109話 ジャンク屋2
用語説明w
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
属性装備
その名の通り、特定の属性を帯びた装備だ
元の装備に単純に機能を追加したようなもので、基本デメリットはない
魔属性の属性装備では、聖属性攻撃のダメージを軽減できる
魔属性攻撃に対しては効果がない
属性装備は、当然ながら魔属性以外もあって、
火属性防具では冷属性を大幅に軽減
逆に、冷属性装備は火属性を大幅に軽減
水属性は火と冷属性をある程度軽減
風属性は土属性を軽減、土属性は風属性を軽減
このように、属性間には相克関係が存在するのだ
当然、属性装備の方が優秀なので需要はあるのだが、なかなか出回らない
俺も、防衛軍の最初の研修で冷属性の盾を見たくらいかな
属性装備はあまり見たことがない
なぜ出回らないか? それは属性防具の作成難度が高いからだ
出回る数が少ないから、当然値段も高くなる
属性装備を作れる鍛冶職人はかなり貴重なのだ
テーブルについた俺達にスサノヲがお茶を出す
「ありがとう、スサノヲ」
デモトス先生がお礼を言って、お茶を飲む
「それで、どうするんだ?」
スサノヲは早く結論を出させたいらしい
魔属性で汚染された俺の鎧をどうするか?
魔属性オーブとして加工し売り払うのか
フェムトゥを属性装備にバージョンアップするのか
「オーブにするといくらになるんだ?」
「防具を砕いて魔属性を抽出しオーブに封じる。加工と無属性オーブを用意して、コストが百万ゴルドくらいだ。オーブが完成すれば五百万ゴルドくらいで売れるかな?」
「四百万の儲けか…」
「だが、オーブの精製には十年くらいかかるからな。気長に待つことになるな」
「十年!?」
…ちょっと現実的じゃないだろ
「これだから素人は…、オーブが数日で精製できるわけねーだろうが」
そんなこと知ってるわけねーだろが!
ぶつぶつ言っているスサノヲを無視して話を進める
「それで、属性装備にするのにはいくらかかるんだ?」
「必要な素材が魔属性オーブ、属性を定着させる、魔導高速遠心浸透機を使う必要がある。これの使用が二百万ゴルド。そして魔属性オーブの購入に八百万ゴルド、計一千万ゴルドってことだな」
「…」
高い、高すぎる
どうしろって言うんだ?
それを見てスサノヲは怒った顔をする
「言っとくけど、これってほぼ原価の値段だからな! あたしの儲けがほぼない値段なんだぞ!?」
「え?」
「だから、あたしの技術料をまけてやるって言ってるんだよ!」
「…何で?」
「それは私が話そう」
デモトス先生が説明してくれた
目的は、スサノヲのブラックリスト登録を消すこと
そのためには、実力をアピールする必要がある
この腕なら仕事を頼みたいって客を作る必要があるのだ
属性装備を作れる職人は一流の腕を持っているという証明にもなる
それを防衛群の隊員が使えば、職人の腕をアピールするのにピッタリなのだ
で、俺自身は属性装備が破格の値段で手に入るのでWin_Winの取引だ
ちなみに、魔属性装備へのアップデート相場は五千万ゴルドらしい、一千万は破格過ぎだった
「お前の鎧は、自然に漬かったとは思えないほど均一に魔属性を纏ってるんだ。これなら、間違いなく属性装備に仕上がる。スッゲー運がいいぞ!」
「そ、そうなのか?」
「ああ、奇跡に近い。均一に高濃度に属性を浸透させるのが、属性装備の一番難しい所だ。普通は熟練でも三割くらいは失敗しちまうんだ。だが、それがほぼ済んでいるんだ、あたしは属性装備を勧めるね」
そうなのか…
だが、コストがなぁ…
「破格なのは分かったし、デモトス先生の紹介したお前の腕を疑ってるわけでもないんだ。だが、フェムトゥが使えないなら代わりの防具が必要だし、一千万ゴルドは俺には大金なんだ」
さすがに、戦場に防具なしで行くわけにはいかない
俺はデモトス先生の教えで、打算を大切にしている
どんなに得だろうが、最優先がやっぱり命ってのは譲れない
「代わりの防具はしばらく必要ないよ」
デモトス先生が口を開いた
「え?」
意味がよく分からない
「いい機会だから、ラーズには私の訓練の卒業条件を話しておこう」
デモトス先生の卒業条件?
「それは、闘氣を使わずにBランク戦闘員を倒すことだ」
「…」
「君にふさわしいだろう?」
デモトス先生は微笑む
確かに、それができれば俺の夢は叶うかもしれない
フィーナに相応しい男になれるかもしれない
だが、そんなことが可能なのか?
Bランクに一目置かれたいとは思っていたが、倒すなんて考えたこともなかった
「もちろん、まだラーズには足りないものがたくさんある。例えば優秀な武器防具。それに武器防具に依存しない実力もだ」
「依存ですか?」
「そうだ。武器が無ければ戦えない、防具が無ければ戦えない、それでは依存だ。あくまで、武器防具があれば便利、無くても戦う方法を探せる、それが理想だ」
「いや、でもちょっと難し過ぎないですか…?」
凄く嫌な予感がする
次の訓練は…!
「そういうわけで、しばらくは鎧なしで戦いたまえ。最低限の保険として、防衛軍のヘルメットは使っていい」
「やっぱりかぁ!」
だんだん訓練内容が読めるようになってきた
戦場で防具なしとかシャレにならないよ!
「そして、防具の費用を稼ぐ方法はある。Bランクを倒すためには、いい防具が必要になってくる。いい機会だからスサノヲに任せてみないかね?」
「はぁ、それはいいですけど、そんな簡単に一千万ゴルドは用意できなくないですか?」
「任せておきたまえ。君は足りないものはあるが、持っているものも多い。防衛軍という環境、小隊の仲間、そしてこのジャンク屋との出会いだ。これだけのものが揃っていれば、金なんかすぐ貯まるさ」
スサノヲは、すでにフェムトゥの状態を調べている
やる気はあるってことだな
「お前に出来るのか?」
「ふん、武器防具なら任せな! 完璧に仕上げてやるよ。ま、まずはオーブが買えなきゃ何にも出来ないけどな」
フェムトゥには思い入れがあるし、性能は申し分ない
また着ることが出来るなら、それは願ってもないことだ
「分かった、フェムトゥを属性装備にしてくれ。俺にとって、思い入れのある大切な装備なんだ、よろしく頼むぞ」
「防具に思い入れを持てるやつはあたしの客だ。任せろ!」
俺はスサノヲと、適度な力で握手をした
ナノマシン群で強化してないと、スサノヲの握手は普通に痛かった
一千万ゴルドか…
とりあえず金を稼ぐしかないらしいな
「…ご主人」
その時、データのアバターから悲しそうな声が聞こえた
あ、完全に忘れてた
データの外部稼働ユニットを買ってやるって話をしていたんだ
「ところで、スサノヲ。この店って武器防具以外は扱って無いのか?」
俺は慌てて確認する
なんで俺がAIに気を使ってるの?
普通逆じゃない?
「基本はあたしの作品を売ってる店だからな。何か欲しいものがあるのかよ?」
「ああ、俺のAI用に外部稼働ユニットが欲しいんだが、扱ってないかと思ってさ」
「ロボットだろ? ブラックマーケットを探してみてやるよ。どんなヤツが欲しいんだ?」
「データ、マテリアルドラゴンでいいんだよな」
「うん!」
データが嬉しそうに返事をする
AIに感情…
感情とはいったい何なんだ
「フェデル社製のやつだろ? 分かった、見つかったら連絡してやるよ」
スサノヲは、外部稼働ユニットにも知識がありそうだった
ま、見つかったとしても、どっちにしろ金を稼がないと何も買えないんだけどな…
まずは金を稼がないとな
94話の後に閑話を挿入しました
合わせて読んで頂けると嬉しいです
挿入する閑話はこれで終わりです
今後も、定期的に防衛軍の日常を閑話として作れたらと思います