閑話13 ダンジョンの生態
用語説明w
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
隊舎での待機当番勤務
1991小隊の管内で何かあった場合に、すぐに出動できるように交代で隊員が待機しているのだ
今日は俺とサイモン分隊長が待機当番だ
「今日は平和ですねー」
「…お前は防衛軍のルールを知らないのか? いくら暇だからって、それを口にしたら…」
ビービービーーーーーーー!
「…え?」
「ほら、出動を呼んじまうだろ? このジンクスは高確率で当たるんだぞ」
「私は平和っていっただけですよ!? 暇って言ったのはサイモン分隊長じゃないですか…」
俺達は準備をして車で出動した
シグノイアの西にある農村地帯
「うわぁ…、真っ白ですね」
辺り一面は真っ白な灰で雪景色にも見える
「お疲れ様です!」
防衛軍の隊員が続々と集まってきていた
周辺の小隊から集めたようだ
「この近くにあるウエストダンジョンから火山灰が吹き出しました! 中層フロアが火山エリアに繋がったためと思われます!」
ここの近くにあるウエストダンジョンは中規模ダンジョンだ
このダンジョンから吹き出した火山灰が、ここを通るローカル線の線路に積もってしまい、通行できなくなってしまったらしい
「ここのローカル線は、この付近の集落の唯一の足です! 小隊ごとにエリア分けして線路上の灰を撤去をお願いします!」
仕切っている隊員から地図データをもらい、俺達も割り振られたエリアに向かった
ペアがあるこの世界は、人間には感知できないが何層もの次元が重なっている
人間が住むこの世界のすぐ隣には幽界といわれる次元があり、さらに次元的に移動することができれば、天界、魔界、冥界などの別の世界に行きつく
では、別次元に行く方法は無いのだろうか?
結論を言うと、移動方法はある
一番確実な方法は、召喚術や転移魔法だ
無理矢理別の次元に通り道を繋げる方法で、実際にこの方法によって魔界や天界から知識を持ち帰ることで魔法文明が劇的に進歩したという歴史もある
次は、自然発生した別次元への入り口を使う方法だ
別次元への入り口が自然発生している場所、それは特異点だ
重力が無限大となり、光さえも脱出できない事象の地平線、要するにブラックホールの中心だ
重力よって空間さえもねじ曲げられた先に、別次元への入り口は開いている…らしい
もちろん、ブラックホールに入って確かめた人間はいないし、そもそも遠い宇宙のブラックホールまで行くことができない
ブラックホールを利用した次元の移動は…、まぁ無理だろう
だが、自然発生する別次元への入り口はブラックホールだけではない
なんと、この地上にある
それはダンジョンだ
ダンジョンとは、ダンジョンコアと呼ばれるモンスターの体を指し、ほとんどが洞窟のような形をしている
ダンジョンコアはモンスターだけあって呼吸を必要としており、必ず入り口はこの世界に作られる
呼吸には、この星の大気を必要とするようで、必ずダンジョン内もこの大気で満たされている
ダンジョンに入る冒険者は窒息の心配は無いということだ
同時に、ダンジョンはモンスターであるため魔素を必要とする
この魔素を求めて、より濃い魔素がある深層の次元へと体内の空間を重ねていくのだ
ダンジョンの特徴として、浅い階層は少しずれた次元に、より深い階層は大きくずれたより深層の次元へと重なっていく
深層次元の方が魔界や天界と近いため、ダンジョン内で遭遇するモンスターは深い階層の方が強力になっていく
この次元の重なりは、よく振り子を例に出される
振り子の紐の付け根がダンジョンの入り口でこの世界の次元、振り子の重りをダンジョンの最奥とする
振り子の揺れが大きくなればなるほど、重りの位置は付け根の真下から左右にずれる
このずれが大きいほど、この次元からずれて深層の次元に重なっているという意味だ
そして、振り子の紐の長さがダンジョンの深さを表す
紐が長ければ長いほど、同じ角度の揺れでも重りの動く幅が長くなる
つまり、ダンジョンが深ければ深いほど、深い階層がより深層の次元と重なり、出現するモンスターも強力になるのだ
ダンジョン内の空間は、別の次元と一部が重なっている
重なっている部分にいれば、ダンジョン内の冒険者と別次元のモンスターはお互いに干渉することができる
だが部分的に重なっているだけなので、重なって無い部分に行くとお互いに干渉できなくなる
例えば、冒険者が階段まで行くと、その階のモンスターの次元との重なりが途切れて干渉できなくなる
モンスターから見れば、冒険者の姿が目の前から消えたように見えるはずだ
同様に、逃げたモンスターを追いかけると、モンスターがダンジョンと重なる範囲から出てしまうことがある
その場合はモンスターが壁や何もない空間で消えたように見える
逆に、ダンジョンと重なりあう範囲にモンスターが入ってくると、壁や何もない空間からモンスターが生まれたように出現して見えるのだ
昔はダンジョンがモンスターを産むなんて言われていたらしい
だが正解は、別次元とダンジョン内が少し重ねるだけ
この重なった部分に、その次元のモンスターが入って来ることで魔素を吸収しているのだ
一説には、ダンジョン内の空間を別次元のモンスターに提供することで招き入れ、その魔素を吸収しているとのこと
モンスターとしても、別次元の生存競争にさらされた場所よりダンジョンコアに提供された空間の方が安全でWIN-WINの関係だ
ちなみに冒険者にとっても、多次元のモンスター素材が手に入り、さらにダンジョンに提供された空間に貴重なアーティファクトの入った宝を保管するモンスターまでいるため、ダンジョンは資源の宝庫だ
倒したモンスターの魔素はダンジョンが吸うため、冒険者側もダンジョンに利益を提供してると言えなくもない
ダンジョンコアを狙う冒険者もいるので、利益だけではないのだが…
結論、ダンジョンコアはダンジョンという体を作り、弱い生物しかいないこの世界で呼吸をし、体の先を強いモンスターのいる魔素の濃い次元に繋げて魔素を吸う
弱い生物が入り口から入ってきても、深層のモンスターがダンジョンコアの防衛システムになる
リスクを減らす素晴らしいシステムだ
ちなみに、ダンジョンが次元を重ねるメカニズムはまだ解明されていない
・・・・・・
「ダンジョンってのも、わざわざ別次元の火山に繋げなくてもいいのにな。迷惑な話だぜ」
「ダンジョン内にも火山灰が入り込んで、それを入り口から吐き出すって、ダンジョンのくしゃみってことですよね」
ダンジョンが不具合のある空間に繋がることはある
その場合はダンジョンが自主的に繋がりを切ってダンジョン内の環境をもとに戻すらしい
「もう火山灰の噴出は止まっているみたいですよ。よかったですよね」
「よし、ならさっさと線路の灰をどかして終わりだな」
俺達は、シャベルを持って線路の周りの灰をどかす作業を再開した
……
…
帰り道
「…疲れましたね」
「すぐ終わって良かったじゃねぇか。この電車が止まるとここらの住人が困るからな」
後は、国鉄の職員が安全を確認すれば運転を再開できるだろう
「お、ラーズ止めろ。あの婆さん乗せてやろうぜ」
俺が車を止めると、サイモン分隊長が車を降りる
お婆ちゃんが道を歩いていたのだ
「おう、婆さん。一人で帰りか?」
「そうだよ。畑仕事に出たら帰りの電車が止まってたんだよ」
「再開まではもう少しかかるな。危ないから乗って行きな、送るからよ」
「悪いよ、そんなの」
「婆さん、防衛軍相手に遠慮なんか要らねえよ。車ならすぐだろ? さ、乗った乗った!」
こうして、俺達はお婆ちゃんを家まで送ったのだが、帰りに山ほど野菜をもらってしまった
ご馳走様です
ダンジョン内の宝箱はダンジョンコアがモンスター達に提供します
このサービス?によって、大切な宝をダンジョンが提供する空間に保管しようとモンスターが効率よく集まってきます