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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月23日(日)
75/318

第75話「ず、ずるくなんてありません」

 今週は日本ダービーですね。正式名称を『東京優駿』という競馬界では超有名なビッグレースで、競馬に詳しくない方でもその名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。皐月賞、菊花賞と並んでクラシック三冠という3歳の競走馬しか出走できない三大レースの一つにも数えられていて、第1回は1932年とクラシック三冠の中でも最も長い歴史をもちます。東京競馬場の芝2400mで争われるこのレースは「最も運のある馬が勝つ」と言われていて、これまで様々なドラマが生まれてきました。

 デビューから10戦10勝、そのうちレコード勝ち7勝という圧倒的な強さで無敗のままダービーを制したものの、そのわずか17日後に破傷風で急死してしまった『幻の馬』、51年トキノミノル。

 史上最多、19万人超の観客を熱狂の渦に巻き込んで3番人気から逃げ切り勝ちを果たすも、精魂尽き果てるほど消耗していてそのまま燃え尽きてしまった、日本の競馬を変えた馬、90年アイネスフウジン。

 7冠の父のプレッシャーに打ち克ち、父と並んで無敗のままダービーを制覇、その後は3度の骨折に苦しむも奇跡の復活を果たし、全ての競馬ファンに愛される『奇跡の名馬』、91年トウカイテイオー。

 ダービーを勝ったら騎手を辞めてもいい、と公言していた騎手の実に19回目のダービー挑戦で、最初で最後の勝利の切符を届けた、世代を代表するBNWの一角、93年ウイニングチケット。

 身体が弱く当日も発熱で体調が万全ではない中、最後の直線で音速の末脚を炸裂させ、デビューから僅か3戦目にしてダービー制覇という競馬の常識を覆した馬、96年フサイチコンコルド。

 ダービーだけは勝てないと言われていた天才ジョッキーに、デビュー10年目にして初めてそのタイトルをもたらし、後のジャパンカップでは日本を背負って戦った『日本総大将』、98年スペシャルウィーク。

 実に64年ぶりに牝馬としてダービーを制し、最終的にGIレース7勝を挙げたうちの6勝を東京競馬場で飾った『府中の申し子』、07年ウオッカ。

 ダービー史上最速、最後の600mを32.7秒で駆け抜け、7番人気から一気に頂点へと上り詰めた、後に天覧競馬となった秋の天皇賞も制する大舞台に強い馬、10年エイシンフラッシュ。

 ざっと並べてみただけでも各時代を彩った名馬ばかりですね。ここに挙げたのはほんの一例に過ぎませんから、皆さんも色々調べてみると面白いかもしれませんよ。毎年毎年ドラマが生まれますからね。日本ダービーとはそういうレースなのです。全ての馬が、全ての騎手が目指す、夢の舞台なのです。

 なお、突然こんなに競馬の話をした理由は作者のツエッターを見るとわかるでしょう。某ゲームにハマっているのです。

 では、スタート。



 フリースロー対決を終え、南川様達は次のゲームを遊ぶべく移動します。そしてやってきたのが銃でゾンビを倒していくシューティング―ゲームの筐体の前です。画面を見たくないのでカメラをオフにしててもいいでしょうか。

「お兄様……本当にやらなきゃダメですか?」

「なに? やっぱり怖くなったの?」

「い、いえ、私は大丈夫ですが、ユリさんが苦手なんじゃないかと思いまして」

『大丈夫です。カメラをオフにして画面を見ないようにします』

「あっ、ずるいです!」

 ず、ずるくなんてありません。私の機能なのですから当然の権利です。

「なら私も目を瞑ったままゲームします!」

「目を瞑ってシューティングゲームはできないよ!?」

 敵の場所はわからないし狙いは定められないし残弾数も確認できませんね。即死待ったなしでしょう。これでは当然ゲームに支障が出ますし南川様にも迷惑が掛かってしまいます。アシスタントAIとしてそれは良くありません。

『……仕方ありません。私もカメラ越しに妹様をサポートします。最速で敵を倒してさっさとクリアしてしまいましょう』

「ユリさん……! ええ、すぐに終わらせてしまいましょう!」

 私の言葉に珍しく強い口調で妹様が同意します。やはり、苦手なものに一緒に立ち向かう人がいるというのは心強いのでしょうか。現に私もそうですし。

「なんか意気投合してるね……。まあ、やる気になってくれたのならいいや。じゃあ、頑張ってクリア目指そうか。ユリは愛海に預けるね」

 そう言うと南川様は(スマホ)を妹様に手渡します。カメラの視点的に、妹様の目線の近くから見れた方がアドバイスしやすいですからね。妹様は上着の胸ポケットに私を差し、武器となる銃を構えて戦闘準備完了です。後はお金を入れればゲームスタートという状態で、ゲーム画面ではまだデモ映像が流れていますが、既に怖いです。ゾンビ気持ち悪いです。やっぱりカメラをオフにしたいです。

「じゃあ、始めるよ」

 南川様が二人分のお金を投入して、いよいよゲームスタートです。さっさとクリアして、このホラーな時間をすぐに終わらせましょう。

 しかし、私は恐怖のあまり忘れていたのです。このお二人、ゲームが上手くねえ、ということを。

「あ、あれ、おかしいな。全然弾が当たんないんだけど」

『腕前もないのにヘッドショットばかり狙わないでください南川様。当てやすい場所を狙ってください』

「ひやぁ! こ、こっちに来ないでください!」

『妹様結局目閉じてるじゃないですか! それじゃあ当たるものも当たりませんしアドバイスのしようもありません、せめて目を開けてください!』

 結果、ステージ1さえも突破できずにあっさりとゲームオーバーになりました。ある意味最速で終わりはしましたが、これは酷いです。こんな終わり方でいいんでしょうか。

「……うん。僕らにはこの手のゲームは向いてなかったね」

「ホラーも駄目、シューティングも駄目なのでどうしようもありません。クレープでも買いに行きましょう、お兄様」

 どうやらいいようです。

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