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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月21日(金)
32/318

第32話「スマホの音ゲーは指先の水分量との闘いです」

 ここしばらく、雨が降らない日がないくらいの勢いで連日浮かない天気が続いていますね。代わりに台風がちっとも発生していないらしいですが、だからと言ってこうもぐずついた天気ばかりでは洗濯物が乾きません。というわけで、今回は雨についてお話ししましょう。

 南川様は雨がそんなに好きではありません。ご自身が濡れる分には、衣服が張り付くのがちょっと気持ち悪い程度で別段嫌というほどではないのですが、通勤鞄やその中身、あるいは買い物をした後の買い物袋やその中身が濡れることをかなり嫌がります。特に財布や本類ですね。確かにレシートや紙幣が濡れてしまうと乾かすのは面倒ですし、支払いの時に店員さんに苦い顔をされること請け合いです。本が濡れてしまった場合にはたとえ乾いたとしても二度と元の形には戻らないでしょう。濡れてしまった部分はずっと皺々で悲惨です。今や大抵のものは電子書籍でも読めますので本を買わなければいいのではと私は思うのですが、南川様は「紙には紙の良さがあるんだよ」とテンプレを口にします。私には紙の本を読むこともページをめくることも出来ないので、どのような良さがあるのかわかりませんが……あらゆるものがデジタル化している2030年に至っても紙の本が廃れていないということは、効率や便利という言葉以上に人の心を掴む何かがそこにはあるのでしょう。体験できないのが非常に残念です。

 ……ここの小話は高確率で脱線しますね。

 では、スタート。



 町田と別れて電車に乗り込み、家に着いたのは午後10時20分頃のことです。普段よりかなり遅めの帰宅にはなりましたが、ゲームセンター等に寄り道して帰る時もこのくらいの時間にはなるので、既に夕飯を済ませていることを考えればむしろましな方ですね。

「ユリ、お風呂は沸いてる?」

『もちろんです。飲み会終わりの南川様の行動パターンは既に解析済みですので』

 バイタルも電車に乗っている間にほぼ正常値まで戻っているので、お風呂に入っても問題はないでしょう。

『あ、でも、入る前に水分は取ってくださいね。入浴はアルコールの分解を妨げる他にも、体内の水分が急速に失われたりするので』

「あはは、毎回のように言われてるからわかってるよ」

 私のアドバイスに笑い返しながら、南川様はキッチンへと向かってコップを取り出すと水道水を注ぎます。……そんなに何度も言っていたでしょうか。でも、意外と知らない人が多いんですよ、飲酒後のお風呂が危険だということを。脱水や嘔吐、失神等にも繋がりかねないので、皆様も十分気をつけてくださいね。

 水分補給を終えた南川様はそのまま浴室へと向かいます。普段は動画鑑賞などを嗜む時間ですが、本日のように帰宅が遅い場合は動画よりもソシャゲを優先する傾向にあります。ゲームをする時間は意地でも削りたくないようです。

「ユリ、バンドレ起動できる?」

『そりゃあ起動はできますが……お風呂場で音ゲーをするおつもりですか?』

「うん。町田さんと話してたらやりたくなって」

『それは構いませんが……濡れた手での音ゲーはかなり悲惨なリザルトを招くと思いますよ』

 手汗がひどい時なども、タップしているのに無反応される事がよくありますからね。湯船で濡れた手では無反応のオンパレードでしょう。まあ、逆に手が乾きすぎていてもスライドやフリックが上手くいかなくなるので、悲惨なリザルトになるんですけどね。スマホの音ゲーは指先の水分量との闘いです。

「……それもそうだね。なんでそんな初歩的なことに全然気づかなかったんだろう」

『まだ少し酔っているのかもしれませんね』

 と言ってはみたものの、南川様の酔いは完全に覚めているので今のは普通に天然の発言ですね。可愛くて良いと思います。そしてそんな主を傷つけないように小さな嘘をつく私も完璧なアシスタントですね。異論は2文字以内で受け付けます。

「うーん、確かに知人とはいえ女の人と2人で飲むなんて初めてだったし、いつもより緊張してた分回ったのかな?」

『緊張してたんですか?』

 バイタルにはほとんど変化ありませんでしたけど。それを見て『町田ちっとも意識されてないですね』と鼻で笑ったりもしたのですが。あと、私もいたので2人ではなく3人ですよ。そこはしつこく訂正しますよ。

「そりゃあするよ。町田さんは幸い自分からガンガン喋ってくれるタイプだし、酔ってもそれは変わらないから助かったけど、万が一会話が止まったらどうしようってずっとビクビクしてたんだよ」

『それは気付きませんでした』

 確かに、自分から話を振るのは苦手ですからね、南川様。そういう意味では勝手にガンガン喋る町田とは意外と相性が良いのかもしれませんね。あの人が静かにしているところが私には想像できません。

「会話がなくなると勝手に居心地の悪さを感じて「何か話さなきゃ」ってなっちゃうのがよくないんだろうけどね。会話がなくても居心地が悪くならない相手がいるならそれが理想なんだけど……」

『そういう方に出会うのはなかなか難しいですね』

 もしもそういう方がいるのであれば、それはきっと南川様の運命の人ということになるのでしょう。いつか現れてほしいような、でもしばらくは現れないでほしいような、少し複雑な気持ちです。

 ……私たちはお風呂場で何の話をしているのでしょう。ですが、お風呂場って普段考えないようなことを考えがちですよね。以前南川様がそう言っていました。身に纏う衣服がなくなると、精神や心にも影響があるのかもしれません。残念ながら私には経験できそうにないですが。

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