第62話「ええと、スピーカの調子が悪いのでしょうか」
暦の上ではもう春になりますね。冬の厳しい寒さが和らいできて、徐々に暖かくなっていく過ごしやすい季節だと思いますが、花粉症の方にとっては最悪な季節かもしれません。スギやヒノキの花粉は春先にピークが訪れるので、この時期はしんどいですよね。まあ、私はAIなので花粉症とは無縁なのですが。
ちなみに、我が主の南川様も別に花粉症というわけではありません。直接そう聞いたわけではありませんが、3月に出会ってからこっち、別段そう言った症状は見受けられませんでしたからね。秋にピークを迎えるブタクサなどの花粉がアレルゲンである可能性はまだ残されていますが、少なくともスギやヒノキは問題ないようです。
ただ、花粉症の恐ろしいところは、今は問題なくても突然発症する可能性があるということです。自分の体内でつくることのできる抗体の量を超えてアレルゲンとなる花粉を体内に取り込んだ場合に、アレルギー疾患として花粉症が発症してしまうわけですね。ですので、今は花粉症ではないという方も、大量に花粉を浴びたりしてしまうと花粉症が発症してしまいます。自分は花粉症ではないからと油断するのではなく、今後花粉症にならないためにも花粉の対策はしておくに越したことはありませんよ。特に、つくれる抗体量の水準は遺伝によりますので、家族に花粉症の方がいる場合はご注意ください。必ず発症するわけではありませんが、発症しやすい傾向にありますので。
では、スタート。
お姉様への誕生日プレゼントを買いに来たはずの南川様達でしたが、妹様のご要望で初っ端から寄り道をしています。現在いるのは東館一階入り口付近の女性向けアパレルショップですね。店内は当然女性かカップルばかりですので、南川様は少し居心地が悪そうです。
「うーん、やっぱりこういうところは苦手だなあ……」
「そうですか? まあ、男性のお兄様は普段あまり来るところではありませんよね」
「あまりというか、まったくだよ」
男性一人で来ることはない場所ですし、かといって一緒に来るような女性もいませんからね。悲しいことに。
「美音ねえのプレゼントも買わなきゃだから、なるべく短めにね」
「了解です。探しているのは8月のサークルの合宿に着て行く用の夏服なんですけど、どれがいいでしょうか」
「8月って……まだ1ヶ月以上先じゃん」
そんな先で使うものを何故今、という表情ですね。
「その間にまたお兄様と買い物に行ける時間があるかどうかはわかりませんからね。去年の夏はお兄様が忙しくて全然会えなかったわけですし」
「あー……まあ、そっか」
そういえば、去年はお盆に帰省もできないほど忙しかったようですからね。妹様の意見もごもっともです。まあ、今年の夏は特に忙しくなりそうな案件はなさそうなので、大丈夫な気はしますけどね。とはいえ、突然予期しない仕事が降ってくるのがSEでもありますので、絶対とは言えませんが。
「それで、今年はどこに行くの?」
「沖縄の予定です」
「マジか。いいなあ……でもそれなら、なるべく涼しい格好の方がいいね」
8月の沖縄となると、暑さ対策は必須ですからね。しかし、関東の大学生の合宿先が沖縄ですか。リッチですね。一体どんなサークルなのでしょう。
『ちなみに、妹様は何のサークルに所属しているのですか?』
「ブラコン同好会です」
『……………………はい?』
ええと、スピーカの調子が悪いのでしょうか。まあほら、人の多いショッピングモールですからね。正しく音が拾えていなかったのかもしれません。
『あの、南川様。妹様はなんと?』
「ブラコン同好会、って言ってたよ」
……聞き間違いではなかったのですか。一体どういう同好会なんですかそれは。
「僕も最初に聞いたときは驚いたけど、なんか漫画とかアニメとかの兄キャラとか弟キャラ好きが集まってる同好会らしいよ」
『……ああ、そういう』
びっくりしました。突然妹様がカミングアウトしたのかと思いましたが、そういうことなのですね。納得はしましたが、紛らわしい名前ですね。でもって、何故その同好会の合宿先が沖縄なのでしょう。そもそもブラコン同好会の合宿とは。
「沖縄では何する予定なの?」
「海水浴がメインですね。後はあの水族館にも行く予定です」
「完全に遊び目的だね」
「まあ、大学のサークル合宿などどこもこんな感じではないですか?」
「……否定はしない」
いえ、真面目に合宿しているサークルもそれなりにあると思いますけど。スポーツ系とか音楽系のサークルの合宿とかはちゃんとやってるんじゃないでしょうか。ちゃんと調べたわけではないので推測ですが。
「というわけなので、後で水着も一緒に選んでいただいても良いですか?」
「うん、洋服ならともかくそれは兄と行くのはやめようか!」
確かに兄妹で水着を買いに行くというのはさすがにアレですね。妹様は大好きな兄に水着を選んでもらえて嬉しいのでしょうが、南川様の世間体は死にそうです。




