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100話 戦闘と恋愛

用語説明w

MEB:多目的身体拡張機構の略称。二足歩行型乗込み式ロボット


フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している

リィ:東洋型ドラゴンの式神で、勾玉型ネックレスに封印されている



※かなり痛々しい、暴力的な描写があります


顔をマスクで申し訳程度に隠し、ドアを静かに開けて中に入る

中は板の間になっており、入り口側に一部屋、窓側に一部屋の二間になっている


入り口側の部屋には誰もいないが、奥の窓側の部屋から話し声が聞こえる

壁に耳を付けると、女の呻き声とベッドの軋む音が聞こえる

どうやら、監禁した女でお楽しみ中らしい


不意に、こっちの部屋に向かう足音が聞こえた

来るのは一名、チャンスだ


訓練を思い出せ、意表を突くんだ



ガチャッ…


開いたドアの脇の壁に寄り添い、しゃがんで息を潜める

見るからにチンピラな若い男が入ってきたが俺には気がつかない



パタン


ドアが閉まる

この部屋には俺とチンピラ君の二人きり

こいつをチンピラ1号と呼ぼう



仕留める


俺は背後から忍び寄り、首に腕を巻き付ける

チョークスリーパーだ

完璧に極れば一瞬で意識を失わせられる

油断している素人なんて尚更だ



…意識を失って弛緩したチンピラ1号を静かに床に寝かせて部屋の隅まで静かに引きずる


本当は次のチンピラが来るのを待ちたいが、救助対象の男の容態が心配だ

俺は部屋の端にあった掃除機を倒す



ガチャンッ


思ったより大きい音が響いた



「おい、どうした?」


窓側の部屋から声をかけられるが当然無視する


「おい、聞いてんのかよ…」


もう一度ドアが開き、次のチンピラ君が入ってくる

こいつはチンピラ2号だ


同じように壁側にしゃがんで隠れる



バタン…


ドアが閉まると、チンピラ2号の後頭部に思いっきりナイフの柄を叩きつける



ゴガッ…!


「…っ!?」



チンピラ2号は声も出せずに倒れる

すぐに支えようとするが、


ドダッ


少し音が出てしまった



「おい、どうした?」


まずいことに、最後のチンピラ3号がこっちの部屋に来そうだ

もう2号を見えない場所に移動させる時間はない


俺は倒れた2号の背中に、床に置いてあった小さいゴミ箱を目立つように置く

そして、また壁際で息を潜める



ガチャッ


「おっ、おいっ!?」


ドアが開き、3号が驚いた声を上げる

3号は下半身丸出しで何も履いていない


すぐに俺はテレキネシスを発動、2号の背中に置いたゴミ箱に弾く力を与える



タンッ


「うおっ!?」



3号が、突然弾けたゴミ箱に目を奪われる


軽い物を少し動かす程度のテレキネシスを、俺は使えるようになった

サイキッカーでなければ精力(じんりょく)を感じることができず、突然ゴミ箱が動いたように見えるはずだ


俺は、ゴミ箱を凝視している3号の背中に近づく

後ろから髪を掴み、膝カックンの要領で左足の膝裏を蹴り込む



「なっ…!?」


ドガッ!



後ろ側にバランスを崩した3号の頭を、思いっきり壁に叩きつけた


3号の意識が飛び、制圧完了だ

意識を失ったチンピラが三匹、床に転がっている


俺はすぐに隣の部屋に行く


最初に椅子に縛り付けられた男が目に入った

酷く殴られたようで怪我が酷い

息はあるが意識は無さそうだ

とりあえず回復薬をぶっかけておく



次に室内を見ると、ベッドに縛り付けられた女が横たわっている

俺と目が合うと、「ひっ…」と悲鳴を上げる


顔の左側が腫れあがり、唇は切れ、前歯が欠けているように見える

更に股からも血が出ている

殴られ、()()()()()()()()()()()()()()


酷いな

これは本当の意味の暴力だ

この女が誰なのかを俺は知らないし、助ける義理もない


だが、気に入らない


笑いながら、三人がかりでこの暴力を振るったチンピラが気に入らない

自分は絶対に安全だちと思い込み、一方的に相手をいたぶる

これはそういう暴力だ


こういう発想は、()()の発想だ

お前たちも、殴った相手と同じ人間だということを思い知らせてやる



ふと目をやると、部屋の隅に大きいカバンが無造作に置かれていた

中は魔石や魔玉だ

これが盗品なのだろうか?


俺はこのカバンをわざと女に見えるように担ぎ、部屋を後にした


俺は、入り口側の部屋に戻り、倒れているチンピラ3号の顔を足で小突いて起こす


「う…」


男が目を開けた瞬間、丸出しの股間のイチモツを玉ごと踏み潰す



ぐちゃっ…


「ーっ…! ーーっ!」



声にならない叫び声をあげながら、3号は泡を吹く

股間から血と体液と肉片を撒き散らせながら転げ回る

俺は頭を踏みつけて、もう一度意識を飛ばした


俺は残りの二人の股間も同じように潰し、この部屋を後にする

こいつらは思い知るべきだ、そう思うと自分でも驚くほど冷酷に、躊躇無く実行できた




・・・・・・




作戦は成功した

警察が通報を受けて確認に行ったところ、男女の監禁と暴行の事実が発覚し、部屋で倒れていた三人のチンピラが逮捕された


監禁されていた女性が、部屋に侵入した男が部屋のカバンを持ち去ったと証言し、チンピラを襲ったのは物取りの強盗と結論付けられた


監禁されていた男性は頭蓋骨を骨折する重症で、現在集中治療室に入っている

命に別状はないが、話を聞くのは先になりそうとのことだ




「大変だったんだね」


「ああ、最低なものを見たよ…」


もう夕方だ

海に近い丘の上の公園でフィーナと待ち合わせをした


仕事は終わったが、怒りのような、焦りのような、憤りのような感情が渦巻いている

こんな裏仕事のことをフィーナに話す気は無かったのだが、つい愚痴ってしまった


俺は、正義の味方じゃない

だが実際に女を殴り付け、弄んだ様を見ると、自分でも信じられないくらいの感情が渦巻いた


そんな俺の様子を見て、デモトス先生は、


「自分は絶対安全だと思い込んでいる人間の浅慮な愚行も、人間の持つ姿の一つだよ」


と言っていた


頭では分かる

では、俺の中で渦巻いているこの感情は何なんだ?

理解しているのに、納得ができていない



「フーッ ヒャンッ ヒャンッ」


公園の中をリィが飛び回っている

広い公園が楽しいらしい



「ね、ラーズ。もし…私がそういう目に遭ったらどうする?」

フィーナが不意に聞いてきた


フィーナの艶やかな黒髪が夕日を反射し、黄昏の黄色とオレンジに輝いて綺麗だ


フィーナが…?

もし男に襲われたら…?



パズルがパチンとはまるような感覚がして、突然分かった

俺の心で渦巻いていたものの正体が、だ



俺には大切な女性(ひと)がいる


それをあの被害者に重ねていたんだ


俺の中に渦巻いた感情は、「もし、フィーナが同じ目に遭ったら」という恐怖と焦燥感だ



「…大切だったからだ」


「え?」



フィーナがどういう意味かを表情で聞いてくる


だが答える余裕はない



「フィーナ、俺は…」


「え? え!?」



フィーナが驚いて目を見開く


だが、俺と目は離さない



俺はフィーナをあの女に重ねた


そして、フィーナがあの状況になったら耐えられないことを自覚し、恐怖した


そして、やっと理解した



俺はフィーナが大切なんだ


絶対に離したくない、一緒にいたいんだ



「フィーナ、俺は…」


「う、うん!」



俺は少し間を開け、言葉を続ける



「お前が…」




ギャリギャリギャリ…


ドッガァァァァァァン!!



突然、大音響が響き渡る


「な、何だ!?」


「い、いいところだったのに…!」


俺達が音がした方向を振り向くと、そこにはMEBが倒れていた

二本の足の先にタイヤが付いた高機動タイプだ


丘の下にパトカーの点滅する光が見える

警察から逃亡中のMEBらしい


公園には他に人もいるし危険だ

俺はすぐにPITを取り出して警察と防衛軍に通報する

暴れるMEB相手に素手では無理だ、応援を待つしかない


俺は公園内の人間を避難させようと、フィーナを見た


「フィーナ!?」

だが、フィーナは既にMEBの方に歩き出していた


「よくもいいところで…」


フィーナが拳をバキバキ鳴らしながらMEBに近づいていく

気のせいか、後ろ姿が本気で怒っているように見える


近づくな! そう言うようにMEBがフィーナを殴りつける



ドゴォッ!



だが、フィーナは腕でガードし、MEBの拳を受け止める

フィーナがBランクたる所以、闘氣(オーラ)

MEBに殴られてもダメージを受けない防御力、押し負けない筋力を発揮している


「ラーズ、私の新しい魔法を見せてあげるね。名付けて粉砕消滅魔法…」


フィーナはそう言って、火属性と冷属性の魔力を混ぜ合わせて一つの魔力を作り上げた


「おい! 名前とか属性の組み合わせとかいろいろまずいだろ、それ!」


「原理が違うから大丈夫。それより、今は早くケリを付けないと!」


「何でそんなに急いでるんだよ!?」


フィーナは、ずっと「早く、早く続きを…」と呟いている

呟きながら、同時に呪文も唱えている

いや、器用だな!?


そして…


「な、何が起こった!?」


フィーナが粉砕消滅魔法を発動すると、本当にMEBの下半身が()()した

爆発や蒸発じゃない、消滅だ

どんな原理なのか、全く分からなかった


あいつ、あんな魔法を使えるようになっていたのか…



その後、駆けつけた警察や防衛軍が暴走MEBを処理し、操縦者を逮捕していた

緊急性が明らかなので、フィーナの事情聴取もすぐに終わった


「終わったよ!」


「お疲れさん。さ、帰ろうぜ?」


俺は買っておいたコーラをフィーナに渡す


「え!? いやいや、待ってよ!」


「ん?」

俺は足を止める


「さっきの続きを…」

フィーナは俺の前に立って、目を見つめてくる


「いや、やっぱり何でもないよ」


「そ、そんな! 急に何で!?」


このフィーナの真っ直ぐさに俺は惹かれているのかもしれないな

俺はすがり付くフィーナを連れて、そのまま帰路につく


…今日は危なかった

思わず何かを口走りそうになってしまった


だが、フィーナの戦いを見て目が覚めた

フィーナの魔法も、そして闘氣(オーラ)も凄かった

俺はまだまだだ


恋愛より先にやることある




地味に続けてついに百話になりました

いつも読んでいただきありがとうございます




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