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91話 ドサッ

用語説明w

PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している


フィーナ:二歳下でラーズの戸籍上の妹、龍神皇国のBランク騎士として就職している

カヤノ:MEB随伴分隊の女性隊員。思念誘導弾を使い、飛行ユニットによる空中戦が得意なサイキッカー(固有特性)


町で買い物をして帰宅

今日は家飲みしようというフィーナの提案に乗り、早めに帰ってきたのだ



そんなわけで…


「おいおい、ペース早くないか?」


「ラーズがいない間、私も忙しくて全然飲めなかったんだよ」


フィーナはワインを飲みながらつまみをむさぼっている

スゲー勢いだが、大丈夫か?


「たかだか十日振りだけど酒が美味しく感じるな」


「久しぶりに飲むと美味しいよねー」


「うん。だけどこれは酒だけじゃないな。危険を気にしなくていいという、この環境が酒を美味しくしてるな」


「…訓練、大変だったんだね」

可哀想なものを見る目でフィーナが俺を見ている


「気を抜くのも人生には必要なんだよ…」


「ま、とりあえず飲も?」


そう言って、フィーナがホワイトビールを注いでくれた



久々の会話、久々の酒、久々の食事

会話が弾み、酒量が増えていく


リラックスできる、ストレスが癒されていく

フィーナとと家飲みは、気を使わなくて楽しい



だが…


癒されていく、…癒されてはいくんだけど

さっきから違和感がある


俺が酔っぱらっているだけかもしれないが

…何かさっきからフィーナが少しおかしい気がする


なんというか、あざとい

あざとかわいさがある


暗殺者との対峙が心を削る

心を削られると、男はあざとかわいさに癒されるものなのか?


違う、そうじゃない!

そもそも、何でフィーナがあざとかわいい?


こいつは、顔は悪くない

それは思っていた


だが、こいつにあざとかわいいと感じた事はあっただろうか?

そもそも「あざとかわいい」て何!?


「このチーズ美味しいよ?」


フィーナが、俺に寄りかかりながらワインを嗜む

いや、もう嗜むなんて量じゃないけども


俺達はちゃぶ台に買ってきた食べ物を並べ、家飲みを始めた

だが、二人で飲むのに何で並んで座ってるんだ?

普通は向かい合って座るよな?


「何考えてるの?」


フィーナがわざとらしく顔を近づけて、目を覗き込んでくる

くっ…、これがあざとかわいいってやつだ


さっきから、明らかに距離が近い!


「大丈夫?」


フィーナが俺の太腿に手を置く

だから、スキンシップも多いんだよ!


「…ちょっと飲み過ぎたかもな」

俺は目を逸らしながら、適当なことを言う


フィーナの何かを意識した途端に会話が続かなくなった

さっきまで、アホな会話を繰り返していたのに


妹のフィーナ相手に何を意識しているんだ?

ダメだ、別のことを考えなくては



「ね、訓練ってどうだったの?」

ふと、フィーナが上目遣いで聞いてきた


「え、訓練? 地獄だったよ…」


「筋トレ? 十日間で体が大きくなるって凄いよね」


「うん、確かに筋トレもきついはきついんだけどね」


そんなものは癒しだ

きついけど()()()()()()


「じゃあ、何がきつかったの?」


それは殺意だ

実戦訓練の間、ずっと向けられる殺意

体の中から途切れることなく沸き出る恐怖


逃げたい、でも目を逸らしたら死ぬ

動いても攻撃しても死ぬ可能性がある


絶対に安全だという確証がない

それがずっと続く


動かなくても安全だという確証がない

それはとても怖く、この恐怖から逃れたいと考え続ける


あの殺意を思い出すと呼吸が荒くなる

今は安全なのか? 酒なんな飲んでいいのか? 集中力は?



「…ーズ! ラーズ!?」


「え?」


「ラーズ大丈夫? 急に呼吸が粗くなって、凄い怖い顔してたよ?」


「…ちょっと訓練で絞られてさ。情けないよな、ビビり癖がついちまったかもしれないな」


フィーナが心配そうに俺を見る

そして、にこっと笑う


女っていうのは美しい

こんなに美しく笑うものなのか


…そう感じた

俺の心が弱っているからそう感じただけなのかもしれない

だが、フィーナが話を聞いてくれる、それだけで少し癒された気がする



そんなことを思って、フィーナを見る

すると、フィーナは何を思ったのか俺を突然抱き締めた


「え!?」


フィーナの胸で包まれ抱き締められる

こいつ、思ったより胸が…、いや違う!


なんだ、何をされてるんだ!?


「怖がっていいんだよ?」


「え…」


「逃げなかったんでしょ? 怖かったのに、逃げずに立ち向かったんでしょ?」


「…」


「百点満点だよ。それでも足りなかったら、私が助けてあげる。守ってあげるし癒してあげる。もう大丈夫だから…」


そう言ってフィーナは優しく笑って、更に俺を抱き締めた


な、なんだ、今日のフィーナはおかしいぞ?

俺は慰められてるのか?


だが、恐怖が少し無くなって来ている

安心感に包まれる…、まるで聖母に抱かれたかのように


これはフィーナのおかげなのか?

フィーナが居れば怖くなくなる


離れたくない…


離シたクナい…


ダキシメタイ…



…ブチブチィッ!



頭の奥で、太いしめ縄が捻れ切れるような音がした



ドサッ!


「きゃっ!?」



気がつくと、俺はフィーナを押し倒していた


「ラ、ラーズ…?」

フィーナの顔に、驚きと…恐怖の表情が見える


恐怖?

自分が癒されたいのに…、怖がらせた?


何で?

いや、俺は何をしてる!?


「あ、ご、ごめん!」

はっと我に帰り、慌ててフィーナの上からどく


「え? あ、うん」

フィーナが立ち上がる


「ち、ちょっと飲み過ぎた。ごめん、怪我してないか?」


「うん、大丈夫」


「じゃ、そ、そろそろ寝ようか! 明日も仕事だしさ。ハハハハ」


そう言ってちゃぶ台を片付けると、フィーナに「お休み」と言ってそそくさと部屋に戻る




…違った


フィーナがあざとかわいく振る舞ったんじゃない

俺がフィーナをそういう目で見てたんだ


俺は最低だ

フィーナを性欲の対象として見てしまった


ちょっと先生の殺気を思い出しただけで、フィーナを怖がらせるようなことをしてしまった

兄貴失格だ…


いや、思考を止めるな

十日間何の訓練を受けたんだ


明日からまた訓練だ

ストイックに、余計なことを考えずに


心を鍛えるしかないんだ




・・・・・・




フィーナは部屋に戻ると、ベッドに横になる


「まだドキドキしてる…」

ラーズに押し倒された場面を思い出す


ずっと、兄妹という今の関係を変えたかった


だけど…

今日のラーズはちょっと怖かった


「カヤノさん、失敗しちゃった…」


フィーナは一人言を言いながら、PITを取り出してカヤノからのメッセージを読み直す


フィーナちゃん! ラーズがやっと帰れることになったよ。訓練頑張ってたから休ませてあげてね♪

あと、これは重要情報。ラーズは過酷な訓練とプレッシャーで精神的にもかなり疲れてると思うの。無意識に救いや癒しを求めているハズ。

フィーナちゃん、男が癒しを求めたら大チャンス!今日は攻めるべきよ(ハート)


…追伸、家飲み誘って攻めちゃいなよ、同居の特権だし


読み終えて、フィーナは呟く

「カヤノさん、効果がありすぎたよ…」


もし…、もし私が怖がらなかったら…

私はどうなったのかな?

ラーズは…私に何をしたのかな?


バサッ!


「次は怖がらない…!」


フィーナはもんもんとしながら、布団を頭から被るのだった





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