111話 モンスター使い
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシン群を運用・活用するシステム。身体能力の強化も可能となった固有特性
モ魔:モバイル型呪文発動装置。巻物の魔法を発動できる
魔石装填型小型杖:使いきり魔石の魔法を発動できる
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
ドラゴンブレイド:ロングソードの一種で、霊的構造としてドラゴンキラーの特性を持つ
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
特別クエスト
オルトレイドスの二つの群れを討伐
『
オルトレイドス
Dランク、二足歩行の西洋型獣竜種のドラゴンで一匹のボス個体が数匹の群れを引き連れる
ドラゴンの能力ランクは牙竜でブレスは吐かない、主な攻撃方法は噛みつき
』
『
クエスト情報
二つの群れが住宅地の近くに居着いてしまった
被害が出る前に至急討伐を要請する
』
俺は初の特別クエストに参加した
相方はベテランのCランク隊員だ
「1991小隊所属のラーズです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。俺はアレクセイだ」
アレクセイは五十歳くらいのノーマンの男性だ
モンスター使いらしい
「こいつはライカ、俺の相棒のブラックドッグだ」
アレクセイは、横に座っている黒い犬型モンスターを撫でる
ブラックドッグはDランクモンスターだ
ただ、モンスター使いが使役するモンスターは、訓練のよって鍛えられているので、一般的に野生の同種モンスターよりも強い
全長1.5メートル、牙は鋭く、たまに口から火の粉を吐く
…正直、めっちゃ怖い
だが、俺だって使役竜がいるんだ
「こいつはリィです。東洋竜型の式神で、俺の相棒です」
対抗したわけじゃないが、俺もリィを勾玉から出す
そう、別に対抗したわけじゃない
「ヒャン」
「グルルル…」
リィが一鳴きすると、ライカが一唸り
リィは無言で俺の後ろに隠れてしまった
「…」
リィ、なんかすまんかった
俺達は、討伐ポイントまで徒歩で移動している
その道中に情報交換だ
「ボスの二匹は、出来ればきれいに仕留めたい。竜皮の素材が品薄らしくて、高く買い取ってもらえることになってるんだ」
「分かりました、やってみます」
報酬がよくなるならもちろん頑張る所存です
アレクセイは、ライカが前衛、自身は後衛で魔法とアサルトライフルを使う遠距離のハイブリットタイプだ
俺は、今回は牙竜とはいえドラゴンが相手なのでドラゴンブレイドを使ってみようと思っている
ナノマシン集積統合システム2.0とホバーブーツを使うことも話してある
ただ一つ、アレクセイに、「アーマーを着ないで大丈夫なのか?」と聞かれ、「ナノマシン群で防御力も上がってますので」と答えたが微妙な顔をされてしまった
やっぱり防具無しっておかしいよな
・・・・・・
ライカは優秀だった
歩いてると、小さく唸り匂いを嗅ぎだした後、すぐに追跡を開始した
オルトレイドスの匂いを発見したらしく、足跡もあった
ライカについて歩くこと十五分、森が開けた橋でオルトレイドスの群れを発見した
ボスと思われる大きめのオルトレイドスが一匹、それよりサイズの小さい個体が七匹だ
ダチョウの形をした爬虫類のような風貌で、顔についた嘴が特徴的だ
「俺が取り巻きに範囲魔法を放つ。ラーズはボスに魔法弾いけるか?」
「拘束の魔法弾を狙ってみます」
なるべく傷をつけないよう、ボスの動きを出来るだけ封じておきたい
「よし、失敗したら下がってくれ。ライカが攻撃、俺達は取り巻きの敵をそれぞれ狩っていこう」
俺は頷いて、魔石装填型小型杖を取り出す
こっちは風下だ、敵はまだ気がついていない
「データ、戦闘が始まったらドローンを飛ばして俯瞰からの索敵を頼む」
「ご主人、了解だよ!」
しばしの待機
そして、アレクセイの魔法で狩が始まった
ボボォォォッン!
ボボボォンッ!
「グギャッ」 「ギャエッ」 「ギャッ」
四、五匹のオルトレイドスが二発の火属性範囲魔法(小)で焼かれる
杖を使った自分で唱えた魔法と、モ魔で発動させた魔法の二連発だ
俺も負けてられない
ボッ!
ホバーブーツのエアジェットで一気にボスのオルトレイドスに接近し、小型杖を振る
ホワァッ…
力学属性拘束の魔法弾がボスに当たる
「アレクセイ、魔法弾は成功! ボスの討伐に移る!」
俺はインカムで報告
「了解、無理はするなよ!」
アレクセイの返事を聞いて、俺はナノマシン集積統合システム2.0を発動した
ギュィィィン…
体に力がみなぎり、皮膚が硬化する
俺はドラゴンブレイドを構えて、エアジェットで一気に距離を詰める
ドスッ!
「ギョアァァァッ!」
強化された腕力、体幹、脚力が刺突の力を引き上げ、ドラゴンブレイドの刀身がボスの胸に根本まで刺さる
今までは、力が足りずに刃がモンスターに刺さらなかった
すぐに引き抜き、バックステップ
オルトレイドスのボスは苦しそうに頭を垂れて震えている
これは刺突の傷だけのせいじゃないだろう
ドラゴンブレイドのドラゴンキラーの効果が、ドラゴンであるオルトレイドスの霊体にダメージを与えたのだ
…戦える
俺は戦えるぞ!
俺は今まで、ドラゴンブレイドをまともに使えていなかった
俺の腕力や身体能力じゃ、モンスターに刃を通すことができなかったからだ
だが、ナノマシン集積統合システム2.0の強化された筋力なら、充分刺すことができる
近接武器でダメージを与えることができるんだ!
俺は横に踏み込み、おもいっきりオルトレイドスの首にドラゴンブレイドを叩きつける
ゴキッ!
「ギョアッ」
刃が首にめり込み、骨を叩き折る
オルトレイドスは、白眼をむいてそのまま倒れた
俺は取り巻きの討伐に加勢しようと周りを見回すと、アレクセイとライカがほぼ倒していた
「ヒャンッヒャンッ!」
リィも一匹倒したようで、得意気に小さめのオルトレイドスの上に浮いていた
「リィ、よくやった! 怪我はないか?」
「ヒャンッ」
リィは、無事を示すように頷く
「ラーズ、やったな! その剣は何だ? 一撃でボスの動きを止めただろう」
「ドラゴンブレイドです。ドラゴンキラーの性能を持ってるんで、効果は抜群ですよ」
「分かった、もう一匹のボスもラーズがやってくれ。出来るだけ傷を少なくな」
その時、ライカが反応した
「バウッ!」
もう一つの群れが近づいてきたらしい
「データ、ドローンで数を確認してくれ!」
「了解だよ!」
データが操作するドローンが森の中を飛んでいく
「森から出る所を迎え撃つぞ、俺が合図したら射撃は中止だ!」
現場での判断の早さは、さすがベテランのアレクセイだ
「了解!」
俺はアサルトライフルを構えて待機
ドラゴンブレイドの刃が、首の骨を叩き折ったことで丸くなってしまっている
やるなら、次は刺突がいいだろう
「ラーズ、リィに俺の指示を聞くように言ってくれ。お前がボスを相手しているときに指示を出す!」
「分かりました! リィ、頼む!」
リィはすぐに頷いて、アレクセイさんのそばまで飛んでいった
「ご主人、数五、内大型個体1だよ!」
「データ了解! アレクセイ、ボス込みで数は五だ!」
「おう、了解!」
一分後、オルトレイドスが顔を出した
「撃て!」
ガガガガガ…! ガガガガガ!
小型のオルトレイドスを撃っていく
ボスが出てきたら射撃を止め、ドラゴンブレイドをかまえる
ボゥッ
ホバーブーツで一気に距離を詰める
着地後、更に正面から右側面に飛び込む
「ギャガッ!」
すれ違う際に、膝に一撃入れていく
オルトレイドスは、怒りの嘴を繰り出す
「ギョアッ!」
嘴の噛みつきをバックステップ
オルトレイドスが、突き出した首を戻した瞬間に刺突を合わせる
ドスッ!
ドラゴンブレイドの刃が喉を貫く
オルトレイドスは、そのまま呼吸をすることなく横倒しになった
「ふぅ…」
俺は息を吐いて、一度2.0を解除する
「うぁっ…」
今回はかなりの倦怠感に襲われた
二連戦になってしまい、発動時間が延びたからだろうな…
オルトレイドスの取り巻きは、既にアレクセイ達が倒し終わっていた
ライカはオルトレイドスの首に噛みつくと、引きずり倒して首を折っていた
人間なんて、あの牙と顎で噛まれたら骨ごと砕かれるんだろうな…
そして、新たな発見があった
リィの顎の力と浮力もかなり強いことだ
リィも、空からオルトレイドスの首に噛みつくと、高度を上げてオルトレイドスを宙に浮かせる
そして噛みついた首を支点に回転することで、首に獲物の自重をかけて首を折るのだ
ワニが獲物に噛みつき体を一回転させて肉を食いちぎる、デスロールの空中版だろうか?
「よしよし、いい子だ」
アレクセイがライカ、リィの順に誉めていく
特別クエストは大成功で終わった