122話 防御技術
用語説明w
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
シリントゥ整備長:整備班の整備長。ドワーフのおっさん
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
アンデッドの集団に囲まれて、ぶん殴られたり腹を抉られたりで、かなり負傷してしまった
病院で治療を受けてから帰隊したが、もう夜遅かったので隊舎に泊まることにした
朝、ゼヌ小隊長に報告する
「連日でお疲れ様。負傷したんでしょ? 今日は待機、明日は休みでいいからしっかり休んでね」
「ありがとうございます」
「特別クエストはどう? 辛くない?」
「集落を守ったりスタンピートだったり、重要なクエストが連続したので正直疲れました。ですが、優秀な固有特性を見られるのは勉強になります。それに…」
「それに?」
「自分の課題とか、足りないものも発見できるので」
「ふふっ…、ちゃんと考えてるのね。体に気を付けて頑張ってね」
俺は挨拶をして小隊長室を出る
特クエは、収入はいいが休みが取れないのできつい
さすがに疲労が溜まってきた
「おう、ラーズ。どうだ調子は?」
MEBハンガー内で、シリントゥ整備長がお茶を飲んでいた
「お疲れ様です整備長。これ見てくれませんか?」
俺は、デュラハンのハルバートを見せる
「お、これがデュラハンの武器か。霊的構造付きみたいだし、いいものだぞ。普通はデュラハンと一緒に消えちまうもんだから貴重だしよ」
リビングアーマーやデュラハンなどの幽界のモンスターは、普通倒すと消えてしまう
だが稀に、武器や鎧が消えずに残る場合があるのだ
「そうなんですね。運が良かったです」
「使うのか? 売り払うなら売り先探してやるぞ」
「今回、長物の良さを実感したので使ってみようと思います。混戦時に攻撃と同時に距離を保てるって有利ですよね」
槍やハルバートのような長物は強い
武器のリーチが長いと、それだけで敵を突き放せる
また、短い武器より長い武器の方がガードもしやすい
重いというデメリットはあるが、ナノマシンシステム2.0で筋力を強化すれば強力な武器となる
「ラーズの近接は、剣やハンマーだけで長物は無かったもんな。いいんじゃねえか、使い分けられた方がいろいろ出来るだろ」
「そうですね」
パーティを組んで役割分担をするなら防御担当や近接担当がいるので、俺に長物は必要ない
だが少人数で特別クエストをやる場合は、今回のように俺が防御や近接をやる必要が出てくるのだ
「あ、そういえば整備長。AIの外部稼働ユニットを注文したんですけど見てくれました?」
「ああ、デモトスさんが見せてくれたぞ。スペック的に値段は安いし保険関係だけ確認すればいいと思うぞ」
「ありがとうございます。整備長とジードがそう言ってくれるなら自信を持って買えます」
・・・・・・
なんか、久しぶりに隊舎でゆっくりしている気がする
最近、隊舎には報告以外で来てなかったからだな
「おう、ラーズ!」
中庭に出るとサイモン分隊長とカヤノがいた
「お疲れ様です。二人でなにやってるんですか?」
「隊舎の改築がまもなく終わるんだけどよ、内装工が中庭に車置かせてくれっていうから片付けだよ」
「ドラム缶とか木材とか、古いやつは捨てないとダメね。あ、ラーズ、怪我したって聞いたけど大丈夫だったの?」
カヤノは木材を片付ける手を止めてこっちへ来る
「はい、もう完治しました」
「モンスターは何だったんだよ? ホバーブーツを使うお前が、そんなに攻撃喰らうって珍しいだろ」
「アンデッドなんですけど…、ちょうど良かった、相談に乗ってください」
俺は二人にアンデッドのスタンピートを止めた際に負傷したことを話した
理由は、精霊使いのアフマドを守るために脱出が出来ない状況での近接戦闘となったこと
敵の数が多く、銃やモ魔のリロードをする隙がない
超振動ブレードで近接攻撃を繰り返すが、距離が近いためこっちの被弾も増えてしまった
「…結構危なかったんですよ。たまたまデュラハンのハルバートを拾ってたんですけど、このリーチの長い武器がナノマシン群の筋力強化と相性よくて、なんとか耐えられました」
「へー、高機動タイプなのに、よく足を止めて耐えられたわね」
カヤノが驚く
「確かに、高機動タイプのラーズのスタイルだと足を止めて戦うのはきついよな。その点、ハルバートはいいんじゃないか? リーチを生かして距離を取りながら戦えるからよ」
確かに、何度も敵を突き放せたしガードにも使えて便利だった
「今後も敵に囲まれた際に、味方が建て直す時間を稼ぐ場面ってあるんじゃないかと思うんです。でも防御に関しては不安で…、何か方法がないかなって」
「それなら、俺が昔使ってたラウンドシールドを使ってみるか? 腕に取り付ける小型のタイプだから使いやすいし高機動戦闘にも邪魔にならない。ただ、小さいから銃を受けたり大型の敵の攻撃を受け止めるのはきつい」
「小型の盾…、使ってみたいです! 貸して下さい!」
盾は接近戦では強い
防御範囲があるだけで、攻撃を受けてカウンターを打ち込める
武器で受けなくていいというのは間違いなくメリットだ
今後は、同じ体格の敵の攻撃なら避けると受け止めるの二つを選ぶことができる
サイモン分隊長は、「ちょっと待ってろ」と言って倉庫に探しにいってくれた
サイモン分隊長って面倒見いいよな、ありがとうございます!
相談したら自分の考えがまとまってきた
動けない場合の集団対策
そもそもガードしなくていい立ち回り
こまめにリロード時間が確保できれば近接の必要はない
近接もハルバートを使えば距離を取れる
更に近づかれたら剣や格闘に切り替え
いざというときに盾でガード
大型の敵の攻撃は小型の盾じゃ防げないので、ハルバートなどの長物でガード
完璧な防御は目指さない(目指せない)
…こんな感じかな
特別クエストのおかげで、防御技術が足りないことに気がついた
1991小隊で役割分担だけをやり続けてたら気が付かないことだった
「あ、カヤノにも相談なんですが。サイキックでやってみたいことがあって…」
「どんなこと?」
「今回、敵が密集しすぎて陸戦銃やモ魔、魔石装填型小型杖のリロードをする暇がなく、近接戦闘を強いられたんです。これの対策をサイキックで出来ないかと思い付きまして」
俺は、自分がやりたいサイキックの使い方をカヤノに話す
今回、集団に囲まれてボコボコにされて思い付いたことだ
「…うん、シンプルだし面白いと思うわよ。ただ、精力の繊細なコントロールが必要だから練習しなきゃね」
「はい!」
やった! カヤノの感触は良かった
俺が身に付けたいサイキックのイメージが決まった
後は訓練あるのみだ
サイモン分隊長が戻ってきた
「ほら、これだ」
サイモン分隊長から小さめのラウンドシールドを受けとる
左前腕にベルトで取り付け、必要に応じて盾の内側の取っ手を握るタイプだ
「じゃ、いくぞー」
サイモン分隊長が拳を振り上げる
「え? はい! …ぐはぁっ!」
盾で拳を受けるが吹っ飛ばされる
「おら、腰が高いんだ。いきなり盾持っても簡単にガードなんかできねえぞ。ほら、もう一回だ」
サイモン分隊長は腕を振り上げる
ドゴォッ!
「うがっ!」
この日は、サイモン分隊長にガードのコツを教わり、カヤノにサイキックの訓練をしてもらう
足りなかった物が明確になれば、後は足りない部分をひたすら埋めるだけだ