115話 また裏仕事1
用語説明w
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
オズマ:警察庁公安部特捜第四課の捜査官。ゼヌ小隊長と密約を交わし、1991小隊と「バックアップ組織」の情報を共有している
小隊長室に置かれた応接セットにそれぞれ座る
面子は、デモトス先生、ジード、俺、そして公安のオズマだ
デスクにはゼヌ小隊長がいて、今回の話し合いの進行を行っている
議題は、前に俺が救出した男の捜査状況、さらにその男を拉致していたチンピラ君達の捜査状況だ
「…これは間違いなく捜査情報の漏洩行為です。本当にお願いしますよ?」
「もちろんよ。その代わり私達が裏から捜査の協力をする、私達の約束だものね」
以前、うちの小隊と公安にオズマでテロを手助けするバックアップ組織の捜査を協力する約束をしたのだ
バックアップ組織は防衛軍の中にも関係者がいる可能性があるため、こんな密約をして独自に調査をしているのである
「結論から言うと、関係している人間や組織の数が膨大で、どれが構成員か絞り込めていない状況です」
オズマが捜査状況を説明した
俺が助けた男の名はフセイン
バックアップ組織の元顧客だ
助けられたこと、そしてフセインの彼女を同時に保護したことに感謝して素直に話しているそうだ
元は五人ほどで活動するハカルとの戦争推進派の思想グループだったのだが、思想活動をネット上でするだけでテロをしていたわけではない
しかし、バックアップ組織に声をかけられてテロに参加した
そのテロ活動は警察の特殊部隊に鎮圧され、フセインだけが逃亡したのだ
フセインは、彼女と話して自首するつもりだったのだが、バックアップ組織が新たなテロに参加しろと言ってきた
そして、自分の口座に金を入金され、潜伏先には武器が送りつけられる
当然、自首したら殺すとの脅迫付だ
怖くなって彼女と逃げ出した所で今回のチンピラに拉致されたらしい
「フセインに入金した人物は三人、バックアップ組織からの連絡先、テロ仲間の連絡先、それらを辿っていくと、関係者がどんどん増えていっています。現在は口座が七十四、人間が百二十人、法人や百十二、これを捜査対象としています」
「多すぎるわね…」
「これらは精査待ちですね。さらに、拉致したチンピラについてです」
フセインを拉致したチンピラ
こいつらはマフィアの末端構成員だった
フセインの拉致は、やはり上からの命令だったそうだ
つまり、バックアップ組織がマフィアに依頼したか、マフィアがバックアップ組織の構成員の可能性が考えられる
「本来なら、チンピラのマフィア事務所にガサをうちたいのですが、恐らくそこまで重要な情報は出てこないでしょう。しかも警察が来たと知られれば、さらに上の情報が消されてしまう」
「警察以外の方法で情報を取る必要があると言うわけね…」
「…」
嫌な予感がする
冷静に考えて、そもそも何で俺がここにいるんだ?
こんな危ない橋を渡っている話は、上の人達でするべきだ
俺、むしろ聞いちゃダメだよね?
「…」 「…」 「…」
気がつくと、俺に視線が集まっていた
「いやいやいやいや! 何で私を見るんですか!?」
「うん、マフィアの事務所の制圧。いい訓練になると思うんだよ」
デモトス先生が穏やかに言う
「…いや、相手は武器を持ってますよね!?」
「古来より戦争は変わったが、変わらない役割というものがある。何か分かるかね?」
「…えーと」
何だろう?
「それは制圧の役割だ。制圧は歩兵が行う。どんな時代でも、どんな兵器を使ってもそれは変わらない。使役獣やAIだけで制圧は不可能、必ず歩兵の判断が必要になる」
「…はい」
「そして、同時に最も難しいし役割も制圧だ。制圧は何度も経験して損はない。いくらモンスターを倒しても制圧は上手くならないからね」
「いや、でも…」
躊躇する俺に、デモトス先生が一枚の紙を出してきた
「これは何ですか?」
紙を見ると、カタログとメモだった
『
中古AI外部稼働ユニット
フェデル社製マテリアルドラゴン第7世代タイプ
オプションとして、銃二丁の装着、モ魔を搭載
なんと六百万ゴルド!
ラーズへ
いい中古品を見つけたぜ
掘り出し物だ
買うなら早めに連絡しろよ!
スサノヲ
』
「スサノヲからだ。外部ユニット六百万ゴルド…」
「かなりいいものだ。ジード君やシリントゥ整備長にも確認済みだ」
俺がジードを見ると、
「ブラックマーケットというのが気になるが、私は買いだと思うぞ」
と頷く
「ラーズのこの裏仕事への報酬は、マフィアの事務所にある金だ。外部稼働ユニットの購入費になるんじゃないか?」
デモトス先生が相変わらず穏やかに言う
いや、俺に強盗をしろと?
ジードが話を続ける
「今回の仕事は、事務所内の人間の無力化、警察が逮捕するための武器の発見、そしてラーズの報酬の強奪だ」
今回のシナリオ
ある事務所が襲われていると通報
事務所に警察が入ると、マフィアの構成員が倒れており近くには武器が落ちていた
警察がマフィアの構成員を銃刀法違反で逮捕し、事情を聞く
襲撃者については正体不明
バックアップ組織の捜査ということを伏せることができ、たまたま通報で警察が事務所に行く、というわけだ
「…」
「何か質問はあるかね?」
「いや、私の実力じゃ生け捕りは無理ですよ? 銃や魔法で武装したマフィア相手にそんな余裕ないと思いますし…」
そこで、ジロッと睨んでくる野郎が一人
オズマだ
「相変わらず、あーだこーだと言い訳ばっかり並べてるな…」
「荒事を全部ぶん投げてる人には言い訳に聞こえるかも知れませんよね」
ガタッ! ドンッ!
同時に俺とオズマが立ち上がる
「やめろ。相変わらずお前らは仲いいな」
ジードが手で制する
「どこがですか!?」
「お前、こっちが何人分の口座や情報記録を解析してるか分かってるのか! 千件超えてるんだぞ! 毎回結果だけ聞ける奴に言われたくないぞ!」
オズマが怒鳴る
「どこが結果だけだ! その情報元を確保したのは誰だと思ってやがる! 俺が一人で突入させられたんだぞ!」
パンパンッ!
ゼヌ小隊長が手を叩く
「はい、おしまいよ。二人ともなくてはならない人材、それは分かってるでしょう?」
「…」 「チッ…」
俺とオズマは渋々座る
オズマが舌打ちしやがったことはしっかり覚えておくからな
その後はマフィアの制圧作戦会議だ
「そもそも、マフィアってちゃんと情報をしゃべるんですか? しゃべったら消されちゃいますよね?」
「逆だな。事務所が襲撃されて金を奪われた。そして、犯人は捕まえられない。そうなったら誰かが責任をとらされる」
「それが、マフィアの構成員…」
「当然、マフィアの面子を保つためにそうなる。だから、洗いざらいしゃべって罪を重くし、刑務所に行きたがるはずだ。自分の命を守るためにな」
当然のようにジードが言う
この人は過去何をしてきたんだろうか?
いろいろ慣れすぎだよね
「マフィアの生活って怖い…」
ま、その襲撃者が俺な訳だが
「作戦は簡単だ。ビルの電気室と管理人室の制圧、そしてブレーカーを落とす。これは私がやる」
デモトス先生が手を上げる
「私は魔導セキュリティの解除だ。セキュリティ魔玉の魔力プロトコルは調査済みだから上書きはすぐできる。ラーズの突入のタイミングで解除する」
次はジードが手を上げる
「…」
作戦が全部決まってるんだけど
…俺の突入は前提で
しかも、俺の報酬まで
怖すぎない?
「ラーズ、大変だけど頑張ってね。一回でもこの手の仕事をミスすると大変なことになるから。もちろん責任は私が取るから心配はしなくていいわ」
ゼヌ小隊長が口を開く
いや、余計プレッシャーだよ!
「…はい」
「盗賊やマフィア、裏の人間に手心は無用だ。残虐さで戦意を削ぐのが基本だ、しっかりな」
デモトスが俺の肩に手を置く
もうやるしかない
「はい!」
こうして、俺達は仕事に向かった
俺だけは嫌々だが、顔には出せない
ブクマ、評価本当にありがとうございます!
読んでくれる人がいる、それが本当に嬉しいです