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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月24日(月)
82/318

第82話「めっちゃ煽られてますね」

 本日、7月17日は漫画の日です。皆さんお好きですよね、漫画。2030年でもそれは変わらずです。近年は電子媒体で簡単に見られる漫画の需要が高く、紙媒体の漫画は徐々に少なくなってきてはいますが、それでも廃れていく気配は全くないので、やはり紙の漫画を求める方は少なくないようです。コストパフォーマンスや利便性を考えるなら圧倒的に電子書籍なのですが、電子媒体では感じ取れない魅力みたいなものがあるのでしょうね。南川様も、電子書籍も読みますが紙媒体の漫画や小説も好きですし、家にもそれなりの冊数ありますからね。ジャンルとしては、ほのぼの日常系やギャグ漫画、ラブコメなどを好む傾向にあります。基本的には読んで笑える漫画、幸せな気持ちになれる漫画がお好きなようです。逆にゴリゴリのバトル漫画だったり、人間関係ドロドロのヒューマンドラマなどはあまり好まないようですね。前者は全く読まないわけでもないようですが、後者に関しては本当に読みませんね。曰く「ドロドロしてるのは本当に嫌なんだよねぇ。いわゆるラブコメみたいな『フィクションっぽさ』があるのは全然楽しめるんだけど、現実にもありそうなリアリティになると『うへぇ』ってなっちゃうんだよね」とのこと。その線引きはいまいちよくわかりませんが、現実になさそうなものはフィクションとして楽しめる、現実にありそうなことは身近なものとして考えてしまって嫌な気持ちになる、みたいなことでしょうかね。

 ちなみに、7月17日が漫画の日である理由は、1841年のこの日にイギリスで風刺漫画週刊誌が発刊されたことを記念してのことです。また、本日とは別で漫画の日というのは他にも二つ制定されており、漫画の神様である手塚治虫氏の誕生日であり、漫画を文化として認知してもらいたいという思いから文化の日である11月3日、同じく手塚治虫氏の亡くなった日を記念して2月9日も『漫画の日』になっています。さすが神様ですね。

 では、スタート。



 給料日と推しのガチャを餌に南川様にやる気を出させた後。朝食や準備を済ませて家を出ようとしたタイミングで、郵便受けになにかが入っているのを見つけます。南川様は気付いていないようだったので指摘は帰宅時でも良かったのですが、本日は南川様は比較的すんなり起きてくれたこともあって時間に少し余裕があるので、今お伝えしてしまいましょう。

『南川様、郵便物が届いていますよ』

 近年はチラシなども電子化してきていますので、紙の郵便物というのはまあまあ珍しくなってきたんですけどね。

「あ、ホントだ。なんだろう……ってああ、毎年恒例のやつか」

 取り出した封筒を見た南川様は、差出人の名前を一目見て内容を把握したようです。毎年恒例というのはどういうことでしょうか。出会って三ヶ月弱の私にはその恒例とやらが分かりません。

『南川様、何が入っているんですか?』

「ああ、うん。じゃあ、歩きながら説明しよっか」

 そういうと、南川様は封筒を鞄の中にしまい、改めて家を出ます。確かに、無駄話をしていて電車に乗り遅れてはいけませんからね。時間的にはまだ余裕があるのですが、移動しておくに越したことはないでしょう。

「ええと、僕の小学校時代の友人がプロ野球選手だらけなのは知ってるよね?」

『はい。あまりに非現実出来ですが、存じています』

「……まあ、うん。そうなんだけど。でね、普段は所属球団もバラバラだしなかなか応援とかにも行けないんだけど、そいつらの大半が集まる試合がそろそろあるんだよ」

『……なるほど。球宴、オールスターゲームですね』

 ファン投票や選手間投票などで選ばれた選手のみが出場できる夢舞台ですね。出場できるだけでも大変栄誉あることですが、そこに毎年集まって来るんですか貴方の同級生たちは。キセキの世代かなにかなんですか。

「もちろん、毎年全員が出るわけじゃないけどさ。でも、シーズン中にみんなが集まれる機会なんでオールスターくらいしかないから、集まるのをモチベーションに頑張ってるみたいで、実際毎年半分くらいは出場してるんだよね。で、そういう機会だから同級生の僕にも観戦チケットを送ってくれたりするんだよ。それがさっきの封筒の中身だよ」

『なるほど……毎年オールスターが無料で見られるわけですか。いい御身分ですね』

「仕事の都合とか、場所が遠いとかで見に行けないこともあるけどね。でも、野球好きとしてはありがたい限りだよ。ただ、毎年余計なお節介を焼いてくるんだよな、あいつら」

『余計なお節介?』

「そ。僕を呼ぶための観戦チケットなんだから一人分でいいのにさ、毎年二人分送って来るんだよね。今年こそ彼女連れて見に来いよ、みたいなふざけたメッセージまで同封してさ」

『ほう。めっちゃ煽られてますね』

「でしょ? これが三枚あれば美音ねえと愛海誘って三人で行ったりできるんだけど、二枚しかないから片方だけ誘うっていうのもねえ」

『一人分くらい、南川様が出してあげればいいじゃないですか』

 いかにオールスターとはいえ、全く手が出ないような値段ではないかと思いますが。

「……貰った二枚の隣の席が、都合よく取れると思う?」

『……なるほど、そんな壁が』

 確かに、それは難しそうですね。三人で来て一人だけ別の場所とか絶望でしかありませんし。最初から三枚寄越せと言えれば良いのでしょうが、善意でチケットを送ってくれている同級生にそういうことが言える性格ではありませんからね、南川様は。

『では、去年までは誰と一緒に行ってたのですか?』

 南川様にはこれまで彼女などはいなかったはずですし、かといって貰ったチケットを無駄にするような人でもありません。

「大学時代は普通に大学の男友達で、会社に入ってからは水戸とかな。多分、今年も水戸を誘うことになると思う」

 なるほど、男友達とですか。まあ、その方が気兼ねなく野球を楽しめて良いのかもですね。同級生たちには「アイツまた男友達と来てる」と馬鹿にされるのでしょうが。


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