114話 風水師のアドバイス
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)
ロゼッタ:MEB随伴分隊の女性隊員。片手剣使いで高い身体能力を持つ(固有特性)
特別クエストは、各小隊で消化できない通常クエストが中隊本部の判断で特別クエストになる
消化できない理由は、適した人材がいない、適した装備がない、そもそも人が足りないなど様々である
クエストが出されてある程度時間がたってしまうと、それだけ被害が大きくなって急いでクエストを処理する必要が出てくる
また、そもそも人材がいないなど小隊での処理が無理な場合は、小隊の判断で中隊へクエストを回して特別クエストへと変えてもらう
こうして、各小隊が指定した特別クエスト担当のリストから中隊(場合によっては大隊本部)が人材を選び、特別クエストの処理を行わせるのだ
現在防衛軍の人手が不足していて、防衛作戦とクエストの並行処理で各小隊がヒーヒー言っている
こういう状況なので特別クエストが増えてしまっているのだ
何が言いたいかというと、特別クエスト担当の仕事はひっきりなしで、連日の出動となってしまう
まさか昨日の今日で、連続で特別クエストに出るとは思わなかった
人がいなくても仕事は来る
公務員って辛いわー…
「ご主人! 搬送部隊が向かってくれてるよ」
「ありがとう、データ」
なんとか眠らせたスレイプニルの体重は、通常の馬の三倍近い二~三トン
とてもじゃないが俺達じゃ運べないので防衛軍の搬送部隊を要請した
俺達は搬送部隊が来るまで、アミラと交代で睡眠作用を与え続ける
竜穴ポイントの上にスレイプニルが倒れたことが幸運だ
アミラは竜穴を使って風水術を使っている
白い煙が立ち上がるが、これは風水術で発動させた睡眠作用だ
今は土柱は必要ないので睡眠作用のみを発動しているらしい
俺が感心していると、
「風水術は地形の属性に影響されるのよ。この森は土属性と睡眠属性が引き出せるわ」
アミラがちょっと照れて教えてくれた
砂漠や荒野は風属性が、湿地は水属性が引き出しやすいらしい
合わせて、生息している動植物によって、混乱や麻痺、毒などを付与できるそうだ
「ただ、うまい具合に竜穴がないと発動しないのよ。しかも、竜穴って時間経過で少しずつ位置を変えちゃうから毎回地脈を読まなくちゃいけないしね」
「でも、強力な風水術を発動できる竜穴ポイントに、パーティで敵を押し込めれば凄い強いじゃないですか。ダメージや拘束、状態異常を同時に与えるって便利すよね」
「そうなんだけどね。押し込む戦い方だと、火力特化や防御タイプの重近接型タイプじゃないときついでしょ? 相方を選べない特クエには向かないのよ」
「なるほど…。私も、場合によっては盾を持って防御や押し込みが出来る方がいいですかね? 盾とか使ったことないな…」
「ラーズはホバーブーツの機動力が持ち味なんだから、動きを止める盾は向かないんじゃない?」
「うーん、確かにそんな気も…」
しばらくすると、搬送のヘリコプターがやって来た
スレイプニルがいつ起きるかドキドキしてたからホッとする
俺の睡眠の魔石は残りがあと二つだった
・・・・・・
搬送部隊のヘリコプターに俺達も同乗させてもらい、この地域の中隊本部に持ち込む
スレイプニルを買い取ってくれる飼育業者を呼んでくれていた
「ご、五百万ゴルド!?」
捕獲したスレイプニルは五百万ゴルドの高額買い取りとなった
諸費用を引いて四百万ゴルドが取り分、俺とアミラで二百万ゴルドずつ分ける
「スレイプニルは、調教済みのものは二千万ゴルド以上するからね。捕獲も難しいし、買い取り五百万ゴルドは妥当だと思うわ」
「そ、そんなにするんですか…」
スレイプニルは、スピードもあり悪路にも強く、場合によっては崖も走れる
力も強いし、魔法で自衛もでき、性格も穏やかで軍馬としては理想的だ
道路での単純なスピードは車両に劣るが、それ以外は軍用のSUVよりも評価が高いのだ
「今回はすんなり捕獲できてよかったわね」
「いや、風の投射魔法が直撃してたら死んでましたよ!?」
モンスターが魔法を使うとは思ってなかったから気がつくのが遅れた
フェムトゥもないし、あれは危なかった
「あの、馬のモンスターを捕獲してくれた防衛軍の方ですか?」
声をかけられて振り向くと、七十歳くらいの老夫婦が立っていた
魔族のおじいちゃんと魚人のおばあちゃんのようだ
「はい、そうです」
俺達が頷くと、老夫婦が頭を下げてきた
この夫婦は、スレイプニルに荒らされていたエリアの農協関係者だった
スレイプニルの討伐クエストを依頼したが、スレイプニルはすぐに逃げてしまい何度も討伐が失敗、その間に何度も農家の作物が被害に遭ってしまったのだ
「本当にありがとうございました。今は収穫の時期で、やっと育った作物を食い荒らされてしまって困っていたんですよ」
そう言って、何度もお礼を言われてしまった
国民の感謝の言葉ってのは本当に嬉しいもんだ
しかし、そう考えると風水術様々だ
あの土柱での拘束がなければ、そもそもスレイプニルに触れることさえできなかった気がする
地脈の操作か…
まだまだ知らない術があるんだな
「ね、ラーズ。今度、あなたの小隊に遊びに行ってもいい?」
「え? いいですよ。連絡くれればロゼッタにも話しておきますよ」
「本当!? じゃ、予定見て連絡するね」
アミラは憧れのロゼッタに会いたかったみたいだ
ロゼッタってそんなに凄かったんだな
もちろん、実力が凄いことは知っているけど
「そういえば、アミラは通り名があるんですか?」
別れ際に通り名の確認
通り名は、確かに覚えやすいと最近思い始めた
その人の特徴をよく表しているからだ
「ええ。私の通り名は氣功拳士よ」
「氣功…拳士?」
「そうなの。私は風水術以外にも氣功を使った発勁も使うから、そこからでしょうね」
へー、拳士か
俺も格闘技をやっている身として興味があるな
今度、ぜひ手合わせをお願いしたい
「ラーズ、今日はありがとう。また一緒に組みましょうね」
「ええ、こちらこそぜひお願いします。遊びに来るときは連絡くださいね」
こうして俺達は別れた
・・・・・・
疲れた…
だが、収入はいい
正直ウハウハだ
黒竜の情報量が四十万ゴルド
前回の特クエで三十万ゴルド
今回が二百万ゴルド
現在の合計が二百七十万ゴルド
一千万ゴルドまで、あと七百三十万ゴルド
目指せ属性防具!
「あ…ラーズ…。お帰りなさい」
「エマ、帰りました」
帰隊すると、改築中の隊舎の前にエマがいた
隊舎の改築の関係でMEBのハンガー内に仮設医療室をつくったのだが、全ての機材や医療品を置けるほどの広さがない
仕方なく倉庫に医薬品などを置いているので、足りない医薬品などは倉庫に取りに行かなければならないのだ
「何か運ぶの? 手伝うよ」
「いいの…? 助かる…」
エマに着いて倉庫まで降りていく
人間関係のいい小隊はお互いに助け合う
仕事が楽しくなる秘訣かもな
「そういえば、聞きたいことがあったんだけど」
「何…?」
「黒竜に会ったあの森で、俺のナノマシンシステムの2.0が使えるようになった時のことなんだけど…」
あの時、フランケンシュタインにやられそうになって我をわすれて攻撃してしまったのだが、あれがなんだったのか気になっていた
ナノマシンシステムの2.0の影響が精神に何らかの影響が出るならちょっと怖いと思っていたからだ
「あなたのAIから心拍数や脳波のデータをもらっているけど、2.0を発動させても特に影響は見られない…。おそらく2.0の影響ではなく、フランケンシュタインへの恐怖の影響じゃないかと思う…」
「そ、そうかぁー…」
2.0が無害で安心した反面、ちょっと恥ずかしい
結局、どんな武器や防具、魔法や特技、特性や技能を持っていても、使う人間の心が未熟なら不具合や未熟さに繋がってしまうってことだな
平常心を鍛えろってことだな
ブクマ、評価有難うございます!
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