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130話 調査任務

用語説明w

バックアップ組織:各地のテロ組織に、資金、技術、人材を提供し、その活動をバックアップする謎の組織


デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む

データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?


デモトス先生から緊急で呼び出された


トウク大港の隣の駅で降りる

駅から少し離れた喫茶店が待ち合わせ場所だ


「やあ、ラーズ。すまないね」

デモトス先生はいつもと変わらずにほほえむ


「お待たせしました」

俺は席につく


「早速だが、今日の任務を伝える」

そう言って、デモトス先生は話し始めた


デモトス先生の調査は、バックアップ組織の風の道化師と呼ばれている女が、トウク大港付近で動いているという情報の調査だ


調査の結果、動きはあるようだがいまだに姿を捉えられない

しかし、風の道化師の部下と思わしき何人かの把握ができたとのこと


そして、今夜その部下が誰かと接触する

その接触相手を把握したいとのことだ



「接触場所はどこなんですか?」


「港近くの路地裏だ。やつらは用心深い、いつも数分顔を合わせて情報交換と物品の授受を行うだけなんだ」


「その場所に行けばいいんですか?」


デモトス先生は頷く


「ラーズは、その時間に道に迷ったふりをして路地裏に入り、データのアバターで奴らの姿を撮影するだけだ。他は何もしなくていい」


「それだけですか?」


デモトス先生は頷く


奴らは裏の人間の匂いに敏感だ

デモトス先生では警戒される


調査に感づかれるわけにはいかない

酔っ払いが偶然に路地に迷い込んだと装い、仲間の顔を隠し撮りするだけでいい

もし失敗しても、そのまま路地を出る




・・・・・・




時間になった

俺は目的の路地を歩いている

この突き当たりはT字の袋小路になっており、そこがデモトス先生が言っていた接触場所だ


改めて考えると、袋小路が接触場所とは良くできている

袋小路なら人が通りかかることがない

用があるか、迷い込む人間しか来ないのだ


俺は缶ビールを持ってその路地を歩く

奥からボソボソと話し声が聞こえていたが、俺の足音で話し声が止んだ


俺は気にせずにT字路を右に曲がる

予想通り、袋小路の奥に男が二人いる


警戒感丸出しでこっちを見ている


俺は、無表情で男達を見る

そして後ろ側を向き、行き止まりであることを確かめる


「ちっ…」


しっかり音を出して舌打ち

俺は道を間違ったんだ、舌打ちだってするさ


男達の顔はデータがアバターで撮影したはずだ

後はこの道を戻って大通りに出るだけ、簡単なお仕事だ



俺は缶ビールを口に運びながら、振り返って路地を戻る



「…っ!?」


突然、目の前に女がいることに気が付く



…誰もいなかったはずだ!


この路地は一本道で、大通りからの街灯の光で薄暗いが見渡せる

いても、気が付かないわけがない

全く気配を感じなかった


恐らく、俺は目を見開いてしまった

驚きが顔に出てしまったはずだ


女はじっと俺の顔を見ている

見られたならしょうがない、驚いたことを隠すのはやめだ


「…」


俺は無言で女の前を通りすぎる

女の顔を思いっきり見ながら、気味悪そうに


それが、突然現れた女に対する普通の反応だろう?



「…一応、捕まえようか」

女が口を開いた


「…え?」


さっきの男二人がT字路から路地まで出てきている

背の高い男と低い男の二人が無言で近づいてきた


背の小さい方が姿勢を低くして突っ込んできた

胴体にタックル狙われる


「ぐっ…何だお前ら!?」


何とか反応し、小さい男の腕の内側に右手を差し入れることができた

右手を相手の左脇に差し込み、壁を背にして倒れないように耐える


組みつく男を背の高い男の盾にしながら姿勢を下げ、相手を引き上げる


「離れろ、この…」


だが、背の高い男が低い男の後ろから拳を振り上げて殴りかかってくる


バシッ


左手でガードするが、勢いを殺せずに顔まで打ち抜かれる

だが、衝撃で小さい男のクラッチが緩んだ


右手で髪を掴んで壁に叩きつける


「痛ぇ…」

唸りながら、もう一度小さい男がタックルに来る


今度は片足を取られる

足を横にして相手の腰の横に添える

倒されたら終わりだ、なんとか耐えろ!


背の高い男がまた殴りかかってくる

片足だと何もできないのでガードするしかない


「離せ!」

小さい男の手から片足を抜こうとするが、


「暴れんじゃねぇ!」


胴体にタックルし直される

しつこい!



ゴガッ!


今度は組付かれる前に、俺は小さい男の頭に頭突きを入れる

だが、背の高い男に肩を殴られ壁に押し込まれる


くそ、こいつら強いし喧嘩慣れしてるな

一人が組み付いて、一人が打撃に徹して絶対に逃がさない戦い方をしやがる


二人を同時に相手は無理だ!

かといって、ナノマシンシステム2.0を使っても、正体不明の女が怖い

どうする!?


その時、黒い服の女が動いた


「…その動き、素人じゃないのね。何者? ここで何をしているの?」


女が手で離れるように指示すると、男二人は手を離して路地の入り口まで下がった


…しっかり逃げ道をふさがれた


もう隠してもしょうがない

本当のこと()言おう



「こっちのセリフだ、いきなり襲ってきやがって! 俺は防衛軍の隊員だぞ!」

身分を傘に着たセリフって、自分で言ってて情けないな


「…防衛軍?」


「そうだ! 防衛軍に手を出す覚悟はあるんだな!? 何が目的だ!」


「…」

女は俺を見つめる


「…」


俺も無言になる

いや、何か言わなきゃ! 何かないか!?


「…どうしてここに来たの?」


何で路地にいるかを聞いてるんろう?

だがとぼける!


「は? 用事でここの小隊に顔を出しただけだ。俺は本来別の…」


「違う。どうしてこの路地に入ったのかを聞いているの」

女が俺の言葉を遮ぎる


「…この路地? たまたま歩いて入っただけだ! なんなんだ、ここはお前らの道なのかよ!?」


そう、たまたま迷い込んだ

これで乗り切るしかない、押し通す


「…」


「…」


お互いに無言で睨み合う

いや、女は睨んでいない、ただ見ているだけだ



「…あなたの所属はどこなの? 名前は?」


「あぁ? 何で部外者に名乗らなきゃいけないんだ!? お前らこそ何者なんだ!」


個人情報を特定されるのはまずい

バックアップ組織は防衛軍内にも入り込んでいるらしいのだ


「…私は風の道化師なんて呼ばれてるの。知らない?」


「…っ!?」


…なにぃぃぃ!

こいつが風の道化師!?


って、しまった! 驚きが顔に出た



「…へぇ、知ってそうね?」


女の表情が、そして雰囲気が冷たくなる

まるで温度が下がったようだ


反応を見られたようだ、ごまかさないとまずい!


「いや、お前なんか知らねぇよ。ただ…」

俺はどうでもいいと言うように目を逸らす


「…」

女は無言で続きを促す


ヤバいぞ、これは殺気だ

恐怖で寒気を感じる

だが、気がつかないふりだ!

殺気に気がつかないけど何か怖い、そんな感じを出すんだ!



「…俺の通り名が道化竜ってんだよ」



「…」

女が、じっとこっちを観察するように見てくる


「…な、何だよ、似てるって思っただけだろ。初対面だしお前なんか知らねえよ」


無理矢理思い付いた言い訳だが、ごまかせるか!?

もうこれで押し通すしかない!


「…ちょっと似てるわね」

女はクスクスと笑う


気が付くと冷たさが消えていた

殺気が消えた? 乗り切ったのか?


だが、俺はどうでもいいと言うように目を逸らす



「…お前、さっき突然この路地に現れたよな? あれはどうやったんだ」


話を無理矢理変える


「ふふ…、それはこれのおかげよ」


女は黒いピッチリとした服を摘まむ

「これ、属性装備なの。魔属性のね」


「ぞ、属性装備…!?」


「魔属性の属性装備には、生物の認識を下げる力があるの」



属性装備は、その属性が持つ特性が付く

魔属性は生命が忌み嫌う属性で、生命は本能的に認識から遠ざける

これにより、認識から外れやすくなり気配を感じにくくする効果がある

同様に生命の気配を魔属性が隠すことで、アンデッドからの認識が下がる効果もある



「ふふっ、勉強になった?」


そう言って、風の道化師と名乗った女は手をヒラヒラさせながら去っていく

男二人もついていった


「ふー…」


冷や汗が止まらない

あの殺気はヤバイ…、怖かった…


俺は路地を出た後、歩きながらデモトス先生にメッセージを送る


返信はすぐに来た

『ご苦労だった。念のため私とは接触しない方がいい。予定通り宿で一泊し、明日隊舎に帰りなさい。私はもうしばらく調査を続けるつもりだ』


俺はデモトス先生の言うとおりにすることにした



ズズズズズ…


海岸を歩いていると海の方から何か音が聞こえる

俺は疲れきった体を引きずりながら宿へと向かった





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