119話 弓使いのアドバイス
用語説明w
ロケットハンマー:ハンマーの打突部にロケットの噴射口あり、ジェット噴射の勢いで対象を粉砕する武器
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
「リィ、頼むぞ」
俺はリィに指示を出して前に出る
「ガアァァァッ!」
一匹のトロルが襲ってくる
俺は小型杖を振って拘束の魔法弾を当てた
ブンッ!
振るわれるこん棒を避け、膝に散弾を発射
ガシュッ!
「ガアァッ!」
膝を壊してやるが、本命はこいつじゃない
横をすり抜けてもう一匹の所へ
サンダーラットを投げたトロルだ
理由はわからないが、サンダーラットがなついているように見える
離れたらまずい
もう一回サンダーラットを投げつけられて、広範囲に電流を撒き散らされると避けきれない
「ウガアァァァッ!」
トロルはこん棒を振りかぶる
勝負だ!
俺はロケットハンマーを構え、ナノマシンシステム2.0を発動
力がみなぎりロケットハンマーが軽くなる
ブンッ
ゴッ!
一歩出る、体を半時計回りに九十度向きを変え、バックステップしながらロケットハンマーを振る
「ギャッ」
トロルがこん棒の振り下ろしに合わせて、こん棒を握った手にハンマーを叩きつける
後ろに跳び、避けながら打つ引き技だ
強化された筋力でトロルの拳を壊したが、次が本命だ
ボッ! ゴガァッ!
「ギャアァァ!」
ロケットハンマーを返しながらスイッチを入れ、腹に大穴を空けてやる
だが、ロケットハンマーが腹を抉ってもトロルはまだ終わっていなかった
そのまま腕を振り上げる
あ、しまった…これは避けられない…
「ラーズ、離れて!」
その時、アナがインカムで叫んだ
ドゴォッ!
「がっ!」
後ろに飛ぶが、間に合わずぶん殴られる
ガードはしたが腕がいったな
ヒュゥゥゥ… ザシュザシュ!
アナの止めの一撃が降ってきて、魔力で構成された土の棘がトロルを切り裂いた
・・・・・・
「リィ、終わったか?」
「ヒャンッ!」
リィは、サンダーラットを咥えている
トロルになついていたサンダーラットを狩ってもらっていたのだ
役目を果たしたリィを撫でてやると嬉しそうに目を細めた
「ご主人、索敵終了だよ! トロルの殲滅は終了、敵は無しだよ!」
「オッケー、ありがとうデータ」
ようやく一息つけるな
俺は、トロルにぶん殴られて折れた腕に回復薬をかける
ナノマシン群と回復薬でなんとか完治だ
今思うと、フェムトゥの接骨機能は優秀だった
無理矢理でも骨を接いでしまえば、回復が段違いに早くなる
「ラーズ!」
アナが山を降りてきた
かなり疲れた顔をしている
「アナ! お疲れ様でした。敵がいないことは確認済みですよ」
アナは大きな弓を担いでいた
これで曲射をやっていたのか
「ありがとう。たった二人で集落を潰せるとは思わなかったわね」
アナがやりきった顔で笑う
「アナの狙撃のおかげですよ。あの曲射があれば私は必要なかったかもしれませんね」
実際、とどめを刺したのはほとんどがアナの弓だ
「何言ってるの。正体不明の遠距離攻撃があったのに陽動無しで出来るわけないじゃない。その遠距離攻撃を解明したのもラーズなんだから」
アナは首を振った
「そうですかね?」
「実際、連続でサンダーラットを打ち込まれてたら被弾の可能性があったわ」
「でも、私はほとんどたおせませんでしたからね」
「斥候の一番大事な役割は、生き残って少しでも長く陽動を続けることじゃない。火力は他の担当が出せばいいのよ」
戦闘は火力だけじゃ勝てない
それぞれを担当する者が必要なのだ
敵の種類にもよるが、戦闘担当は斥候、防御、近接、範囲、遠距離などのタイプで分類される
斥候は、情報収集と陽動が仕事だ
戦闘の際は敵の弱体化や足止め、陽動をして火力担当が火力を出せる時間を作る
そのために必要なのが生き残れる能力だ
「人の集落が近いし、出来るだけトロルを逃がさず仕留めたかったから良かった。遠距離攻撃持ちのトロルのエースを引き付けてくれたおかげで、私が狙撃に集中出来てここまでの戦果を出せたのよ」
アナはそういうが、ほぼ一人で三十匹近いトロルを狙撃って普通はできない
攻撃範囲は範囲魔法(大)に劣るが、手数と射程は魔法を付加した曲射の方が上だ
「アナのその遠距離があれば無敵じゃないですか? アナが苦戦するイメージがわかないんですけど」
俺は笑いながら言う
「そんなこと無いわ。遠距離特化にに必要なのは、遠距離を維持する力よ」
アナは昔の死にかけた話をしてくれた
敵は大ムカデというモンスターで、全長十メートルほどの長さだ
こいつが異常発生し百匹以上の群れとなったのだ
魔法使いとアナを含めた銃と弓のスナイパー十数人が遠距離から殲滅、その護衛を近接と防御を兼ねた重近接タイプが務める作戦だった
遠距離掃射を行い、ムカデの群れを攻撃していった
だが、すぐに陣形が崩れてしまった
理由は大ムカデの機動力を甘くみていたからだ
ムカデは被弾して数を減らしながらも、木々を越え、あるいは木々の隙間を凄まじい早さで疾走した
あっという間に数匹の大ムカデが隊員と接触
そこからは悪循環だった
重近接タイプが守りながら、遠距離タイプが接近した大ムカデを処理
その間、遠距離からの掃射が減る
減った分、接近する大ムカデが増える
どんどんじり貧になっていった
「…す、すごい戦いですね。どうなったんですか?」
「飛行能力がある隊員が接近する大ムカデを陽動して、その隙に遠距離射撃を再開したわ。なんとか耐えながら増援を待ってやっと討伐したわね」
「数百匹の大ムカデ…。地獄絵図ですね」
「本当よ。その時思い知ったのが遠距離を維持する能力の必要性よ。敵が多ければいつか追い付かれるし、今回だって遠距離からの範囲攻撃を持つ敵がいたら陽動をしてもらう必要があるわ」
「なるほど…勉強になります」
「その点、ラーズならホバーブーツがあるからいいわよ。もっと威力のある対物スナイパーライフルとか持って、逃げながら撃つとかいいんじゃないかしら」
「対物ライフルですか…。アナは銃を使ったりはしないんですか?」
「私、ライフルも使うわよ」
「使うの!?」
勝手に弓だけだと思いこんでいた
「魔法付加の曲射って燃費悪いのよ。魔法付加で魔力、弓の長距離曲射で輪力を使うから連続で射つのもきついし。その点、銃なら引き金を引くだけだから楽でしょ」
アナは、直線射撃をスナイパーライフルで行う
陣形が崩れたり、障害物に隠れられたら弓での曲射を行うのだ
曲射は輪力を使う特技の一種で、更に魔法まで付加するので疲労が激しい
疲労が溜まると命中精度も落ちるため、弾数と相談しながら銃と弓を使い分けているのだ
「そういえば気になったんだけど、ラーズってロケットハンマー以外に武器はないの?」
「武器ですか?」
「ええ。トロルの腹をロケットハンマーで抉っていたけど、動きを止めきれなかったでしょ。あれは危なかったわよ」
「…はい。おかげでガードした腕を骨折しました」
「ロケットハンマーは、本来ゴーレムや装甲戦車とか硬い対象を破壊する武器でしょ? トロルみたいな大きくて柔らかい生物に対して使っても、貫通力がありすぎて動きが止められないんじゃないかしら」
「確かにそう思いました。足止めができない攻撃は斥候には意味ないですからね」
ロケットハンマーじゃ、破壊面積が小さすぎて足を止められなかった
火力不足…というよりは、破壊エネルギーがハンマーの先端に集中しすぎていて破壊できる面積が狭すぎた感じだ
破壊できる面積を広げて動きを止める必要があるのか
と、なると新しい武器…?
いや、これ以上の出費は無理だしな
「…ラーズ、そろそろ帰りましょう?」
「あ、分かりました!」
アナに言われて帰り支度をする
「あ、アナ。通り名って持ってますか?」
これはちゃんと聞いとかないと
だんだん趣味みたいになってきたな
「ええ、私の通り名は狼の目よ」
狼の目、カッコいい通り名だ
ひたすら獲物を狙い続ける狼
狙撃する目の良さと獣人という人種、そして獲物を狙い続けるスタイル
アナにぴったりだ
「ラーズは?」
「…道化竜です」
「道化?」
「ピエロみたいに敵の注目を集めて、囮が上手いからだそうです」
「あっはっは! ラーズにピッタリじゃない!」
アナに笑われながら、俺達は山を降りるのだった
つ、ついに百ポイントになりました!
ブクマ、評価嬉しいです
読んで頂いている皆様のおかげです
本当にありがとうございます