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98話 リィ

用語説明w

龍神皇国:シグノイアと接する大国でフィーナの働く国


フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している

ヒコザエモン:泉竜神社の宮司で霊能力者。眼鏡をかけたエルフ


非番だ

普通は訓練を休み、戦闘から離れ、仕事を忘れる

だが、俺は格闘技ジムで汗を流している


なぜか?

前回の防衛作戦で訓練の成果を実感したからだ

こういう時の訓練や練習は本当に楽しい


デモトス先生のナイフを使う実戦訓練や、銃や魔法を使う戦場では、人体を使う格闘術に価値は低い

人体による攻撃、つまりパンチやキックがそもそも当てられないし、当ててもダメージが低すぎるからだ


だが、身体操作の技としての格闘術は優秀だ

避けてからの射撃、魔法へのカウンター、動きの見切りと応用の幅がある


「お帰り、ラーズ」


「ただいま、フィーナ」


ジムから戻ると、フィーナも仕事から帰ってきていた


「泉竜神社に行くんでしょ?」


「うん、これから行く」


フィーナは、「先にお昼食べに行こうよ」と言って、出かける準備をしていた


俺も着替えて出かける準備をする

今日は、泉竜神社で式神と使役契約を結ぶのだ


前回の戦闘でボーナスが出て、更に貢献褒賞まで貰えた

貯金と合わせて百六十万ゴルドが用意出来た


それでも四十万ゴルドほど足りないのでローンを組もうと思っていたのだが、昨日メイルが、


「隊の特別支援枠を使わしてあげるわ。ゼヌ小隊長も了解済みよ」

と、言ってくれた


特別支援枠とは、隊員が急に資金が必用になった際の救済用の資金のこと

子供の受験費用だとか、交通事故を起こした等の突発的な弁済、更には借金が発覚した際の返済資金だ


「借金を隊が無利子で肩代わりして給料から天引くのよ。それで生活が持ち直せれば、辞めなくすむでしょ?」


そう言って、メイルはため息をついていた

実際は、そういう使い方が多い資金枠のようだ


そんなわけで、無利子で資金を確保、四ヶ月で返済計画だ

月々十万ゴルドの返済はちょっときついが、クエストで多少の報酬が手に入るとだろうと見積もっている


「また、私が貸そうか?」

と、フィーナが言ってくれたが、


「いや、やっぱり金の貸し借りはよくないと思うんだ。家族でもそこはちゃんとしないとな」


「分かった。でも、ラーズっていつもお金で苦労してるよね?」


「うぐっ! 俺達は、騎士団のお前と違って自分で装備を揃えないといけないんだからしょうがないだろ…」


フィーナの就職している龍神皇国の騎士団は装備枠にかなりの予算を出しているらしく、フィーナの装備はほぼ全てが防衛軍なら固有装備となるような装備だ

それが、全て支給されたというんだから凄い


これがBランクとCランクの差ってやつだ


「そんな泣きそうな顔しないで? 困ったら私が養ってあげるから」


「…ひもになる気はありません!」


俺達は昼飯に出掛けた




…食後


「おいしかったー」


「よく喰うよな」


フィーナとつけ麺を食べて、泉竜神社へ向かう

夜勤明けでつけ麺大盛りって、女としてどうなの?


「ん?」


フィーナを見ると、食事の余韻を味わっている穏やかな顔だ

あれだけ食うのに、鍛えているだけあって引き締まっている

むしろ、どちらかというと細い、いや貧相…


ボカッ!


「ぐはっ!?」


いきなり殴られた


「失礼なことを考えると、女性には伝わるんだよ?」


「う…、スイマセンデシタ」


「あ、やっぱり考えてたな!」


「カマかけかよ!? 汚ねぇ!」


二人で馬鹿なやり取りをしていると、泉竜神社についた




・・・・・・




宮司のヒコザエモンさんが、社務所に案内してくれた


「お待たせしました。早速契約という事でいいですか?」


「はい、お願いします」


ヒコザエモンさんが売買契約の書類と、式神の使役証明の申請書を机に出す

式神に限らず、使役対象には住居を管轄する行政機関への届け出の義務がある

面白いのは、生物だけでなく自立型のロボット等も届け出対象となっていることだ


「以前説明したように、この式神は中古品です。どういう経緯で売りに出されたのかは分かりません。もしかすると、前の主人にひどい扱いを受けて、人間に警戒心を持っている可能性もあります。それでも大丈夫ですか?」


もちろん、その可能性も考えた

だが、そもそも式神が売りに出されることが稀、しかも手の届く範囲の値段なんて二度とないだろう


多少のリスクは覚悟してでも買うと決めた


「はい、大丈夫です」

俺は、書類にサインをしてオンラインで入金する


「はい、確認できました。これで式神はラーズさんの持ち物ですね」


「…はい」


ついに、式神が服従俺のもの

だが、借金四十万ゴルドか…


「すぐに使役契約を結びますよね?」


「あ、そうですね。お願いします」


ヒコザエモンさんが、魔法陣が描かれたテーブルクロスをテーブルにかけ、その上に和紙で包まれたお札を置いた


「…ノミコト…カノ…トイノ……タマヘ」


ヒコザエモンさんが、何かの言葉を唱えている


「あれ、祝詞(のりと)だよ。神道系の霊能力者がその神社の神の力を借りる際の呪文。凄い、ヒコザエモンさんの手に霊力が集まってるけど、人が出せるような密度じゃない。しかも、浄化された純粋な霊力だ…」


フィーナが霊力を見て感心している

俺も霊力があった頃は分かったんだろうが、今は何も感じられない

ただ、雰囲気で何かが起こっているという気がするだけだ


「…ラーズさん、準備ができました。そこの針で指から血を出し、御札に血判を押してください」


「分かりました」


俺は針で血を出す

ちょっと痛いが我慢、気を付けないとナノマシン群が傷を塞いでしまう


俺が御札の中心に血判を押すと、淡い光が溢れ出す


「…出てきますよ」


ヒコザエモンさんが言うとおり、蛇のような東洋型ドラゴンが御札から現れた


しゅぅぅ…


半透明だったドラゴンの体が濃くなり、完全に実体化した

ドラゴンは宙に浮きながら丸くなり、目を閉じている


「後は名前を付ければ、目を覚まして契約終了です」


名前か、考えていたとも

俺は、眠っているドラゴンに呼び掛ける


「リィだ。お前の名前はリィだ」


ゆっくりと式神のドラゴンが目を開けた


何かが俺に繋がった感覚がある

これが式神との契約なのか


「うん、契約は成功です。式神のリィ、いい名前ですね」

ヒコザエモンさんが安心したように言う


「ね、リィって何から取ったの」

フィーナが聞いてくる


「遥か昔に、東洋のドラゴンと呼ばれた格闘家がいたんだ。その人物の名前からだよ」


「…何それ」


フィーナが呆れたように言う

失礼過ぎない?



ガブッ


「痛ってぇー!」



突然、腕を噛まれる

見ると、式神のドラゴン、リィが俺の腕に噛みついていた


「あっ!」


「大丈夫ですか!?」


フィーナとヒコザエモンさんが同時に声を上げる


リィは、俺の腕を噛みついたまま、俺の顔を見上げてくる

何、この状況?


「やっぱり、式神が警戒心を持っていますね…!」

ヒコザエモンさんが、リィを引き剥がそうと動くが俺が手で止める


「ヒコザエモンさん、大丈夫ですよ。私、ドラゴンを飼ってたことあるので。ドラゴンが噛むと、本気で血が出るし肉が抉れますからね。このリィの噛み方は本気じゃないと思いますよ」


「ラーズ、最初はフォウルとよく喧嘩して血塗れになってたもんね」

フィーナが懐かしそうに笑う


フォウルは、今は実家にいる俺が飼っていた雷竜だ

最初はよく噛まれていたな


「リィ、これからよろしくな」


そう言って、俺は噛まれた腕を口の奥に動かしていく

本気で噛まれたら無理だが、手加減して噛まれている場合は外すことはできなくても口の奥に突っ込むことはできる


「フーッ、フー、ヒャンッヒャンッ!」


口の奥に腕を突っ込まれ、自分から腕を放すリィ


「わ、嫌がりかたがフォウルそっくり! 西洋型も東洋型もドラゴンの嫌がりかたって一緒なのね」


こうして、式神のリィが俺の新たなペット? 仲間? になった





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