105話 黒竜
用語説明w
ナノマシン集積統合システム:人体内でナノマシンを運用・活用するシステム。ラーズの固有特性となった
フェムトゥ:外骨格型ウェアラブルアーマー、身体の状態を常にチェックし、骨折を関知した場合は触手を肉体に指して骨を接ぐ機能もある
データ:戦闘補助をこなすラーズの個人用AI。明るい性格?
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている
…
…暗い
ここはどこだ?
どうなったんだっけ
そうだ、俺は…
まどろむ意識の奥から、記憶が甦ってくる
フランケンシュタインは俺を抱えたまま崖に突っ込んだ
そのまま崖下の川に転落し、流されてしまったんだ
「ヒャンッ!」
そういえば、空からリィが飛んできて必死に俺の腕を咥え岸に運んでくれようとしていたな…
…ガバッ!
そ、そうだ! リィはどこだ!?
俺は飛び起きて辺りを見回す
「ぐあ…」
だが、すぐに倦怠感と目眩に襲われる
体に力が入らない
気持ち悪い、横になりたい…
って、そんなこと言ってる場合か!
辺りを見回すが、暗くてよくえない
ここはどこなんだ?
「…目が覚めたか?」
ビクッ! 「…っ!?」
突然、暗闇から声が聞こえた
低い、よく通る声だ
声のした方向を見るが、真っ暗でなにも見えない
だが、少し目がなれてきたのか、ここが巨大な洞窟の中であることが分かった
少し離れたところから川の流れる音もする
落ちた川が地下にでも流れ込んでいたのか?
よく見ると、すぐそこに長く白っぽい蛇のようなものが横たわっていることに気がついた
体を地面に横たえていリィだ
「リィ!」
俺は体を起こして近付いていく
疲労なのか、ナノマシン集積統合システム2.0の反動なのか、足がふらつく
リィは意識を取り戻したのか、呼び掛けに反応した
「ヒャーン…」
リィは頭を上げ、弱々しく返事をする
体は擦り傷だらけだ
俺と一緒に川に落ちたのかもしれない
よかった
とりあえず、生きていることに俺は安堵する
俺は回復薬をリィに飲ませ、傷口に振りかける
そして勾玉のネックレスを取り出してリィを封印する
一度休ませた方がいいだろう
リィを勾玉に戻すと、目眩に襲われながらも改めて目の前の闇を見つめる
そして、やっと目が慣れてきて気がついた
「うわっ!?」
闇の中に何かがいる!
かなりの大きさだ
それは、頭を持ち上げてこちらを見ている
大きさは全然違うがリィと共通する長い顔、そして頭から生えた角
恐らく真っ黒な体なのだろう
だが、鈍い光が輪郭と闇を分けてくれることで、なんとなく姿が判別できた
竜だ
大きな竜がこっちを見ているのだ
何でこんな所に竜が…!?
竜
六つの成長度と六つの能力のランクを持つ強力な種族だ
成長度とは、そのまま竜の強さを表す
幼竜
子竜
成竜
角竜
老竜
古竜
竜の種族によっても違うが、老竜は三百年以上、古竜は千年以上を生きた竜と言われる
長く生きた竜ほど強力な力を持つため、この成長度は重要だ
余談だが、幼竜は卵から孵って一年ほどまでの幼い竜のことで、姿を見ることは稀である
更に能力ランクだ
牙竜 牙や爪を使う
属性竜 属性を纏い、ブレスを吐く
知能竜 言葉を覚え、魔法も使う
竜王 モンスターや他の竜を手下として使う
神竜 複数の属性を操る神のごとき竜
極竜 全ての属性を極めし竜
能力は竜の種によって様々で固体差もある
ある程度の長さを生きれば知能竜までいく竜が多い
竜王にまでなれば、魔王の真似事をして城を築いたりモンスターや竜の軍団を組織した例もある
神竜は、竜族の王といった立場で世界に数体しかいない
極竜は伝説の存在だ
目の前の竜は…
俺じゃ成長度は分からないが、大きさから角竜か老竜の可能性が高いのではないだろうか
能力は、言葉をしゃべったことから知能竜以上であることは間違いないだろう
俺は今まで、ブレスを吐く属性竜とは戦ったが言葉をしゃべる知能竜とは戦ったことがない
しかも、角竜は最低Bランクの強さだ
つまり、こいつは俺が今まで戦ってきた竜よりも圧倒的に格上だ
ゆっくりと黒い影が動く
恐らく黒い顔をこちらに向けたのだろう
…襲われたら死ぬな
「…生きているのか?」
また黒い竜が口を開いた
「え…、あ、うん。生きてる…」
竜と話すこの状況に戸惑いながら返事をする
しかし、竜が人間の俺の生存を確認するなんてことがあるのか?
…待てよ、よく考えたら俺はどうやって助かったんだ?
リィが俺を川から引き上げてここまで引きずって来た?
いや、無理だろう
俺は目の前の巨大な影を見る
目が慣れて、大分竜のシルエットがわかるようになってきた
「…もしかして、俺を助けてくれた?」
竜は小さく頷く
「その竜が流されながら鳴いていたのでな、気まぐれで助けてみたのだ。人間までついてくるとは思わなかったがな」
リィを封印しているネックレスを見ながら、黒い竜は少し笑ったように見えた
やっぱりこの竜が助けてくれたのか…!
「…ありがとう。助かったよ」
「礼なら連れの竜に言うがいい。何とか助けようと必死に鳴いていてな、思わず我に憐れみの念を持たせたのだ」
俺はそう言われて、ネックレスの勾玉を握る
リィ、あんなにボロボロになりながらも俺を助けようとしてくれたのか
ありがとな…
俺は頷く
だが、竜は思いがけない言葉を続けた
「だが、謝らねばならぬことがある。我が助けたことでお前に呪いの症状が出てしまったのだ」
「呪い?」
さっきから妙な倦怠感とふらつきがある
もしかしてこれのこと?
だが、命があったことに比べれば別に…
「そのままだぞ恐らく死ぬぞ?」
「え!?」
そんなにヤバいの!?
「竜である我を蝕んでいるほどの呪いだ、人間が耐えられるわけもない。無事だったなら早く帰って治療をするがいい。お前の連れの竜も同じ呪いにやられたはずだ」
「あ、そ、そうなんだ…分かった…」
混乱して返事が変になる
…まじか、そんなに強い呪いなのか
それなら確かに、早く帰った方がいいな
「データ、現在位置は分かるか?」
「ご主人、GPS情報で確認済みだよ! 本部に連絡もいれてるから救援も向かっているはずだよ!」
「そっか、助かる」
俺は黒い竜に向き直る
「外に出る道はある?」
竜は頷く
「後ろに歩くとお前が流されてきた川がある。川沿いを川下方向に歩いていくと外だ」
道があってよかった
この絶不調の状況であの川を泳ぐのは自殺行為だ
あー…フラフラする
「お前の連れの竜は封印の外に出すな。怪我に加え、この洞窟内の呪いで弱っているはずだ」
この竜はリィを心配してくれてるのか?
いい竜かも
「分かった、ありがとう」
俺はなんとか立ち上がる
「言ったであろう。気まぐれだ」
「俺、人種が竜人なんだけど、助けたのと関係ない?」
「…人間の種類なんか我が知るか。同族の竜を助けてみたらお前もくっついていただけだ」
そう言って、話は終わりだとばかりに竜は寝る姿勢をとった
俺はおまけかよ
くそっ、意識が朦朧としてきた
だが、これだけは言っておかないと…!
「…あんたが俺とリィを助けてくたことは忘れない。本当にありがとう」
俺は寝ている竜に言った後、岩肌に手を突きながら竜の洞窟を後にした
・・・・・・
データが連絡してくれていたお陰で、助けはすぐに来た
川沿いに歩くと、竜が言った通りに洞窟から出れた
そのまま少し歩くとなんとか登れそうな山肌があり、そこから上がる
「何だこれ!?」
その時、日の下でようやく俺の体と鎧が真っ黒になっていることに気がついた
なんとか川沿いから上に上がる
だが、もうダメだ…、もう立ってられない
「データ、助けは向かっているか?」
「ご主人、呼んでるよ! まもなく接触出来ると思うよ!」
「じゃ、索敵頼む。敵が来たら起こしてくれ…」
俺は木によりかかるが、ずるずると腰が落ちてしまう
足に力が入らない、いや全身に力が入らない
体が動かない
そのまま、俺は半分意識を失ってしまった…
101話の後に閑話を挿入しました
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