131話 パワードアーマーソルジャー
用語説明w
スサノヲ:見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人でジャンク屋
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。戦闘用端末である外部稼働ユニットのデータ2と並行稼働している
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
ロケットハンマー:ハンマーの打突部にロケットの噴射口あり、ジェット噴射の勢いで対象を粉砕する武器
イズミF:ボトルアクション式のスナイパーライフル。命中率が高く多くの弾種に対応している
朝一で隊舎に帰って来てゼヌ小隊長とジードに報告する
風の道化師の部下の顔はデータのアバターが撮影していた
そして、それだけじゃなく風の道化師と名のる女の顔まで撮影できてしまったのだ
「信じられないが、風の道化師本人なのか?」
ジードが言うが、もっともな疑問だ
今まで、オズマ達公安やデモトス先生が調査していたにも関わらず姿を捉えられなかったのだから
「分かりません。ただ、あの殺気は明らかにプロの殺人者って感じでしたけど…」
思い出すだけで背筋が寒くなる
「通り名を知られたということは、ラーズの身元を特定されたってことで間違いないわね。ごまかすためにしょうがなかったとはいえ、今後はこの手の任務にラーズはつかない方がよさそうね」
「デモトスさんの凄さが改めて分かるな。自分の姿を出さずに情報を集める、まさに職人技だ」
確かにそうだ
普通、何か仕事をして成果を上げると良くも悪くも目立ってしまう
それは、こういう裏に近い仕事ではデメリットにしかならない
だが、デモトス先生もうちの隊員も、一流の仕事をする者ほど地味だ
後から、「え!? この仕事はあの人だったの!」とか、「この人、平気な顔でこんな難しいことをやってのけたのか!」と驚く
俺なんか、凄い人と通り名を名乗り合うことがちょっとした自慢になっていたけど、本当に凄いのは通り名さえない一流の仕事人なのかもしれないな
ゼヌ小隊長とジードに映像データを渡して解析をお願いし、俺は特別クエストに向かう
相変わらず、特別クエストは入って来るのだ
現場に向かう前に、ジャンク屋に寄っていく
スサノヲに頼んでいたデータの外部稼働ユニットを受取にいくのだ
ジャンク屋の工房、スサノヲが外部稼働ユニットを起動させてくれていた
「ラーズ、設定は終ってるぜ。こっちのAIはなんて呼ぶんだ?」
データは同期中は同一の人格だが、通常は二つの人格が存在することになる
「データ2だな」
「安直だな」
ほっとけ!
「よろしくな、データとデータ2」
「「うん!」」
PITのアバターと外部稼働ユニットが同時に返事をした
「武装は背中部分にサブマシンガンかアサルトライフル、口腔内に魔石装填型の小型杖を装備している。後付けオプションでモ魔機能も追加できるから買うときは言ってくれ」
外部稼働ユニットのマテリアルドラゴンは、大型犬サイズで四足と二足を使い分ける肉食恐竜型だ
口に付いた牙での近接戦闘、頭から角のように突き出た銃身からの射撃がメインウェポンだ
陸戦銃のアサルトライフルの弾丸を共有したいので威力も射程も高いアサルトライフルを選んだ
「分かった。早速実戦投入してくるよ」
俺は、リィとデータ2を引き連れて特別クエストへ向かった
うむ、俺専用の部隊ができたみたいで嬉しいぞ
・・・・・・
特別クエスト
甲冑ムカデの討伐
『
甲冑ムカデ Dランク
甲冑のような表皮を持つ大型のムカデ
甲冑が弾丸を止めるほど強固で、ライフル弾でないと貫通できない
だが、甲冑を壊せれば有効なダメージを与えられるようになる
体の内部にダメージを与えられる熱魔法による討伐を推奨
』
『
クエスト情報
高速道路の直近に甲冑ムカデが住み着いた
甲冑ムカデの活動の影響でエレメントが集まってきている
道路に被害が出る前に討伐されたし
』
集合場所に全身鎧を着た男性隊員がいた
鎧は駆動装置により身体能力を強化する強化アーマーだろう
通称、パワードアーマーというやつだ
「お疲れ様です、特別クエストの方ですよね?」
「ああ、ダニーだ。よろしくな」
「ラーズです、よろしくお願いします」
ダニーは左手には大型の盾、右手の前腕に槍のような長い武器を装着している
「凄い鎧ですね。右手の武器は槍なんですか?」
ダニーの右手の槍は拳の横に穂先が来ており、柄が肘方向に伸びている
拳の横に穂先があったってリーチが足りないしどうやって使うんだろう?
「ああ、これはパイルバンカーになっているんだ。手で銃を持ち、近づかれたらこのパイルバンカーで粉砕する。背中のスラスターで高速移動も出来るから前衛は任せてくれ」
ダニーのパイルバンカーは、先が笹穂槍という広い刃の槍だ
「パイルバンカーって、杭の形ばかりだと思っていました。そんな広い刃を打ち出す物も有るんですね」
「敵によって付け替えるんだ。敵のサイズがデカいと、ある程度大きい破壊面積が必要だからな」
確かにそうだ
俺が大きいモンスターが苦手な理由がそれだ
弱点を攻撃できればなんとかなるが、そうでないとほぼダメージが通らない
むしろ攻撃を強引に潰されて手痛い反撃を食らうことになる
針を持った小人が人間と戦う際、目や口を守れれば多少刺されても大した怪我は負わないのと同じだ
「俺の仲間です。式神のリィ、外部稼働ユニットのデータ2です」
「ヒャンッ!」 「よろしくね!」
リィとデータ2も挨拶
さあ、出発だ
現場の崖の側にはエレメントが多数漂っていた
「ちっ、多いな。霊札をあまり持ってこなかった」
ダニーがエレメントの数の多さに舌打ちをする
エレメント
ゴーストに近い霊体モンスターで実体がほぼ無い
ガスや煙などを体とし、時に電気や炎を体とする場合もある
ゴーストと同じ霊体なのだが、霊体を構成する霊質が違うためこういう差異がでるのだ
当然、霊体メインなので物質の攻撃は効かない
霊質又は霊属性での攻撃が必要となる
「大丈夫ですよ、リィは霊体を攻撃できるんです。リィ、頼めるか?」
「ヒャンッ!」
吠えるとリィは空に舞い上がり、エレメントを牙で攻撃し始めた
シュアァァァァァ!
噛まれたエレメントが霧散していく
「凄いな、霊体を攻撃できるなんて」
「エレメントはリィに任せましょう」
俺達は崖に沿って移動する
少し進むと、今回のターゲットを発見した
甲冑ムカデだ
丸くとぐろを巻き、眠っているようだ
「デカいな、どうする?」
「とりあえず甲冑を壊さないと。ひたすら攻撃して、砕けたら甲冑の中にハンドグレネードをぶちこむしかないですよね」
「分かった」
「データ2のアサルトライフルじゃ甲冑を壊せないので、ひたすら睡眠の魔石を使わせますので」
「分かった、寝たら攻撃中止だな」
俺は、自分の睡眠の魔石を全部データ2に持たせる
おれ自身はロケットハンマーを背負って、イズミに疑似アダマンタイト芯の徹甲弾を装填する
「先に俺にやらせてくれ。パイルバンカーが攻撃開始の合図だ!」
ダニーが右手の槍を軽く叩く
俺が頷くと、ダニーは甲冑ムカデに近づいていった
腹に向けて、右手の槍を構えると…
ドッゴォン!
「キシャァァァァッ!」
右手のパイルバンカーから穂先が飛び出し突き刺さる
甲冑ムカデの攻殻に大穴が空き、そこからひびが広がった
「すげぇっ!」
「この穂先は硬質の金属炭化物と魔鉱石の超硬質合金だ!ムカデの甲冑ごとき余裕だぜ」
ダニーは右手のパイルバンカーから薬莢を落とす
俺はイズミFでダニーが空けた穴を狙うが、甲冑ムカデが暴れていてとてもじゃないが無理だ
ダンッ!
一発撃つ
甲冑には当たったが、やはり口径が小さすぎて巨大なムカデは動きを止めない
やはり、地道に甲冑を壊していくしかない
俺はロケットハンマーを構えて甲冑ムカデに近づく
ドゴォッ
ムカデの突進をダニーが盾でいなすが、パワードアーマーの出力で全然当たり負けしていない
同時に、右手の槍を突き出して…、
ガッゴォン!
「キシャーーッ!」
また横っ腹にパイルバンカーが大穴を空け、甲冑ムカデが仰け反った
俺もホバーブーツで飛び込み、同時にナノマシンシステム2.0を発動
ロケットハンマーを甲冑ムカデの頭に叩きつける
続けてロケットハンマーのジェットをオン
ボッ! ドゴォッ!
甲冑ムカデの口の部分の甲冑を砕いた
ダニーはパワードアーマーのパワーと防御力で、俺はホバーブーツの機動力でそれぞれ甲冑ムカデの甲冑となっている攻殻を壊せそうだ
相性はいい、油断せずに仕留めよう