は三つの甲冑の穴にハンドグレネードを仕掛け、甲冑ムカデから離れる
「ダニー、準備OK、やってください」
「了解」
ダニーは甲冑ムカデの脳天にパイルバンカーを構えた
ドッゴォン!
轟音に合わせて起爆スイッチをオン
ドゴォッゴゴォッゴッガァァァァン!
脳天を貫かれ、体内で三ヶ所の爆発、甲冑ムカデは崩れ落ちた
・・・・・・
リィも戻ってきた
周囲に漂っていたエレメントは一掃したらしく、気配はない
「リィ、よくやった。偉いな」
「ヒャンヒャンッ」
俺が誉めながら撫でてやると、リィ嬉しそうにすり寄ってきた
「データ、データ2も問題は特に無いか?」
「無いよ!」「外部稼働ユニットの動きも問題無いよ!」
ダブルデータが同時に答えた
ダニーが、鎧ムカデから魔玉や魔石の原石を採集してくれていた
リィのエレメント退治のお礼だそうだ
「ラーズ、お疲れ! なかなかの大きさだぞ」
「ダニー、採集すいません。前衛ありがとうございました」
ダニーは、パワードアーマーからパイルバンカーとシールドを取り外す
自分の倉デバイスに、一つ一つ装備をしまっていった
「凄い装備ですよね。それだけの重装備をあなたの体格で使いこなせるなんて」
「この外骨格型のパワードアーマーのおかげだな。人工筋肉と外部モーターの動力が無ければ持てる重さじゃない」
大型のシールドでモンスターの突進を止めたり、重いパイルバンカーを取り回すためには、サイモン分隊長のような体格や筋力を増強する必要がある
筋力の補助にはパワードアーマーが一番一般的だ
外部動力による筋力の補助、これは小型のMEBに近い
この装備が普及すれば、もっと一般兵の実力が底上げされるのだが、問題はコストが高いことだ
逆にいえば、ダニーはこのパワードアーマーを自分で揃えられるほど戦場で金を稼いだということだ
ダニーはパイルバンカーもシールドの使い所も秀逸だった
パワードアーマーのパワー頼みの兵士ではなく、間違いなく実力者だ
「そのパワードアーマーいいですよね。重装備なのにスラスターで高速移動もできるなんて」
「だが、思ったよりバッテリーやスラスターの燃料消費が激しいんだよ。戦闘中に切れると装備の重さで動けなくなって詰むからな、かなり気を使うんだよ」
「私もナノマシンシステムを導入してるので身体能力の強化が出来るんですけど、パワードアーマーのバッテリーほど強化時間長くないですよ。充分じゃないですか?」
「そうかな。ま、パワードアーマーは確かに便利だからラーズも買ってみたらどうだ?」
「MEBに乗ってみたいと思ってたんですけど、パワードアーマーなら免許も要らないしいいかもしれなせんね。ちなみにいくらくらいするんですか?」
「重装備含めて、全部で三千万ゴルドくらいかな…」
「た、高い…! けど、性能を考えれば妥当な気もする…。金貯めながら気長に考えてみます…」
俺達は待ち合わせた場所でダニー別れた
ちなみに、ダニーの通り名はメタルソルジャーだった
カッコいい通り名で羨ましい…
MEBとパワードアーマーは、どちらも人体の機能を拡張するという点では同じだ
一番の違いは、サイズだ
パワードアーマーは、アーマーだけあって人体のサイズとそう変わらない
MEBは搭乗兵器だけあって、高さ三メートル以上、大きいものだと二十メートル級の機体も存在する
大きさは強さだ
戦闘でも工事でも、手が届く範囲が広ければ広いほど有利だ
だが、同じく小ささも有利となる場合もある
狭い場所の工事や、的になりにくい小さな体
パワードアーマーは人体の大きさなので、公道を通る場合に免許が必要なかったり歩行者と同じ扱いになったりといった違いもある
要は一長一短ということだ
俺もいつか、パワードアーマーと大型モンスター用のパイルバンカーが欲しいな
・・・・・・
帰りの車の中で、データが話しかけてきた
「ご主人、倉デバイスについてなんだけど!」
「うん、どうした?」
最近、戦闘中は、データに管理権限を渡して倉デバイスを操作させている
特別クエストは二人で受けているので、モンスターに囲まれたり動きの激しいモンスターが相手だとこちらの手数が足りなくなる
そこで、倉デバイスの操作をAIで制御してもらうという苦肉の策を思い付いたのだ
一声かけるだけで、武器や道具をデータが倉デバイスから取り出しておいてくれるので、俺は目の前の戦闘に集中出来るのでかなり便利だ
だが、倉デバイスから武器を取り出すと、準備が出来てすぐに取り出せる訳じゃない
倉デバイスから武器が飛び出しても、自分が取り出したい時まで維持しているのだ
その間、倉デバイスの保存領域と現実世界を空間魔法で繋ぎ続けているのだ
空間魔法を発動している時間が長くなるため、その分の蓄魔力を消費してしまうのだ
「消費量はどれくらい上がるんだ?」
「約四十パーセント増えているよ! 今までの戦闘データだと約四十九時間ほどで蓄魔力が切れるよ!」
四十九時間か、一回の戦闘はそこまで長くなることはない
だが、転戦する場合等は注意しなければならないかもしれないな
よし、データに倉デバイスを操作させた高速武器交換術を倉デバイス術をと呼ぼう
倉デバイス術、いろいろ試してみないとな