第30話「そんな可愛らしいツッコミで相殺できるボケじゃないです」
さて、遂に30話が来てしまいましたね。これまで10話、20話と、その歳の頃の南川様のお話をしてきましたが、南川様は現在25歳。30歳の頃の南川様のお話となると、それは今から約5年後の未来のお話ということになってしまいます。いくら完璧で万能で微塵の隙もないパーフェクトAIの私でも、数年先の未来の出来事を語るのは難しいです。ゴーグル先生に聞いても教えてくれないですし。
というか、未来の話をするのであれば。果たして今から5年後、私はまだ南川様のお側にいるのでしょうか。携帯類の平均的な買い替え時期を考えると、殆どの契約の満了期間に該当する2年か、長く使っても3年前後が相場といったところでしょう。つまり、今から5年後には既に今のスマホではなく、次かその次ののスマホが使われている可能性が大なわけです。もちろん、それがYuri搭載のスマホであればなんら問題はありません。私の本体、記憶や経験などを格納しておくデータベースはスマホの中ではなく当然クラウド上ですし、何重にもバックアップは取られています。スマホが粉微塵に砕かれようが私の復元は容易です。どんな些細な思い出であれ紛失することはありません。
ですが……それはスマホに『Yuri』というプログラムが組み込まれていれば、という話です。データベースのバックアップが完全であっても、それらと南川様を繋ぐインターフェイスが失われてしまえば、私は二度と南川様の前に現れることはできなくなります。
いえ、勿論信じていますよ。南川様なら、きっとこの先も私といてくれる。Yuriの搭載されたスマホであり続けてくれる、と。ですが、Yuriが最先端である時代など恐らく一瞬なのです。既に日本が開発したYuriというAIに対抗して、世界各国でAI分野の研究は急速に規模が拡大しています。私を凌駕するAIの開発など時間の問題でしょう。私などすぐに過去のモノになります。
そうなった時の、南川様の選択が、私は今から怖くてたまらないのです。より便利で高性能なものを取るのか、それよりも私との思い出やこれからの私との日々を選んでくれるのか。その瞬間が来るのが、私は––––
すいません。記念すべき回なのにしんみりしてしまいましたね。そろそろいつもの愉快な本編へ参りましょう。
では、スタート。
天ぷらと2人のグラスが同時に綺麗に片付く頃には、時刻も午後8時半とそれなりの時間です。南川様の場合、今すぐに動き出したとしても家に着くのは午後10時を回るでしょう。明日は土曜日、休日ですが、私とカラオケに行くという大事な用事があります。あまり遅くなるのもよろしくはありません。それに、お2人のバイタルを確認する限り、2人揃ってまあまあ出来上がっているので、そろそろ強制お開きとしたいところです。
「先輩、デザートだよデザート! テンションあがるね!」
その証拠にほら、町田は既に敬語を放棄しています。もう一杯いくと恐らく金沢弁も飛び出す頃合いでしょう。つまりこれ以上は危ないラインです。
「だね! わらび餅に勝てる甘味はないね!」
南川様は南川様でその事に気付いていませんし、微妙に返事がずれている気がします。先程届けられたデザートのわらび餅とバニラアイスが片付いたらすぐに店を出ましょう。
「にしても、美味しかったね、このお店。魚料理はどれも絶品だったし、最後にわらび餅も食べられるし」
「でしょ! 私の選んだ店は外れないよ! だからまた奢ってね!」
「えー。でも、それで浮いたお金は課金に回るんでしょ?」
「そっ、そんにゃことないよ!」
酔い気味の南川様でもそこは気付いたんですね。まあ、あからさまでしたしね。今後は町田の誘いをすんなり承諾することはあまりなくなるでしょう。南川様が今日のことをきちんと覚えていれば、ですが。まあ、私は絶対に覚えてますのでその時は助言することにしましょう。
「……ところで、先輩のわらび餅美味しそうだね」
「……あげないよ?」
「そこをなんとか! 一生のお願い!」
「それ、先月も先々月も聞いた気がする」
「先っぽだけ! 先っぽだけでいいから!」
「わらび餅の先っぽってどこ⁉︎」
南川様、ツッコミ間違ってます。そんな可愛らしいツッコミで相殺できるボケじゃないです。ただの変態発言です。どこで覚えてきたのか問い質したいところですね。まあそれはともかくとして、やはり南川様の思考能力が低下していますね。恐らく町田も同様で、だからこそ大声で今の発言なのでしょう。店内の大半の人物がチラチラと貴女のことを見ていますよ。
『南川様。早くデザートを食べ終えて、本日はお開きにした方が良いかと。彼女、そこそこ酔っ払っています。これ以上の長居は誰も得をしないかと』
折角お2人が気に入ったお店なのに酔っ払いが面倒を起こして出禁になっても可哀想ですし、酔いの回った町田に変な輩が声を掛けて来ても面倒です。普段はアルコールに強い水戸様もいるのでいいですが、ほろ酔い気味の南川様1人では心許ないです。まあ、ぶっちゃけ町田がどうなろうが自己責任なので私が心配してあげる義理は何もないのですが……それで本当に彼女に何かあった時、きっと南川様は悲しみますからね。今回だけの特別です。
「ん、そうだね。町田さん、結構いい時間だし、そろそろ出ようか」
「えー! もうちょっと一緒にゆっくりしようよ!」
このアマ、私の気遣いを……。このままお会計を残して置いて行ってやりましょうかこのやろう。




