112話 モンスター使いのアドバイス
用語説明w
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
クルス:ノーマンの男性整備隊員、車両の運転も兼務
ホン:ノーマンの女性整備隊員、車両の運転も兼務
オルトレイドスの竜皮が売れ、諸費用を抜いた七十万ゴルドが純益だ
取り分はアレクセイが四十万、俺が三十万だ
素材の措置、売却など全てやってもらってしまったから不満は無い
「今回の特別クエストは、町役場が直接買い取ってくれたから思ったより金になったぜ」
言いながらアレクセイが笑った
今回は、アレクセイがよく知っている町役場の職員が買い取りを担当したため話が早かった
特別クエストは、防衛軍の大隊本部や中隊が割り振っている
普通のクエストは、所属する小隊が手数料を引くのだが、特別クエストはこの手数料がかからない
よって、クエストを行う隊員の報酬が増えるのだ
「特別クエストって報酬いいんですね。こんなに貰えるなんて思いませんでした」
「ラーズは特別クエスト担当は初めてか? 報酬はいいが休む暇がないくらい数が来る。体調には気を付けるんだぞ」
「分かりました」
今回は、アレクセイと組めて良かった
特別クエストは報酬もいいが、優秀な隊員と仕事が出来るということもメリットだ
実際、モンスター使いのアレクセイからリィへのアドバイスを貰うことだが出来た
「ラーズ、リィにもっと指示を出した方がいいぞ。指示をしてできたら誉める、ダメなところを直す、これの繰り返しが絆とチームワークを育てるんだ」
アレクセイは、敵を仕留めたリィを誉めながら言った
魔物使いにとって、最初のテイムはきっかけに過ぎない
そこから訓練をし、育て、絆を作っていくことが真骨頂なのだ
実際、ブラックドッグのライカは凄まじい実力を持っていた
今回は敵が格下であり、素材を傷つけないために使わなかったが攻撃特技を複数持っているらしい
高熱の牙で噛みつくヒートファング
火球を吐き出すブレス
火属性バリアを展開するファイアボディ
モンスター使いの育てたモンスターの実力は、野良のモンスターとは比べ物にならない
アレクセイは、
「リィも育っていけば特技を覚えていくかもしれない。ま、竜は特殊だから、俺に聞くより竜使いに聞いた方がいいけどな」
と言っていた
ま、空を飛べて遊撃が可能なだけで充分特技と言える気もするが
「アレクセイは、もう使役モンスターは増やさないんですか?」
「うーん、一匹でも育てるのに何年もかかるし、扱いに差が出るとモンスターが嫉妬するしで難しいんだ。ただ、使役するなら防御が出来るタイプのモンスターがいいかな」
「防御ですか?」
「ああ、固い表皮を持ってたり、攻撃を受け止められる大きな体だったりな。ラーズも特クエを続けると分かるが、モンスター討伐には防御役と遊撃役が揃っているとかなり戦いやすいんだ」
「なるほど…」
分かる気がする、うちのサイモン分隊長の役割だな
アレクセイとの別れ際
「ラーズ、お前には通り名はないのか?」
「一応、道化竜ってなってます…」
変な通り名だから言うのがちょっと恥ずかしい
「そうか、俺は捨て犬って通り名だ。また、特クエが被ったらよろしくな」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
捨て犬って凄い通り名だな!
アレクセイごめん、道化竜なんかマシな方だったよ…
アレクセイの通り名、捨て犬
これは、ライカが捨て犬だったことに由来するそうだ
どこかの金持ちが珍しい犬を買ったら、実はブラックドッグというモンスターで手に負えなくなった
捨てられて殺処分されるところをアレクセイが引き取り、何年も掛けて使役モンスターとして訓練したらしい
アレクセイはライカとの出会いを大切な思いでと思っているから、捨て犬という通り名も別に嫌じゃないらしい
なんてカッコいい奴なんだ…!
一流の戦闘員と一流の使役モンスター
すげー勉強になったぜ
・・・・・・
隊舎に帰ると、中庭でクルスとホンが装甲戦車の整備をしていた
俺が入院中に隊舎の改築が始まり、MEBハンガー内に隊員が集まって狭くなっているため、簡単な整備は中庭でやっているのだろう
「ラーズ、おかえりなさい」
ホンが俺に気がつき手を上げる
「戻りました!」
声を聞いて、車体の下からクルスも出てきた
「特殊クエストに行ったんだろう? 有名な隊員に会えたのか?」
「はい、捨て犬のアレクセイっていうモンスター使いと一緒でした」
「あ、私聞いたことあるわ。捨て犬アレクセイ、犬のモンスターを使う人でしょ?」
「そうです。使役モンスターのブラックドッグが凄い優秀で凄かったですね」
俺は、今日のクエストとアレクセイのことを簡単に話した
「へー、リィも早く凄い使役モンスターになれるといいな」
「ヒャンッ!」
クルスの言葉に、テキトーに答えるリィ
お前、すこしはライカに影響受けろよ?
やる時はやるからいいんだけどさ
俺は中庭に出ている装甲戦車を見る
キャタピラーが土で汚れている
「二人で今日は防衛作戦に出動したんですか?」
クルスとホンは整備兼装甲戦車の担当なので、戦車の迫撃砲が必要な時以外は出動しないなずだ
「ええ、そうなの。今回のミッションは、三つの小隊でそれぞれ防衛作戦を割り振られてね」
「俺達は戦車で現場に向かう指令だったんだが、敵がハカルのオートマトンと自律型戦車ってことが途中で分かったんだ。戦車は使えないから引き返すことになってな…」
「帰りにショートカットしようと思って道を外れたら車体の底を岩で引っ掻いちゃったのよね…」
ホンは額に手をやる
「俺が言い出したんだ、悪かったよ」
「私も同意したでしょ? 同罪よ」
クルスとホンって、いつも一緒にいるけど付き合ってるのか?
仲いいよな
ちなみに、なぜ戦車が使えなかったか?
それは戦車が兵器だからだ
まだ、シグノイアとハカルは開戦宣言を行っていない
戦争をしていないのに兵器を使うことはできない
先に攻撃されたという口実を相手に与えてしまうからだ
よって、モンスター相手には使えるが、ハカルが絡んでいる可能性がある場合は兵器は使えない
自立型の戦車やオートマトンが、簡易なものとはいえ兵器を使ってくるのに、防衛軍はあくまでも歩兵の戦力で対応しなければいけない
自立型戦車やオートマトンがハカルのものだという証拠でもあればいいのだが、そんな都合よくはいかない
現状は、正体不明の自立型戦車やオートマトンにすぎないのだ
「もう少し早く分かってればねー。キャタピラーって走破性能は高いけど燃費悪いから燃料代もバカにならないのに」
「現場でも一生懸命情報を集めてくれてるんだ。仕方ないさ」
自立型戦車やドローンは、いつもいつの間にか配置されている
ハカルの工作員が侵入してやっているのだろうが、広い国境線の全てを封鎖することは不可能だ
しばらく防衛軍は、モンスターとハカルの両方を相手にしていくしかないの実情だろう
そう簡単に外交問題が解決するはずがないのだから