113話 風水師
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
イズミF:ボトルアクション式のスナイパーライフル。命中率が高く多くの弾種に対応している
特別クエスト
スレイプニルの捕獲
『
スレイプニル
Dランク、足が六本の馬型モンスター
格が上がり神獣となった個体は足が八本となり、神の乗り物となったという伝説がある
』
『
クエスト情報
スレイプニルが農地を荒らしている
目撃証言では一匹
優秀な軍馬となるので、可能なら捕獲すること
』
今日の相方は、風水師のアミラだ
Cランク、褐色の肌のエルフの女性だ
ダークエルフと呼ばれることもあるが、単に出身地域の違いだけで肌の色以外は普通のエルフと変わるところはない
「あなた、ロゼッタさんと同じ小隊なの!?」
アミラは、ロゼッタのファンだったらしい
俺が所属小隊を話すと食い付いてきた
「ええ、そうですよ。ロゼッタって有名なんですか?」
「私達みたいに氣属性を使う隊員の中では有名よ。トランスが使える人なんて、防衛軍の中でもロゼッタさんだけなんじゃないかな」
氣属性
魔導三属性のうちの一つ
大地の地脈や肉体の氣脈の力である氣力を司る属性
氣力とは、正確には「魂と物体を結びつける力」と定義される力だ
ロゼッタの氣力で肉体を強化するトランス、大地の氣脈の力を使う風水術、自己の氣力を衝撃に変える仙氣発勁などが氣力を使った技だ
特技や魔法とは違う技術で使用者は少ない
「私の風水術は、大地の地脈を読み取って地脈の吹き出す竜穴ポイントに地形の属性効果を発現させる技よ」
「竜穴ポイントってどこなんですか?」
「捕獲ポイントを調査してから伝えるわ。そのポイントにスレイプニルを誘い込んで拘束しましょ」
「へー、凄いですね、分かりました。私は睡眠の魔法弾と麻酔銃弾を使いながら眠らせる感じでいいですか?」
「ええ、それでお願い」
初めて組む隊員との必須作業
能力の確認と作戦会議だ
「それにしても、風水術って珍しいですね。初めて見ますよ」
「あら、ラーズのナノマシン群とかホバーブーツも結構珍しいわよ」
俺達は捕獲ポイントに着くと、持ってきたキャベツをまとめて置く
このキャベツは、スレイプニルが荒らした農家さんから持ってきたものだ
スレイプニルの臭いがついているので、おびき寄せられると踏んでいる
・・・・・・
「いきなり来た…!」
「早かったわね」
真っ黒な毛並みのスレイプニルがキャベツを貪っている
俺は無言でスナイパーライフルのイズミFを構える
装填しているのは捕獲用の麻酔弾だ
すぐに眠ってくれればいいが、なんせ体がでかい
普通の馬の二倍、全長五、六メートルくらいある
体がでかいということは、それだけ麻酔が効きづらいってことだ
「捕獲はこれが多分唯一のチャンスよ。スレイプニルは賢いから、これで逃がしたらもう拘束は無理よ」
「…了解です」
今、スレイプニルがいる場所はアミラが見つけた竜穴の真上だ
当然、竜穴の上にキャベツを置いたからだ
そして、俺達がいるこの場所も竜穴の上らしい
竜穴は地脈の出入口で、その氣脈を使うことで風水術の威力をアップさせる
「やるわよ」
「拘束と睡眠の効果があるんですよね? 発動したら麻酔弾を撃ちます」
アミラは、地面に手をついて集中させる
俺は氣力の感知ができないからよく分からないが、風水術を発動させているのだろう
「…いくわ!」
アミラの合図で、俺はイズミFを構える
ボゴォッ!
「ヒヒヒーン!?」
スレイプニルの足元の地面から土の柱が立ち上がった
土柱はスレイプニルの下半身を巻き込み固まってしまった
こ、これが風水術か!
遠距離から任意の竜穴ポイントに術を遠隔発動させられるのか
「撃って! 拘束と一緒に睡眠作用を与えてるけど、私の風水術だけじゃ寝ないわ。拘束も時間がたつと解けちゃう!」
「了解!」
ドンッ! ガシュッ ドンッ! ガシュッ ドン!
「ヒヒーーン!」
リロードをしながら三発の麻酔弾を撃ち込むが、スレイプニルはまだ元気だ
土柱から出ている前足二本で、土柱を壊そうともがく
ガシュッ ドンッ! ガシュッ ドンッ!
撃ちながら、改めて思う
風水術は凄い
普通の土魔法は、魔力で土を生み出して利用する
しかし、魔力で生み出したものは時間経過で魔素に戻って霧散してしまう
生み出した土の持続時間は込めた魔力に比例するのだ
だが、風水術は本物の土を動かしているようだ
土柱を固めることに氣脈の力を使っているようだが、生み出した土自体の維持は魔法と違って必要ない
敵の拘束には、魔法より風水術の方が圧倒的に燃費がよさそうだ
しかも睡眠作用まで与えられるって万能すぎるだろ
俺は風水術に関心しながらも更に十発以上の麻酔弾を撃ち込んだ
しかし、スレイプニルが寝る気配はない
「くっ…、そろそろ維持がきつくなってきた…」
アミラが、地面に氣力を注ぎながら苦しそうな表情を見せる
「アミラ、麻酔弾が切れました! 距離を摘めて睡眠の魔法弾を使います。もし寝る前に拘束が切れたら、捕獲を諦めて攻撃します!」
逃がすわけにはいかない、スレイプニルの足は早すぎる
一度逃げられたら、次は警戒されて接触自体できなくなってしまう
俺はホバーブーツでスレイプニルに近づく
「ブルルルッ!」
俺の姿を見てスレイプニルが威嚇をしてくる
だが、構わずに俺は魔石装填型小型杖を三回振る
ボワァ…
使った魔石は拘束の魔石と睡眠の魔石二つ
だが、まだスレイプニルは寝ない
俺はすぐ小型杖に睡眠の魔石を装填する
よし、もう一度睡眠の魔法弾を装填だ
ヒョォォ…
その時、そよ風が俺の後ろからスレイプニルの方へ流れた
顔を上げると、スレイプニルが俺を見ている
ゴオォッ!
ゴガガガガガガーーー!
スレイプニルの目の前に集まった空気が突風となって吹いた直後、風が捻れ大地を削った
風属性の投射魔法だ
「ぐあっ!」
横っ飛びでなんとか避けるが、捻れた風に引っかけられて思っきり肌を裂かれる
やられた…!
こいつ、魔法なんか使えたのか
左腕の傷は意外と深そうだ
だから、鎧がないとダメなんだ!
せめて耐魔力魔法でもあればよかったんだが…
すぐに体を起こし小型杖を構える
スレイプニルは、土柱を壊そうともがきながらも俺を見ている
近づいたらカウンターで風の投射魔法を使う気だろう
「ラーズ…、もう維持が限界…!」
インカムからアミラの苦しそうな声が聞こえる
「アミラ、突っ込むからもう少しだけお願いします!」
俺は、倉デバイスからロケットランチャーを取り出す
風の投射魔法は攻撃の範囲が広すぎて避けられない
俺はナノマシン集積統合システム2.0を発動してからロケットランチャーの引き金を引いた
ボシューーー!
飛んでいくロケット弾に、スレイプニルが風魔法を撃ち返す
ゴオォッ!
風魔法の衝撃にロケット弾が着弾
ドッゴォォォォン!
爆風が風魔法を相殺、いや貫通し衝撃をスレイプニルに届ける
ボッ!
この隙に、俺はエアジェットで一気に飛び込み、空中で睡眠の魔法弾を三発飛ばす
そして、勢いを膝に乗せスレイプニルの側頭部に蹴りを入れる
ドガァッ!
エアジェット + ナノマシン群の筋力強化による真空飛び膝蹴りだ
脳震盪でも起こしてくれたらラッキーなんだが
「リィ、前足を抑えろ!」
「ヒャンッ!」
土柱から出ているスレイプニルの右の前足にリィが噛みつく
俺は左足を掴む
くそっ、まだ寝ないか!
もう一度睡眠の魔石を装填して、ダメなら前足を叩き折るしかないか
「ブルルル…」
その時スレイプニルの頭が突然垂れてきた
「え?」
…ようやくスレイプニルが眠ったらしい
どうやら、風水術の睡眠作用がやっと眠りに落としたらしい
なんとか捕獲成功だ
魔導三属性:精神力の精属性、氣脈の力である氣属性、霊体の力であり霊属性