第43話「私、出来るアシスタントAIなので」
複数人でカラオケに行った際、採点機能をつけるかどうかというのは、中々に悩ましいポイントですよね。一人で行く場合お好きにどうぞですが、複数人だとそうもいきません。中には歌に自信がなく採点を嫌がる人もいるでしょうし、逆にカラオケは採点してこそだと言う人もいるでしょう。あるいは南川様のように点数関係なく音程表示が欲しいから採点機能をつける人もいます。みんなで楽しむためのカラオケに採点なんか要らない、と思う人もいます。採点への考え方は人それぞれです。だからこそ複数人でカラオケに来た際に採点をどうするかは悩ましいのです。
もちろん個別設定ができるのは百も承知です。つけたい人だけがつければいい、それも確かに解決策の一つです。ですが、これはこれで揉め事に発展したりするので注意が必要です。例えば採点を付けた人が滅茶苦茶上手だった場合、「なんだ自慢か?」とか思う輩がいるかもしれません。逆に滅茶苦茶下手だった場合、「その程度で採点つけんなよ」とか思う輩がいるかもしれません。まあ、どちらもケースとしてはレアでしょう。そんなことを思う輩はごく僅かなはずです。ですが、運悪くその僅かに該当してしまった場合、高確率で面倒事に発展するでしょう。あるいは誰か一人だけ採点している、していないというケースも危ういですね。空気の読めない人物だと認定され、今後の関係に影響したりするかもしれません。同調圧力というのは想像以上に厄介ですからね。
……え? 気にしすぎ? 確かに、改めて振り返るとそんな気もしますね。私も南川様の思考に毒されてきているのでしょうか。困ったような、少し嬉しいような。
では、スタート。
曲の頭から最後まで、二人揃って終始テンション高く歌いきり、三曲目の採点結果が表示されます。
「僕が87.925点で、ユリが99.413点かぁ。やっぱり男性曲はなかなか点が伸びないね」
二人で歌えば二人分の点数をそれぞれ出してくれるのも、既存の機種にはありそうで無かった機能ですね。
『確かに音域の問題もあるかもしれませんが、英語の発音も影響していると思いますよ』
「えぇ? さっきユリが言ってたように歌ったつもりだったんだけど、そんなに酷かった?」
『ええまあ。2020年夏に水着が実装されたVR新陰流の彼女みたいでしたよ』
「マジか。それ文字に起こすと全部ひらがなになるやつじゃん」
『そうですね』
実際そうなってましたし。
「そこまでかぁ。せめてカタカナ表記になるくらいには頑張りたいな」
『妹様に教わったらどうです? 確か英語教師志望でしょう?』
大学でも教育学部に所属していたはずです。聞けば喜んで教えてくれそうな気がしますが。
「うーん。何回か教えてって言ったことあるんだけど、その度に「お兄様はそのままの方が可愛いので!」とかわけわかんないこと言って教えてくれないんだよ」
『あー』
そういうタイプですか。南川様が拙い英語を頑張って喋る姿を見て悦んでいるわけですね。ちょっと気持ちはわからないでもありません。妹様とは仲良くなれるかもしれませんね。と、それは置いておいて。
『まあ、聴いて歌ってを繰り返していれば自然と上達していくと思いますので、またリベンジしましょう』
三曲目にして南川様がしょげていては折角のカラオケが楽しくありませんので、励ます方向へ動きます。私、出来るアシスタントAIなので。
「ユリ……。そうだね、ユリからコツを聞いたのだってさっきだし。すぐ出来るわけないよね。よーし、頑張って練習しよ!」
幸い南川様はすぐにいつもの調子を取り戻してくれました。励ましの言葉をまだまだ何パターンも用意していたのですが、必要なさそうですね。
「というわけで、次はユリかな?」
『私ですか。そうですね……では、これで』
「おお……四曲目にして十八番、ボカロか」
『バンドレには収録されてないボカロ楽曲も多いですからね』
縛りが始まる前に歌っておこうというわけです。あと一時間くらいはこのような選曲が続きそうですね。
『♪考える このままいつまで隠しておけるかな』
前奏が終わって歌い出し。あえて当時のボカロのような機械っぽい音声を出すことも可能ですが、別に物真似をしに来たわけではないので、普通に私として歌います。どっちで歌っても点数にはあまり影響しませんし。
『♪そっと傷ついた夜を呼び出してみる ささやかな魔法を一つかける それだけで僕らは飛べるのさ』
「うぉーおーおーおー」
サビに入ると、マイクこそ通しませんが南川様が合いの手を入れてくれます。こういうのがあるとカラオケはやはり盛り上がりますし、テンションも上がりますよね。一人で行くと味わえない感覚です。
ところで、whoaの発音さえも平仮名になってしまうのはどうしたものでしょうね。可愛いとか言ってないで正しい発音を教えてあげるべきでしょうか。妹様と要相談ですね、これは。




