125話 妖精使いのアドバイス
用語説明w
巻物:使い切りの呪文紙で魔法が一つ封印されている
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
倉デバイス:仮想空間魔術を封入し、体積を無視して一定質量を収納できる
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
どうやら、あの機械はレーザーの発射装置らしい
発射装置が向いている方向の壁が融解した
「が、岩石破壊用のレーザー!? ホスト・ゴーレムが動かしてるの?」
ホスト・ゴーレムの頭が向く方向とレーザー照射装置の方向が明らかに連動している
両足を砕かれたホスト・ゴーレムは、立ってはいるがもう動けないので、攻撃方法を変えたようだ
「ご主人! あの装置はキャデラマイス社製の掘削用レーザー照射装置だよ! 魔力補充型の魔玉で電属性熱線魔法をレンズで収束させてレーザーを発射するみたいだよ!」
データがレーザー照射装置の詳細を検索し、報告してくれる
「モ魔と同じ、魔法駆動タイプか…」
恐らく、巻物と同じように、魔玉にレーザーを構成する魔法術式をインストール、魔法発動用の魔力も補充する
更に、その術式を電力で起動するためのバッテリーも内蔵されているはずだ
外部電源であればコンセントを抜いて終わりなのだが、内蔵式であればもう破壊するしかない
「…!」
妖精のピーターがまた魔法を発動する
「…これは?」
俺が聞くと、ピーターがハイファに耳打ちをしている
「耐熱魔法と耐魔力魔法、そして耐雷属性魔法だって。魔法によるレーザーならそれなりに軽減してくれるはずよ」
よ、妖精頭いいな!
「分かりました。私も一個思い付いたことが!」
俺はそう言って、魔石装填型小型杖に火属性照明の魔石を装填する
「攻撃行くわ!」
「湯気でレーザーを弱めます! レーザーは私がガードしますので!」
俺は照明の魔法弾を溜め池に撃ち込む
ボシュッ!
照明の魔法弾が水によって消され、熱によって水蒸気の白い湯気が立ち上がる
俺はラウンドシールドを構えながらホストゴーレムの前に行き、同時に陸戦銃を倉デバイスから取り出す
ハイファは、その間にピーターの鱗粉を体にかけていた
レーザーの発射装置が光る
バシュッ!
照射されたレーザーをラウンドシールドでガード
このレーザーは土木作業用なので安全対策が成されている
レーザー照射地点をレーザーポインターで示してくれるのだ
そこに盾を合わせて防ぐ
蒸気でレーザーを拡散させて威力を落とし、耐熱と耐魔力、耐雷属性を上げた盾で防ぐ
「はぁっ!」
ザンッ!
それを確認して、ハイファが飛んだ
「…と、飛んだ!?」
文字通り、跳躍からその勢いのまま浮遊し、ハイファがゴーレムの首をバトルアックスで飛ばした
同時に俺がアサルトライフルをレーザー発射装置に撃ち込み、レーザー発射レンズをリィが噛み砕いて沈黙させた
・・・・・・
「妖精の鱗粉を体にかけると、短時間だけど空を飛べるのよ。ゴーレムみたいな背の高い相手には、高い部位を攻撃できて便利よ」
ハイファが空を飛んだカラクリを教えてくれた
そしてピーターは、盾から伝わったレーザーの熱で火傷した俺の腕に光る鱗粉をかけてくれている
どうやら、こちらは回復作用のある鱗粉らしい
妖精って便利過ぎるな
「ありがとう、ピーター。もう大丈夫だよ」
お礼を言うと、ピーターは優雅に頭を下げる
「攻撃を誘導してからのガードは助かったわ。おかげで、しっかり頭を狙えたわ」
「攻撃力はハイファの方が圧倒的に上ですからね。当然ですよ」
ただ、サイモン分隊長に借りたラウンドシールドにレーザーで穴が空いてしまった
謝らないとな
「もし頭を狙えなかったら、レーザー対策でゴーレムの弱点の風属性魔法をぶつけようと思っていたのよ。でも核を傷つける可能性もあったから…」
「ハイファは攻撃魔法も使えるんですか?」
「そこまで強くはないんだけど、ピーターに魔力強化魔法を使ってくれればそれなりの威力になるわ。あくまで私の予備の攻撃方法よ」
ハイファは、バトルアックスにはめ込まれた宝玉を見せる
どうやら魔法を強化する杖にもなっているようだ
「予備の攻撃方法…」
予備の攻撃方法は、一流の兵士なら持っているものだ
特に単独や少人数で戦う場合には必要になる
得意な攻撃が通用しない場面はいつか必ずくるからだ
「全ての敵をバトルアックスで処理できるわけじゃないからね。敵によって銃を使ったり魔法を使ったりするし、ピーターにもそれにあった補助魔法を使ってもらっているから」
「なるほど…。ハイファ、使い分けはどうやってるんですか?」
「それは単純なことよ。敵の大きさね」
ハイファは、大型の敵に対してはバトルアックスを使う
大きな武器で攻撃範囲を広げ、武器の大きさで防御範囲を確保
大きい敵と戦う場合は、大きさが有利となるのだ
だが、小さい敵や多数の敵と戦う場合には、大きい武器では隙を晒してしまう
よって、銃や魔法を使う
「…」
話を聞いて思った
ハイファはバトルアックスを振り回す身体能力や、妖精の補助魔法が優秀過ぎる印象がある
だがこれらは、ハイファのスタイルが優れているからこそ生きているのだろう
ハイファの凄さは、高い身体能力や、ピーターの補助魔法での力押しをせず、敵や状況による使い分けを前提としたスタイルだ
万能なスタイルなんてない
一つのスタイルで全ての敵や状況に対応するなんてあり得ないからだ
だからこそ、敵によってスタイルや武器を使い分けられるのは理想だ
更に、妖精のピーターが補助魔法を使い分けるので、より安定感が生まれるのだろう
俺が目指すスタイルも、この使い分けであるべきだ
使い分ける前提なら、ハイファのような大型武器さえも選択肢に入ってくる
「ハイファ、あなたの使い分けるスタイルに感銘を受けました。真似させてもらってもいいですか?」
「え…、そ、そりゃ、いいけど…」
マッスルフェアリーのハイファは恥ずかしそうに了解してくれた
ちなみに、今回の特クエの報酬は、核を壊さずに採取した追加報酬も含めて百万ゴルド
一人で五十万ゴルドとなった
・・・・・・
隊舎に帰ってくると、倉庫にジードがいた
「クエストの帰りか?」
「はい、今帰って来たところです」
ジードは疲れた顔をして、倉庫の棚に黒い四角い板を積み重ねている
「…それって、もしかしてフロッピーディスクですか?」
「ほぅ、お前、フロッピーディスクを知ってるのか」
フロッピーディスク
「神らしきもの」が現れる以前の物質文明で使われていた記録媒体だ
極少の記憶容量にも関わらずデータを読み取るデバイスが出回っていないので、読み取るのに死ぬほど手間がかかるメディアだ
「私、大学で先史文明を専攻してたんですよ。フロッピーの磁気情報を読み取る方法を調べたことがあります」
するとジードがフロッピーを手に取る
「…このフロッピーはただの磁気情報じゃないんだ。魔力回路を雷属性の電磁魔法で変換して磁気情報にしたものでな。これを読み取るには、磁気情報を電磁魔法で読み取って、その情報を機械的に魔力回路に戻す必要があるんだ」
「そ、そんな使い方があるんですか…。 磁気情報ならではの使い方ですね」
「デバイスで読み取れないのがポイントなんだ。一枚一枚を私が電磁魔法で読み取って変換しないといけないからかなり疲れるんだ。これは全部デモトスさんから送られてきて解析を頼まれたものだ…」
「こ、これ全部!?」
フロッピーディスクは三十枚ほどある
「これを一人で全部読み出して解析し、必要なものを公安のオズマに送る必要があってな。なかなか人使いが荒い…」
「お、お疲れ様です…」
バックアップ組織の調査は着々と進んでいるみたいだ
現場で調査しているデモトス先生も大変だが、解析作業をするジードも大変だよな