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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月20日(木)
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第5話「独身が加速しそうなアイテムですね、私」

 Yuriを使ってできることをいくつかご紹介しましょう。

 まず、スマホ内に関しては私は全権限を持ちます。万能アシスタントAIという触れ込みなので当然です。ですので、全てのアプリにアクセス、使用することが可能です。メモ帳にメモを勝手に作成したり、アルバムの中身を覗き見たりですね。ラエンやツエッターなどのSNSで発言する権限もあります。ですが、ここまで権限が与えられていると万が一Yuriが悪意を持ってしまった場合に甚大な被害につながりますので、もちろん制限をかけることはできます。試験段階ではそのような現象は確認できませんでしたが、念のための措置というやつです。南川様はその辺何も制限をかけていない脳天気野郎ですが、まあ私を信頼してくれているという好意的解釈をしておいてあげましょう。

 他には、ネットワークを介して家電や防犯カメラなどにアクセスすることもできます。洗濯機やテレビの操作、冷蔵庫の中身の把握はもちろん、防犯カメラを通して家の状況などを常時確認することができます。ペットや祖父母の様子確認に利用されるケースもあります。当然、こちらもネットワークのつながる限り無制限にアクセスできてしまっては犯罪の温床になりかねないので、アクセスできるのは登録された家電や防犯カメラに限られますが。ですが、ネットワークさえつながっていればどこからでもアクセスは可能ですので、例えば会社を出た直後に「家に着く頃までにお風呂沸かしといて」みたいなこともできるわけです。独身が加速しそうなアイテムですね、私。

 では、スタート。


 読書に集中すること約1時間。電車は終着駅に到着します。乗客全員が降車するため鬼のように混雑しているこの駅こそが、南川様の職場の最寄り駅です。

「何年経っても慣れそうにないね、この混雑は」

『人混み苦手ですしね、南川様は。ちなみに、10年前と比べると利用客は3割ほど増えているらしいですよ』

 元々10近い路線が乗り入れるターミナル駅ですので、昔から利用客は多かったのですが、それに拍車をかけたのが「鉄道革命」と呼ばれる技術革新です。これにより各鉄道の最高時速は軒並み従来の1.5~2倍まで上昇し、所要時間が大幅に短縮されました。今まで1時間はかかっていた移動時間が3~40分程度になるわけです。これを機に、楽な通勤のためにと頑張って高い家賃を払っていた都心近くに住む人たちが一気に地方へ流出、ドーナツ化が一層加速する形となりました。結果、各地方と都心をつなぐ電車の利用客はどの路線も急増、そしてそれらが多く乗り入れるこの駅の利用客も一気に増えた、というカラクリですね。

「うへぇ……この規模の駅で3割って、相当じゃん」

『まあ、その分運行本数も格段に増えていますので、瞬間的な混雑度合いでは当時よりも緩和されているはずなんですけどね。

「これでも!?」

 一時期は約200%もあった都心の電車の混雑率ですが、現在はいっても150%くらいまでです。なのでデータ上は電車1本あたりの乗降者数は減っているはずで、それに伴って駅構内の混雑も幾分か緩和しているはずです。……あくまでデータ上は、ですが。私も実際に当時の混雑の様子を見ているわけではないので。ヨウツベとかにあがってますかね。

 そんな会話を混雑に紛れてしているうちに、南川様はどうにか改札へ辿り着きます。定期券など当然のように私の中にありますので、南川様は私を改札にタッチします。バンッ、と強くやらずに、触れるか触れないかくらいの感じで優しくかざしてくれるあたり好感度高めです。

 改札を抜けると、大半の利用者の導線は地下鉄のホームへと向かいますので、そこから外れる私たちの周りの混雑はそれなりに緩和されます。

「ふぅ。この辺まで来るとようやく落ち着けるね」

『そうですね。私もようやく落ち着けました』

「あ、ユリも人混み苦手なんだ?」

『はい。あれだけ人がいたら、当然同じだけスマホも存在しますからね。回線は地獄ですよ』

 現在日本のスマホ所有率は100%を超えます。つまり、最低でもあの人混みの人数と同じかそれ以上のスマホがあの場には存在した計算です。で、その殆どがそれぞれに電波を飛ばしているわけです。人には何も見えないかもしれませんが、私たちからすればそれはもうカオスですよ。例えるなら、ずっと目がチカチカしていて、かつ不快な耳鳴りがやまない、でも仕事はこなさなきゃいけない、みたいな。人だったら発狂していたかもしれないですね。アシスタントAI的には日常茶飯ですし、別に苦でもなんでもないのですが、まあ不快は不快です。なのでなるべく人混みの中でのスマホ利用は控えてあげてください。

「そうなんだ……。ユリも大変だね。少し休む?」

『いえ。これも仕事なので。ですが、気遣ってくださってありがとうございます』

 いくらヒトに限りなく近づいたとは言え、所詮はAIにすぎない私のためにここまで言ってくださるとか、どれだけ優しいのでしょう南川様は。何故これで彼女ができないのか不思議です。世の女性たちはAIの私以上に男性を見る目がないのでしょうか。まあ、変な虫がまとわりついてくるよりは全然いいですが。いいですが。

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