106話 魔属性中毒
用語説明w
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
ゼヌ小隊長:1991小隊の小隊長
ジード:情報担当の魔族の男性隊員、補助魔法が得意
エマ:医療担当隊員。回復魔法を使える(固有特性)
サイモン分隊長:MEB随伴分隊の分隊長。巨人族の血を低く巨漢で丸坊主。蒼い強化紋章を使う(固有特性)
カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾と飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)
シリントゥ整備長:整備班のドワーフの整備長。
エレン:獣人の女性整備隊員。冒険者ギルドの受付も兼務
しばらくすると、デモトス先生とエマが来てくれた
俺が生きていることにホッしていたが、俺のどす黒い肌を見た瞬間の二人の顔が忘れられない
デモトス先生はすぐに緊急ヘリの要請をし、小隊に連絡をとっていた
エマは必死の形相で、俺に回復薬をぶっかけ、飲ませ、俺のもっている霊札を貼ってフェムトゥを脱がそうとしていた
俺の鎧であるフェムトゥには身に付けると脱げなくなる呪いがかかっており、霊札を使って一時的に呪を弱めないと脱ぐことができない
だが、いつもは一枚貼れば脱げるフェムトゥが、七枚貼っても脱げない
俺も自分で脱ごうとしたが、体に力が入らない
更に、俺は突然の吐き気に襲われて横の地面に嘔吐してしまい、そのまま意識を失ってしまった
デモトス先生とエマの顔を見て気持ちが切れてしまったのかもしれない
・・・・・・
…
……
………
「…」
「…おはよう、分かる?」
目を開けると、フィーナが座っていた
ここはどこですか?
見覚えのない天井、白い壁、カーテンで囲まれたベッド
なんか病院っぽいな
「あってるよ、ここは防衛軍病院」
病院?
あれ、俺は洞窟を出て…
どうなったんだっけ
デモトス先生とエマが来てくれて…
「魔属性中毒になって、そのまま意識が無くなっちゃったんだって。私はカヤノさんから連絡もらって来たんだよ」
意識が無くなった?
そういえば、肌と鎧がどす黒く染まってたんだよな
「そうそう、それが魔属性中毒の症状。肌まで染まるのはかなり危険なんだって。同僚の人や私もめちゃめちゃ心配したんだからね」
そうか…、ごめんな心配かけて
「うん。言いたいことはあるけど、無事だったからいいよ」
…ところで、俺さっきから声出してないよな?
「ああ、それは私が…」
フィーナが、顔の上に何かを動かした
それは、フィーナが発する精力の紐だった
「これをラーズの頭に繋げて、テレパスで考えてることを読み取ってるんだよ。もっと練習すれば、ラーズも視界の外の精力を感じ取れるようになるよ」
いや、待て
てへぺろじゃない
プライバシーを無視して何てことしてやがるんだ
「私が何年サイキッカーやってると思ってるの? ちゃんと、私に伝えたい意思以外はフィルターかけてるよ。それにラーズは今喋れないからしょうがないでしょ?」
喋れない?
俺はその時、初めて自分の中の口に管が差し込まれていることに気がついた
体もうまく動かないし、感覚が無い
「ラーズは三日間寝てたんだよ。まだ薬が効いてるからもう少し寝といて? 私は看護婦さんを呼んでくるからね」
そう言って、フィーナは立ち上がってどこかへ行ってしまった
フィーナの姿が見えなくなると、俺はすぐに眠りの沼に沈んでいった
・・・・・・
三日前、1991小隊の隊舎内
MEBハンガー内
シリントゥ整備長達がラーズの鎧を脱がそうとしたが、呪いが魔属性と反応してしまっていて霊札で呪いがうまく弱まらない
最終的に泉竜神社のヒコザエモンさんを呼んで、強力な霊札で数秒の間だけ無理矢理呪いを封印、その間に急いで脱がせた
エマは小隊の設備での治療は不可能と判断し、すぐに緊急搬送の手配をした
ラーズは聖属性噴霧薬剤の吸入器具を付けられながら、救急車でシグノイア国立防衛軍病院に緊急搬送された
救急車による緊急搬送後、MEBハンガー内には魔属性で汚染されたフェムトゥが残された
「この鎧、もうダメかもしれねぇな…。高濃度の魔属性に浸かっちまってるし、ここから魔属性汚染の除染はきついだろう」
シリントゥ整備長の前には、脱がされた鎧、フェムトゥがある
もとから呪われていたためか、魔属性をかなり纏ってしまっており、これを身に付けるのはアンデッドや悪魔じゃないと自殺行為に等しい
「ここまでの魔属性汚染は私も初めてですね。除染できたとしても呪いの解呪の数倍コストがかかるでしょう。ラーズさんよく生きてましたね…」
宮司で徐霊の専門家であるヒコザエモンさんにとっても、除染は厳しそうだ
しかし、デモトス先生が鎧を見て言う
「この鎧は私に任せて貰ってよいですか? 少しばかりあてがあるのですよ」
「あてって、この除染が出来る人がいるんですか?」
「いや、宮司さんでも無理なら除染は厳しいでしょう。私のあてとは加治職人ですよ。腕がいいので、何とかしてくれるかもしれない」
そう言って、デモトス先生は微笑んだ
ハンガー内のエレンの解析用端末
ジードとエレンがモニターを見ている
「ラーズのAIが送ってきた位置情報はここで間違いないか?」
ジードは解析用端末のGPS情報を確認しながらマップとにらめっこをしている
「位置情報は間違いないですね。でも、何で入り口が無いんだろう?」
エレンも首を傾げる
ラーズの救出後、データが送ったGPS情報を元に他の防衛軍隊員が調査を行った
しかし、ラーズがいたはずの川沿いの洞窟が見つけられなかったらしい
データは洞窟内の画像を残しており、洞窟があることは間違いないのだ
「考えられるのは、ラーズが会った竜が洞窟の入り口を隠したってことか?」
「でも、魔属性の竜にそんなこと出来るんですか? 地属性なら分かるんですけど」
「…分からんが、その竜が竜王クラスの能力を持っているか、角竜くらいの力を持ってるなら地属性じゃなくても可能なのかもしれん」
エレンはモニターに洞窟内の画像を表示させる
「この画像だけじゃ判断は厳しいですよねー…。確実に言えることは、ラーズが魔属性中毒を起こすくらい強力な魔属性の竜ってことくらいですね」
強力な魔属性竜の存在は、あの森が魔属性環境になった原因の可能性もある
だが、もしその竜の成長度が老竜だったり、竜王クラスの能力を持っているなら簡単には手が出せない
防衛軍の安全を考えるなら、偶然とはいえラーズが持ち帰った魔竜の情報は金の卵だ
倉庫内
「おい、これはこのまま置いときゃいいのか?」
サイモン分隊長が、倉庫の端に簡単な祭壇を置いている
「宮司さんが置いとくだけでいいって言ってましたからいいと思いますよ」
カヤノはすでに出動準備を終えている
先ほど防衛作戦が発動され、サイモン分隊長とカヤノが向かうのだ
先ほど、ヒコザエモンさんがリィを封印している勾玉を魔方陣が描かれた板の上に置き、治療用霊札を貼って治療を行ってくれた
やはり、魔属性汚染を受けていて、しばらく治療に専念させる必要があるらしい
「ラーズがいないと魔法弾のフォローが無いからキツいんだよな」
「私も中距離から守ってもらえて助かるんですけどねー」
ホバーブーツの高機動と、銃弾、ロケットハンマー、魔法弾、範囲魔法と、遠・近・補助・範囲を使えるオールラウンダー型のラーズは誰と組んでも相性がいい
しかも、腰が軽くどんな現場にもついて来てくれるかわいい後輩なのだ
「早く復帰できるといいけどな」
「命に別状が無いってことだけは良かったですね。さ、分隊長そろそろ行きますよ!」
サイモン分隊長とカヤノは今日の戦場に慌ただしく出動して行った
小隊長室
エマが救急車でラーズを送り出した後、ゼヌ小隊長に報告を行っている
「ラーズの容態はどう?」
「…急性重度魔属性中毒です…。属性減圧室に入り、低濃度聖属性溶液を人工心肺で循環器系に流します…。発見が早かったのだけは良かった…」
「そう、良かった。エマも疲れているでしょう? ゆっくり休んでね」
「小隊長…もう一つお話が…」
エマは深刻な顔で続ける
「どうしたの?」
「ラーズの変異体遺伝子検査が陽性反応を示しました…」
ゼヌ小隊長の目が一瞬見開かれる
「…間違いはないのよね?」
エマは無言で頷く
それを見てゼヌ小隊長はため息をついた
「…いつかばれるでしょうけど、可能な限り隠しましょう。また本部からうるさく言われちゃうからね」
「はい…」
そんなこんなで、俺は一週間入院となった
62話の後に閑話7を挿入しました
合わせて呼んで頂けると嬉しいです