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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月22日(土)
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第41話「ああっ、動揺して誤変換がっ」

 複数人でカラオケに行った際、お手洗いやドリンクバーに行くために席を立つタイミングって、結構気を遣いますか? いえまあ、私は大昔の女性アイドル並みにお手洗いには行きませんし水分の補給も必要ないので、その気持ちにはいまいちピンとこないのですが、南川様は気にするらしいので皆さんにお尋ねしてみたかったのです。

 南川様曰く、「カラオケ中のトイレとかドリンクバーってさ、タイミング難しくない? 自分の歌の番ではどうやったって行けないから他人が歌ってる間に行くことになるわけだけどさ、歌ってる途中で扉開けると外に歌声が漏れて申し訳なくなるじゃん? だから僕は曲終わりで行くことに決めてるんだけど、これから歌うぞって人の前で部屋を出ていくのもさ、なんかその人に申し訳なくならない? 例えばそれが上司とか関係の浅い知人とかで「俺の歌は聴きたくないのか」とか思わせてしまったら申し訳ないでしょ? 全然そんな事を思って席を立つわけじゃないのにさ。でも厄介なことにカラオケって他の人が歌う番でも自分の好きな曲とか知ってる曲だと聴きたくなるから席を立ちづらくなるんだよね。そうすると席を立つタイミングは自分の知らない曲を誰かが歌うタイミングとかになりがちなわけで、それってつまり自分と世代や趣味が違う上司とか知人の番になりがちわけだよ。そうやって何度もその人の番にトイレやらドリンクバーやらで席を立ってたら、いよいよ「俺の番にばかり席を立ってるなアイツ」って思われて関係悪化間違いなしじゃん? だから他の人たちが歌う番にも程々に席を立つようにしてそう思われない様に気を遣ってるんだよ。疲れるよね。これが気心知れた友人同士とかならこんなこと気にする必要もないのに」とのことです。なげえな。要点は30字くらいでまとめて欲しいものです。でもって絶対に南川様の気にしすぎだと思うのですが、いかがでしょうか。

 では、スタート。



 南川様の一曲目が終わり、今度は私の一曲目。マイクを握れない私は南川様が私のスピーカーの前に置いてくれたマイクに向かって歌い始めます。

『♪見果てぬ明日を信じてないのは〜』

 私は元を正せば機械音声ですが、近年のボーカロイドをはじめとする機械音声は人間の耳では違いがわからない程に肉声に近づいていますので、人間用のカラオケ採点機でも私の声をしっかりと判定してくれます。ビブラートやこぶし、しゃくりにフォールもお手の物です。音程だって余程のことがない限りは外しません。そんなのカラオケの上位をYuriが独占してしまうじゃないか、と思った貴方は正常です。ですが、カラオケに来て採点を付けて一人で歌うアシスタントAIなどぶっちゃけ奇特中の奇特です。まず私たち側からはそんなことは言い出しません。私も南川様から「せっかくなら歌ってみようよ。ユリの歌、聞いてみたいな」というお言葉を頂いたからこそ、今ではごく自然とカラオケに参戦するようになったわけですし。なので、南川様の様な特殊な人間が急増しない限り、私たちAIがカラオケランキングを荒らすような事態にはなりませんのでご安心を。

『♪ I will never lovin' you 何を失っても〜』

 という長い解説を挟んでいるうちにいつの間にかサビです。気合を入れて歌いましょう。

「相変わらずユリの英語は流暢だな〜。格好いいし是非できるようになりたいんだけど」

 私の英語の発音を聞いた南川様が、間奏の間に毎度恒例の感想を漏らします。……あ、違います、狙ったわけではありません、玉々です偶々。ああっ、動揺して誤変換がっ。

 こほん。まあ、南川様の英語力は一般平均に照らし合わせても残念なレベルですからね。読み書きも大したレベルではないので、発音も当然お察しです。

『英語の綴りのまま発音するよりは、原曲を聴いたときに聴こえてきたまま発音した方がそれっぽく聴こえますよ』

「なるほど確かに」

 まあ、原曲の発音が残念だったらどうしようもないのですが。

 そんな話をしているとあっという間に2番が始まります。そんなに長い間奏ではありませんからね。むしろ今の会話よく収まったな、というレベルです。

 そこから先は間奏らしい間奏はなく、最後の大サビまで一気に駆け抜け、私の一曲目も終了します。採点結果は99.952の全国3位です。まあ、私の手にかかればこんなものです。自己ベストも0.125点更新です。イバシス楽曲平均点も2位に上昇です。今日はスピーカーの調子も良さそうですね。ちなみにイバシス楽曲合計点の順位はボロクソです。音ゲーアプリなだけあって楽曲数が異常ですからね。

「さすがユリだね。今日は調子良さげ?」

『わかりますか。今日の調子なら消失も完璧に歌えるかもしれません』

「それはぜひ聴きたいね。人類が歌うとどうやっても息が続かないからなぁ」

 人類て。中には歌える人もいるかもしれませんよ。まあ、息、滑舌、声量のバランスを取るのはかなり困難な曲ではありますから、いるとしても相当希少でしょうけど。

『南川様も一緒に歌いますか?』

「うん、それ無理☆」

 何故(なにゆえ)朝倉。

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