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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月20日(木)
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第7話「鮮度もクソもないですよ、アレ」

 南川様の好きな食べ物の話でもしましょうか。……え? そんな南川情報は興味ないしいらないから、私の話を聞かせろ? 仕方がないですね……では、私の好きな食べ物の話でもしましょうか。

 一番美味しいのは、やはり電源プラグから直接いただく電気ですね。大満足のボリュームですし、何より新鮮です。特に南川様の住むマンションはソーラーパネルなどで自家発電もしていますので、そのできたてホヤホヤの電気がいただけたときはまさに格別です。

 これが延長コードなどを間に挟むと、とたんに味が落ちます。タコ足なんか最悪ですよ、味は落ちますし量も少ない。ですが、もっとひどいのはモバイルバッテリーです。鮮度もクソもないですよ、アレ。確かに電源(えいよう)は一応補給できますが、その味はゲロまずいとしか形容のしようがありません。人にとっては便利なアイテムなのかもしれませんが、私たちにとってはクソまずアイテムです。よっぽどピンチの時でない限りはできるだけ食したくはありません。まあ、あくまで個人の感想ですが。でも、私たちにだって選り好みする権利くらいあっていいはずです。

 ……ところで、こんな話聞いて面白かったですか? 意味わかんなくないですか?

 では、スタート。



 正午。それは大半の会社員にとって昼休憩への突入を意味します。ご多分に漏れず南川様の会社も12時から13時を規定の昼休憩としていますので、緊急の電話でもない限りは12時から休憩に入ります。

「ぬあー、おなか減った!」

 自席で身体を伸ばしながら南川様が言います。基本的にはデスクから動かないのでそんなに疲れないだろうと思われがちですが、パソコンのモニターを見続けているので目は疲れますし、ずっと同じ姿勢なので身体のあちこちが痛くなりますし、頭脳労働は想像以上にエネルギーを消費するのでめっちゃお腹が空きます。と、以前南川様が愚痴っていました。なので南川様は割とがっつり昼食を食べます。

「今日は外で何か食べようかな」

 そんな南川様の昼食はおおよそ3パターン。本日のように外食をするパターンか、通勤時にコンビニ等で何か買っていくパターンか、前日の夕飯の残りをお弁当箱に詰めて持参するパターンのいずれかです。割合的には6:3:1くらいでしょうか。がっつり食べたがるのでどうしても外食が多くなります。そして、外食となれば当然私の出番です。

『何を食べに行かれますか?』

「うーん、今日はご飯ものの気分かな。丼とか」

『了解しました。では……カツ丼か天丼ならすぐにご案内できそうですが、どうしますか?』

 私は飲食店情報アプリ『ISHICHAN』にアクセスして、会社周辺で空席のある丼もののお店の検索結果を伝えます。現在の店内の空席情報や待ち時間、レビューなどがリアルタイムに確認できるアプリなので、大変便利です。

「カツ丼で」

『でしたら、このお店にしましょう』

 お店の情報を画面に表示します。会社から歩いて2分くらいの場所にあるカツ丼専門店です。細い路地を入ったところにあるため目立ちにくく、加えてまだ12時を回ってから3分程にも関わらず、既に8割近い座席が埋まっているのは人気の証でしょう。レビューも4.5と上々です。

「お。行ったことないお店だ」

『レビューは4.5なので味は保証できますよ。既に8割くらい席が埋まっていますので、すぐに食べたいなら少し急いだ方がよさげです』

「おっけ。じゃあ行こうか」

 財布と私を素早く手に持った南川様は、やや早歩きでエレベーターへと向かいます。すぐ食べたいんですね。

 中々来ないエレベーターを早々に見限って階段を駆け下りた南川様を道案内すること1分弱。目的地のカツ丼屋に到着します。席は……まだ空いているようです。と言っても、もうカウンター席が2、3空いているだけですが。

『間に合いましたね』

「だね。さーて、何にしようか」

 出されたお冷やに口をつけつつ、南川様はメニューを開きます。専門店だけあって、メニューはほぼカツ丼です。カツ丼だけで50種類近くあります。

「最初だし、無難に推してるやつにしとこうかな」

『はずれはしないですね』

 南川様が注文したのはこの店の一押し、『THE・カツ丼』の大盛りです。丼を覆い尽くすほどのカツが乗せられた、超シンプルな一品ですね。このボリュームで値段も650円なので、コスパも最高レベルでしょう。むしろお店の経営が心配になるレベルです。

 注文から約2分で、例のカツ丼がやってきます。出てくるまでのスピードも文句なしですね。

「いただきます」

 箸を手に取り、軽く手を合わせてから南川様がカツ丼を口に運びます。猫舌なので、めっちゃ冷ましてから口に運びます。

「なにコレうまっ!?」

 一口食べた瞬間、思わずそんな声を漏らしました。レビュー情報などからわかってはいましたが、改めてきちんとそう言葉にしてもらえると、このお店を勧めた者として一安心ですね。

「さすがレビュー4.5だね。今後は定期的に来ようかな」

『では、リストに追加しておきますね。ただ、水曜日は定休日なのでお気をつけください』

「おふぉえふぇはふぁへ」

『……食べながら喋るのはよくないですよ』

 と注意しつつ、頬張る姿が可愛いのでこっそりパシャリと1枚。断じて盗撮ではありません。許可は取ります。事後承諾で。

『ところで南川様。今のカツ丼を頬張るお顔の写真を撮影したのですが、保存していいですか?』

「何撮ってるの!? 恥ずかしいから消しなさい!』

 ダメでした。しょんぼり。仕方ないので、消したフリをしておきましょう。


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