107話 魔属性中毒からの復帰
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシンを運用・活用するシステム。ラーズの固有特性となった
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
デモトス先生:ゼヌ小隊長が紹介した元暗殺者で、ラーズの戦闘術の指導者。哲学と兵法を好む
一週間の入院生活を送り、やっと退院となった
急性重度魔属性中毒
生命力が極端に下がり、壊死を引き起こす
血管に聖属性溶液を入れ、体内から魔属性を中和
更に環境を属性が無い状態にし、無属性空間に属性が引き寄せられる性質を利用して体の魔属性を発散させる、属性減圧室の治療を行った
発見も症状が出た直後だったこと、更にエマの措置が的確だったことで、後遺症もなく完治することが出来た
「フィーナ、ありがとな」
俺は、迎えに来てくれたフィーナにお礼を言う
「お礼は期待してるよ? 最初から命に別状は無いとは聞いてたけど、心配はしていたんからね」
「はいはい、分かってる。これから仕事に行くのか?」
「うん。今日は夜勤だからね」
そう言ってフィーナは手をひらひらと振りながら出かけていった
さて、俺は隊舎に顔を出しに行くかな
・・・・・・
隊舎に戻ると、戦闘班が防衛作戦から戻ってきたところのようだった
「出動お疲れ様です!」
「あ、ラーズ! お帰りなさい!」
ちょうどリロがMEBから降りて来たところだった
「おう、帰ったか」 「おつとめご苦労様です!」
整備班のシリントゥ整備長とエレンだ
いや、出所じゃないんだから
「あら、ラーズ! お帰りなさい、退院できたのね」
向こうからはゼヌ小隊長が歩いてくる
「はい、ご迷惑おかけしました」
ゼヌ小隊長は、あの黒竜について話してくれた
黒竜の調査は一旦中止となった
これは、黒竜のいた洞窟を次の調査隊が発見できなかったからだ
更に、拡散している魔属性が浄化草のエリアでほぼ止まっていることも判明
浄化草エリアより奥を立ち入り禁止エリアに指定、その手前に観測拠点を作ることで経過観察となった
正体不明の魔竜を刺激しないための措置だろう
「ただ、もし立ち入り禁止エリアで動きがあった場合はラーズに調査依頼が来る可能性があるわ。魔竜を見ているのはラーズだけですからね」
「分かりました。動きというのは魔属性環境が広がった場合ということですか?」
「他にも、強力な力を感知した時ね。魔竜の輪力や魔力を感知したら、有害無害を確認しないといけないから」
…魔竜が暴れたら、俺ごときが行っても何も出来ないと思うけど
しかも、もう一回あの洞窟を見つけられるとも限らないし
「ラーズ…」
次はエマが来た
エマはリィの封印された勾玉を持っている
「宮司さんが魔属性汚染の治療を式神にしておいてくれたの…」
「うん、フィーナから聞いてる。ありがとう」
俺は、勾玉に念を送ってリィを呼び出す
「ヒャンッ!」
リィが勾玉から飛び出して来る
よかった、元気そうだ
「リィ、怪我はないか? 魔属性汚染はちゃんと抜けた?」
「ヒャン」
リィが頭を下げて頷く
…人間が頭を下げる行為を「YES」であると認識したのか
こいつ、やっぱり頭いいな
「な、リィ。あの川で俺を助けてくれたんだろ? ありがとうな」
「ヒャンッ!」
リィが宙に浮いた蛇のような体をゆらゆらと振っている
なんだ、誉められて嬉しいってことか?
とりあえず、俺は感謝の気持ちにリィの頭を撫でてやる
リィは気持ちよさそうに目を細める
リィがいなかったら川で沈んでいたし、魔竜に助けられることもなかった
本当にありがとうな
「そう言えば、ラーズ…。ナノマシン集積統合システムの2.0の反応が出てたけど…発現したの…?」
エマはメモ板に挟んだ検査結果を見ている
書かれた数値が各検査結果なのだろう
「2.0…。そういえば、フラケンシュタインと戦った時に自分の意思で発現できたんだ。忘れてたな」
「今、発現できる…?」
エマに言われ、俺は体に意識を向ける
すると、体の中に漠然としたスイッチの感覚がある
俺はそのスイッチをONにしてみる
ギュィィィン…
体の奥で音がなった
体に別の感覚が重なる
「ラーズ、体が…」
ゼヌ小隊長が口に手を当てて驚いている
俺が自分の体を確認してみると、腕や足、そして首や背骨が灰色くなっている
更に肌が全体的に分厚く、そして固くなっている
「恐らく、2.0発動時の変化…。骨格の強化、筋力の強化、そして恐らく皮膚の硬化と癒着…」
「皮膚の癒着?」
「その肌は防御力を上げるだけじゃなく、防具と癒着して肌を守る機能みたいなの…。ラーズの場合はフェムトゥと内側から癒着して本当の意味で外骨格とする機能…」
なるほど。ある意味、アーマーの性能を一番引き出せる機能かもしれない
ナノマシン郡としても、自身で硬化すりより固いものを盾に使った方がよっぽど効率的だ
俺は、今度は意識して2.0スイッチをOFFにしてみる
すると、風船の空気が萎むように、何かが抜けていった
この何かが2.0の感覚なのだろう
だが、発現しただけなのに若干の倦怠感がある
この固有特性は燃費が悪そうだ、気を付けよう
「分かった。そういえば、俺のフェムトゥってどうなったんだろう?」
「あ…、それならデモトス先生が…。他の装備品も拾ってくれてたから…」
「そうなんだ。聞いてみるよ」
エマは頷きながら、改まって俺を見た
「ラーズ…ナノマシン集積統合システム2.0の発現おめでとう…。完全に自分の意思で発動できてる…」
「…うん、ありがとう。やっと発現したよ。エマにも何度も治療してもらった甲斐があったよ、ありがとう」
そうか、これで俺も本当の意味で強化人間ってことか
デモトス先生にも、訓練のお礼を言わないとな
「やったわね、ラーズ。人事記録を更新しておくわ」
ゼヌ小隊長も嬉しそうだ
俺がデモトス先生にしこたまやられてるのを見てるからだろう
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って、デモトス先生を探しにいった
デモトス先生は倉庫にいた
床には、俺が落としてしまった超振動ブレードや陸戦銃、ロケットハンマーなどが置かれていた
更に、白い経文が書かれた布でぐるぐる巻きになった人の大きさの物が置かれている
「デモトス先生、今日退院してきました。装備を拾ってくれてありがとうございます」
「おお、ラーズ具合は良さそうだね」
俺は頷くと、布でぐるぐる巻きになった物を指差した
「これは何ですか?」
「…これはラーズの鎧、フェムトゥだよ。高濃度の魔属性で汚染されてしまい、もう装備はできないそうだ」
この経文が書かれた布で魔属性汚染を封印しているらしい
「…はい」
病院で聞いてはいたが、原物を見るとショックだ
フェムトゥ、この鎧には性能以上に思い入れがある
俺の初めての固有装備で、使い慣れた俺の体の一部だ
フィーナに借金してまで買い、何度も戦場を駆け、命を守ってくれた鎧だ
「だが、私に一つあてがあってね。明日、私に付き合ってくれたまえ」
「え…、はい」
こうして、デモトス先生に連れられて、明日出かけることになった
隊員人事記録(固有特性更新)
氏名 ラーズ・オーティル
人種 竜人
所属 1991小隊
称号 一般兵士(上位兵士に申請中)
通り名 道化竜
戦闘ランク D
固有装備
・フェムトゥ R3(現在使用不可)
・ホバーブーツ
・ロケットハンマー
固有特性 ナノマシン統合集積システム2.0 ←New!
得意戦闘
・囮、味方の編成に合わせた柔軟な立ち回り
・攻撃: 遠、中距離の射撃、杖とモ魔の魔法、近接
・ホバーブーツでの高機動戦闘、補助も可能
83話の後ろに閑話を挿入しました
合わせて読んで頂けると嬉しいです
これで三章が終わりです
次の四章から、武器防具の開発強化のための素材集めを始めていきます