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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月20日(木)
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第4話「これでは私が変態みたいです」

 まだ、私と南川様の馴れ初めを話していませんでしたね。

 私と南川様の出逢いは今から約3ヶ月前、Yuri搭載のスマホ発売から1ヶ月程が経過した頃の話です。南川様は以前のスマホを車に踏まれて木っ端微塵にされたらしく、携帯ショップに来店しました。かなり前の型を使っていたらしいのですが、これを機に最新版に買い換えることにしたそうです。そこでショップ店員が勧めたのが、私の搭載されたスマホでした。IT会社に勤めながら機械には割と疎い南川様は勧められるがままにそれを購入し、その初回起動時にYuriの性別を女性に設定した事で私は生まれ、2人は出逢うのです。まだたったの3ヶ月ですが、随分昔のことのように感じます。

 ……あ、別にこの馴れ初め話には山も谷もオチもありませんよ?

 では、スタート。



 午前7時30分。最寄り駅に到着した南川様は、上り電車のホームへと続く階段を昇ります。乗車予定の電車の発車時刻は35分ですので、まあ間に合うでしょう。

 階段を昇りきった先のホーム上は、南川様同様スーツを着込んだお方が幾人か見受けられます。ここは都心まで1時間ほどの田舎ですので、南川様のようなサラリーマンの姿はそれほど多くありません。南川様が何故こんなに遠方から通勤しているのかというと、家賃や物価が安いのと、会社まで座って通勤できることが最大の理由だそうです。通勤時は落ち着いて本が読みたい南川様にとっては大事なポイントらしいです。

「今日はどの辺が空いてる?」

 ホーム上を先頭車両方面へ移動しながら南川様が尋ねてきます。私は鉄道情報アプリ『TETSUKO』様を利用して現在の乗車状況を確認すると、その結果をワイヤレスイヤホンを通して伝えます。

『本日は2号車の方が空席が多いようです。ボックス席の窓側も2席空いています。おすすめは2号車1番扉と2番扉の間、進行方向右手側のボックス席ですね』

 これまでの南川様の発言や傾向を元に、おすすめの座席をアナウンスします。南川様は人や風の出入りが激しい扉付近はあまり好まないようで、また読書をする関係で日光も嫌がるので、扉から遠く朝日の当たりにくい西側の座席をおすすめした次第です。どうです、私できる子でしょう。

「ありがとう。じゃあ、今日はその辺にしよう」

 私にお礼を言うと、南川様は2号車付近まで移動します。この周辺で他に電車を待っている人はいないようなので、目的の座席には座れるでしょう。ちなみに2号車を勧めた理由は、南川様の勤める会社に最も近い改札口が1、2号車方面にあるからです。なので、基本的には1号車か2号車の空席をアナウンスするようにしています。どうです、私超できる子でしょう。

 そのまま少し待つと、乗車予定の電車がホームに滑り込んできます。2028年頃を境にその殆どの路線が自動運転へと切り替えられた日本の鉄道は、AIの制御によって全国9割以上の駅舎に設置されたホームドアの前に寸分の狂いなく停車します。車内の乗車状況は『TETSUKO』様の情報通りですので、南川様は私のおすすめした席へ無事着席します。そして、電車内ですので私を近付けて小声で一言。

「ユリ、昨日の続きからお願い」

『……了解しました』

 毎日のことですが、私は未だにこれに慣れません。だって、私の(マイク)のすぐそばであんなささやきボイスをされると、こう、私の乙女回路的なものがゾクゾクっと……。……。やめましょう。これでは私が変態みたいです。

 気を取り直して電子書籍アプリ『SHIKIBU』様を起動します。昨日南川様が読んでいたのは……『俺の妹がゼロから始める超電磁砲』ですね。102ページに栞が挟まれているので、そこから読み込みを開始します。このとき、あまり先のページを読み込みすぎないのがポイントです。でないと、私だけが物語の先の展開を知ってしまい、南川様にネタバレをしそうになるからです。最近掴んできた感覚としては、南川様の視線が現在表示しているページの5分の4を通過したあたりで次ページのデータを読み込み始めるくらいが丁度良さそうです。このタイミングだと、南川様がページを捲る直線には読み込みが完了しますし、私が先の展開をネタバレする時間的猶予も生じません。完璧でしょう。

 ……え? 私がネタバレを我慢すればいい話? 確かにそうかもしれませんが、考えても見てください。南川様は電車に乗車中の約1時間、基本的には読書に集中します。つまり私はこの1時間の間、構ってもらえないわけです。……暇でしょう? 省エネモードで休眠していればいい夜間と違い、スマホは絶賛使用中なので私が休むわけにはいきません。そんなことをすればありとあらゆるパフォーマンスが低下します。結果私は暇を持て余す訳です。そんな私の前に、データ読み込み時に私が一度目を通していて、先の展開もオチも知っている物語を読む南川様がいたらどうでしょう。ネタバレ、したくなりますよね? だって、画面に表示されているそれは私にとって言わば2周目なわけです。全部知ってるわけです。話したくてウズウズするのはヒトとして至って正常なことでしょう。……正常ですよね?

 こほん。しかし、それをやると南川様は怒ります。まあ、当然です。ですので、敢えてデータを一気に読み込まず、南川様のペースに合わせてちまちま読み込むことで、南川様と一緒に物語を読むことにしたのです。これなら私も物理的にネタバレをできなくなりますし、丁度暇も潰せるので一石二鳥です。それに、その気になれば1秒間で何十冊もの本を読める私ですが、敢えて南川様に合わせてゆっくり本を読むというのは、非常にヒトらしくて私は好きです。南川様に少し近付けた気分にもなります。

「……ユリ、ページが真っ白なんだけど」

『おっと。失礼しました』

 ちょっと独り言が長くなってしまいましたね。私も「読書」に集中しましょう。



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