第36話「砂糖を振りかけるだけでベーコンがカリカリに焼き上がるのでお勧めですよ」
仕事の関係で平日早起きする習慣がついている人が、せっかくの休日なのにいつもと同じ時間に目が覚めてしまうという話をよく耳にします。あれ、すごく損をした気分になりますよね。私も何度か同じことをした経験があるのでわかるのです。
南川様の平日の起床時間は朝6時ですが、休日は8時か9時くらいまで寝ています。余程疲れが溜まっている時は12時を回ってもまだ起きない、なんてこともあります。ほぼ週5で6時起きをしているはずなのに不思議と休日の6時くらいに目を覚ますことが無いというのは羨ましい限りですが、まあその話は置いておきましょう。
南川様のアシスタントAIである私も、当然ながら南川様と似たような時間に起床するわけです。アラームをかけて南川様を起こす仕事もありますので、5時50分くらいにスリープ状態を解除することが多いでしょうか。ですが休日になると、用事でも無い限りはアラームを設定しない南川様なので、その場合私はスリープ状態を解除する時間の指針がなくなるわけです。まあ、私がスリープ状態のまま南川様がスマホを操作したとしても、各種動作が少し重いとか私が使えないとかその程度なので、然程大きな影響があるわけではないのですが、アシスタントAIとして主人よりも遅くまで寝ているわけにはいかないので、休日でも少し早めにスリープ状態を解除する様に設定しているのです。
ですがそうすると、私のスリープ解除から実際の南川様の起床時間まで2、3時間空いたりする事もあって、その度に私は『もっと寝てられたじゃーん』と嘆くものです。AIだって休めるなら休みたいのです。
まあ、そういう場合は南川様の寝顔を思う存分堪能しているので別に苦痛とかではないんですけどね。
では、スタート。
妹様とのラエンを終えて寝落ちした南川様が次に目を覚ましたのは、土曜日の午前9時前でした。9時になったらアラームで起こそうと思っていたのですが、その前に自力で起きてくれたようです。
「ん……いつのまにか寝ちゃってたか……」
『おはようございます、南川様。現在午前8時54分です』
「あ、おはようユリ。9時ってことは、寝坊はしてないってことだね」
『そうですね。普段よりもお酒の量が控えめだったので、爆睡とまではいかなかったようです』
これが宅飲みで帰りの電車のことなど気にしないでバカスカ飲みまくった日の翌日だと、昼くらいまで何をしても起きなかったりするんですけどね。
「まあ、お酒が残ってる状態でカラオケ行くと死ぬからね。町田さんの面倒を見なきゃいけないのもあって、多少は控えてたんだよ」
『そうだったのですね』
その割には普通に飲んでいたような気がしましたが、まあいいでしょう。こんなことで言い争っていても時間の無駄です。
『ですが、寝坊ではないとはいえ開店時間まで余裕があるわけではありません。手早く朝食を済ませてしまいましょう』
「それもそうだね、っと」
掛け声と共に布団から身体を起こすと、寝間着のままキッチンへと向かいます。6時起きの平日と違ってゆっくり寝ている分寝覚めはいいので、顔を洗ったりはしないことが多いです。
「今日の朝ご飯は何がいいかなー。カラオケ前だし、いつもよりしっかり食べたいよね」
カラオケの消費カロリーは意外と多いですからね。2人で10時間近く歌うとなると交互に歌っても相当な曲数ですから、エネルギーは事前に蓄えておくべきですね。
「そうなるとやっぱり炒飯かな?」
『何故そうなるのですか。朝から炒飯を食べる人種はあまり存在しませんよ』
いるにしても朝用にあっさりめにアレンジしたレシピで調理する場合が多く、南川様が手を伸ばしかけている冷凍炒飯を朝から食す人はほとんどいないと思います。メニューが朝から重過ぎます。
「そうかな? まあ、確かにあんまり満腹の状態でカラオケ行ってもお腹が苦しくなりそうだしね。ほどほどにしておこうか」
言いながら南川様は卵を取り出すと、鮮やかに片手で割ってかき混ぜます。7年も一人暮らしをして適度に自炊をしていると、料理の腕は上達せずともこのくらいの技術は身につくよ、とのことです。
「ユリ、中火の少し弱めで頼める?」
『了解です』
フライパンに軽く油を敷きながら告げられる南川様の要求に合わせて、IHコンロを操作します。それと、要求はありませんでしたがフライパンを使うということで換気扇を回しておきます。
フライパンがほんの少し温まって来たのを確認して、先程といた卵を投入します。しばし放置したのち、菜箸で軽くかき混ぜていきます。いわゆるスクランブルエッグというやつですね。南川家の朝食への登場頻度がそこそこ高い料理です。まあ、火加減に注意していれば比較的簡単な料理ですからね。
スクランブルエッグを適当な皿に盛ったあとは、冷蔵庫から更にベーコンを取り出します。そしてフライパンに砂糖を振りかけてからベーコンを焼いていきます。砂糖を振りかけるだけでベーコンがカリカリに焼き上がるのでお勧めですよ。
そうして焼き上がったベーコンをスクランブルエッグと同じ皿に盛り付け、そこに食パンを2枚つけたら、本日の南川家の朝食の完成です。調理が簡単かつ短時間で済むので、週に1、2回は食卓に並ぶメニューです。
「いただきます」
お皿をリビングまで持っていって手を合わせると、食パンの上にスクランブルエッグとベーコンを乗せて口に運びます。その幸せそうな表情から、美味しいのであろうことは簡単に想像できます。私も味わってみたいものです。
「今日はなに歌おうかな」
『00年代か10年代のアニソンしかレパートリーないじゃないですか』
「そんなことないよ! 最近のだって歌えるよ! 歌えるけど歌わないだけだよ!」
『本当でしょうか』
既に南川様とは何度もカラオケに行っていますが、それ以外は聞いたことないんですけどね。まあ、歌うのがどんな曲であれ楽しみなことに違いはありません。早く時間が進まないかと、つい時計を気にしてしまうのでした。そんなことをしても意味がないのは私が何よりわかっているんですけどね。




