閑話11 ドッグラン
フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している
リィ:東洋型ドラゴンの式神で、普段は勾玉型ネックレスに封印されている
フィーナと近くにあるアリス記念公園のドッグランの来た
だが、ドッグランと聞いて想像していた場所と全然違う
なんというか、カオスだった
動物は二十匹以上いる
だが犬は二匹くらいしか見当たらない
この公園はかなりの広いエリアがドッグランとして解放していて、近くの住人がいろんな動物を連れてきては好き勝手に遊ばせている
「ドッグって何?」
「…四足歩行の可愛い毛むくじゃらだと思う」
そう、犬とはそういう生き物を示すはずだ
だが、目の前の原っぱには、巨大な鳥、大トカゲ、でっかい猿、人くらいの大きさのトンボ、骸骨までいる
「確かにここ、使役モンスター連れてきていい場所だもんね。凄いなー」
フィーナは周りの動物達?を見渡している
「ヒャンッ ヒャンッ」
リィは周りを気にせず、嬉しそうに空に舞い上がっている
今日はリィを連れて公園デビューならぬドッグランデビューをしに来たのだ
ここのドッグランは広くて有名らしいのだが、ここまで人気があるとは思わなかった
「モンスターってこんな簡単に飼えるのか…。あれ、サンダーバードだろ? あっちのはスケルトン、アンデッドなんてよく飼えるよな」
使役モンスター
モンスター使いが捕まえて調教したモンスターで、ペット化も可能だ
稀だが、ネクロマンサーが調整したアンデッドや、精霊使いが調整する精霊をペット化している場合もある
東洋竜型の式神であるリィを連れて来たら目立つかと心配していたが
全然そんなことはなかった
リィは、最初こそ家の中でも警戒心を持っていたようだが 、最近は慣れたのかリラックスしている
しかし、なかなか言うことを聞かなかった
「おい、リィ! 帰るぞ!」
「ヒャンッ?」
「おまっ、絶対聞こえてるだろ!」
といった感じだ
だが、フィーナが龍神皇国でモンスター使いにモンスターの飼いかたの秘訣を聞いたところ、
「上下関係をしっかり作る」
と言われたそうだ
モンスターと人間とは違う
そのモンスターに合った上下関係を作ってやることが、そのモンスターを幸せにすること
人間の価値観で優しくしすぎて人間を甘く見てしまえば、それこそがそのモンスターを不幸する、ということらしい
実際、フィーナが霊力でリィをがっちり押さえ込んだら、リィはフィーナの言うことを聞くようになった
「躾は大事だよ? 言うこと聞かずに道路飛び出したら轢かれちゃうんだし、戦いの時なんか尚更なんだし」
と、フィーナに言われた
納得した俺は、リィと上下関係をつけることにして、このドッグランにやって来たのだ
「リィ、お前と俺とどっちが上か教えてやる! 来い!」
「ヒャンッ? ヒャンッ ヒャンッ!」
リィは遊んでもらえると思ったのか、俺の胸に突っ込んでくる
ドスッ
「ぐはっ!」
あえて受け止め、そのまま仰向けに倒れながら地面にリィの長い体を叩きつける
ビターンッ
「ヒャンッ!?」
そのまま、体を回転させる
ドラゴンにかけるドラゴンスクリューだ!
「フーッ!」
ガブッ!
痛かったのか、リィが甘噛みしてくる
竜の牙は鋭いため、かなり痛い
俺はリィの顔に腕ごと全体重をかけて地面に押さえ込み、鼻先に噛みつく
「ヒャンッ!?」
リィは嫌がって体を捩るが、俺は逃がさないように噛まれている腕に思いっきり体重をかける
右足をリィの体にかけて動きを封じながら、更に腕を押し付け続ける
「ヒィーン…ヒィー…」
ついにリィは弱々しく鳴き、腕を噛む力を抜き、抵抗をやめた
俺はそれを確認すると、ゆっくりと鼻先を噛むのをやめ、リィの体を放す
「ヒィーン…」
リィが弱々しく体を起こし、恨めしげに俺を見てくる
だが、俺は毅然とした態度で言う
「リィ、俺がお前の主人だ。俺の方が上だ! 分かるな?」
「ヒンッ」
リィは頷く
「よし、ならこれからは俺のいうことをしっかり聞く! 分かったな」
「ヒャンッ」
「…お前、俺の言ってることが分かるのか?」
「ヒャンッ!」
…どうやら、完全に俺の言葉を理解しているようだ
竜に合った上下関係を作ることで、しっかりとコミュニケーションがとれるようになったということか
かわいそうとか、人間の感覚を押し付けるってよくないんだな
リィは、俺が思っている以上に頭がいい
何度かリィに噛まれているが、鋭い竜の牙にも関わらず一度も怪我をしていない
力加減をちゃんとしているんだ
後は、俺が飼い主として人間社会のルールや戦場で指示に従うことなどを教えていく
それがリィを守ることなんだ
「ラーズ、紅茶買ってきたよ」
フィーナが二つのカップを持ってきた
「お、ありがとう」
「上手くいった?」
「うん、何とかね」
そう言って、俺は餌札を取り出す
リィは霊力を食べるのだが俺には霊力が無いため、泉竜神社で買った餌用の霊札である餌札の霊力を与えているのだ
「リィ!」
「ヒャンッ ヒャンッ ヒャンッ!」
俺が呼ぶと同時にリィが飛び込んで来る
「ぐふっ!?」
俺はリィを受け止める
餌札を地面に置き、「待て」と命令する
「リィ、ちゃんと餌はあげるから飛び込むのは無しな?」
「ヒーン…」
反省したようなので、「よし」といって食べることを許可する
リィは餌札を咥え、霊力を美味しそうに飲み込んでいる
フィーナがカップの紅茶を飲みながらリィを見ている
「リィってやっぱりかわいいね」
「うん、かわいい。大きい子犬みたいな感じだよな」
遊びが大好きで、ご飯大好き
体が大きいからじゃれてくると大変だが、かわいい奴なのだ
「リィの属性って霊属性なのかな?」
「うーん、基本は霊体なんだろうけどどうなんだろうな」
魔導三属性
霊力を司る霊属性
霊体と魂を結びつける霊力を司る
氣力を司る氣属性
肉体と魂を結びつける氣力を司る
精力を司る精神属性
精神と魂を結びつける精力を司る
精神属性は、混乱や睡眠などの状態異常、怒りや哀しみなどの感情異常魔法が有名だ
だが、霊属性や氣属性の魔法や特技はあまり無いためレアなのだ
リィは竜だから得意属性があるはずなのだが、今のところ火冷風水土などの属性は感じられない
何かレアな属性だったらありがたいんだけどな
「ヒャンッ!」
「シャーッ!」
見ると、地面にいるツチノコと空中のリィが睨み合っている
同じ蛇っぽい外見で譲れないものでもあるんだろうか
ツチノコの飼い主は近くにいないようだ
面白そうだから様子を見てみる
「…」 「…」
だんだんリィが高度を上げ、フイッと顔を背けて俺のところに飛んで来る
ドンッ!
「ぐふっ!」
そのまま、リィが俺の後ろに隠れてしまう
お前、負けたの?
それでいいの?
俺が勾玉のネックレス出すと、リィは自分から勾玉に入っていってしまった
俺とフィーナは顔を見合せる
「帰ろうか?」
「そうだね」
そんなわけで、うまくリィとの上下関係が作れたのかな
これからどんどん絆を深めていく
よろしくな、リィ!
氣属性の例を挙げてみる
氣属性 特技 氣を十字に放出する…
「やめろっ!」
氣属性魔法 竜の闘氣を圧縮して撃ち出す…
「だからやめろ!」