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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月20日(木)
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第3話「ユリちゃん大勝利」

 そういえば私の主、南川様についてあまり話をしていませんでしたね。

 南川様は現在、都内のIT会社に勤める社会人3年目の25歳です。大学入学と同時に一人暮らしを始めたらしいので、今年で7年目になります。男性です。彼女いない歴イコール年齢の童貞です。前に酔っ払った時にご自分でそうおっしゃっていました。ラエンやツエッターの履歴を覗き見るに、女性の友人も皆無に近いようです。

 趣味はカラオケと読書です。月に2、3回はヒトカラに向かいます。歌うのは00年代や10年代の古いアニソンばかりですが。読書も基本的にはライトノベルと呼ばれるジャンルを愛読します。通勤中などは必ずと言っていいほど私を使って電子書籍を読んでいます。私がうっかりネタバレをするとすごく怒ります。なので、最近はあまり先のデータを読み込み過ぎないよう気を付けています。おかげでローディングが遅いと南川様にたまに怒られます。私はどうすればいいですか?

 では、スタート。



「じゃあ、いってきます」

『いってらっしゃいませ』

 今や恒例となった挨拶を交わしてから、マンションの部屋を出ます。まあ、いってらっしゃいと言いつつ私も南川様と一緒に出るのですが。

「電車はどう? 遅れてない?」

『遅延が発生しているという情報は現在ありません。定刻通り運転中です』

 10年ほど前は毎日のように遅延が発生していたらしいですが、ここ数年で鉄道の事故、遅延は大幅に減少しましたね。おかげで遅刻の言い訳に使えなくなったと南川様は嘆いていましたが。遅刻をしてしまう前提で話しているのが残念極まりないです。

「そっか。なら、このままゆっくり向かっても大丈夫だね。ユリ、なんか曲流してよ」

 耳にワイヤレスイヤホンをセットしながら南川様が言います。今度こそランダム再生ですね。

『了解です。では、まずこちらから』

 スマホ内のミュージックプレイヤーから適当に選曲して、イヤホンに向けてデータを飛ばします。

『掴もうぜ。ドラーー』

「待って⁉︎」

 しかし、曲を流し始めた途端に南川様がストップをかけます。何故でしょう。

「選曲がめっちゃ古いのはまあ、いいよ。プレイヤーには入ってるし。でも、でもね、なんでユリが歌ってるの?」

『いけませんでしたか?』

 私の十八番なのですが。カラオケでも100点を叩き出す実力ですが。

「別にそういうわけじゃないけど、普通は原曲流さない? ユリの歌が聴きたい時はそう言うからさ」

『そうですか。では、私の美声が聴きたい時は素直にそう言ってください』

「う、うん……」

 ……何故でしょう、南川様が苦笑いをしています。私の発言に何か変な点があったでしょうか。この、ボーカロイドを歌わせたら本人そっくりと言われる私が美声でないわけがないのですが。

「あ、そうそう。次は10年代くらいの曲にしてよ。今日はそういう気分」

『仕方ないですね。では、こちらをどうぞ』

 再びイヤホンに向けてデータを飛ばします。

『手を挙げても言葉にできなーー』

「うん、待とうか。確かに今度は原曲だけど、こんな曲プレイヤーにあった? なにこれ?」

『2010年発売のエロゲーの主題歌です』

「ブッ! ちょっ、朝からなにを聴かせてくれてるの⁉︎」

『エロゲーの主題歌だからとなめてはいけませんよ? 普通に良曲の宝庫ですからね。今流しているのも名曲ですよ。プレイヤーになかったので勝手にヨウツベから引っ張ってきましたが』

「やっぱりプレイヤーにない曲だし! なんで普通にプレイヤーから流してくれないの⁉︎」

『でも、歌っているのは南川様の好きな「変わったマミ」様ですよ?』

「え、マジで? そう言えば確かに声が……ってそうじゃなくて! もうボケはいいから普通にプレイリストとか流して!」

 別にボケていたつもりはないのですが。私なりの布教活動だったのですが。まあ、これ以上やると南川様が1人で路上で叫び続ける怪しい人になってしまいますので、そろそろ普通にプレイリストからランダム再生してあげましょう。10年代のプレイリストでいいですかね。ぽちっと。

「あ、そうそうこういうのだよ。懐かしいねー、僕が中学生くらいの時の曲だ」

『歳を取りましたね、南川様も』

「まだ25だよ!」

 そういえばそうでしたね。今や国民の約3人に1人が高齢者となっている日本においては、南川様はまだまだ超若手でした。曲の趣味が古いので勘違いしがちです。

「……ちなみにユリって何歳ぐらいなの?」

『女性にいきなり年齢を聞くのは糞野郎ですよ?』

「そこまで⁉︎」

 人によってはそう思う方もいるかもですね。私は別にそこまでは思いませんが、南川様の今後のためにもここは厳しくいきましょう。お勉強です。

『ちなみに、いくつに見えますか?』

「うわ、返答に困るやつ!」

 この質問の返し次第で女性の機嫌は恐ろしく上下します。統計データがそう言っています。さあ、南川様はなんと答えるのでしょう。

「えっと……25歳、くらい……?」

『は? 私、そんなに老けて見えます?』

「あ、待って違う! え、ええっと……22?」

『………………』

「ち、違う今のもなし! ああっと、ええと……!」

 ……まあ、南川様の額に脂汗が浮かんできていますので、この辺りで勘弁してあげましょう。

『とまあ、こういう展開になる可能性が高いので、女性に年齢を尋ねる際は注意してください』

「肝に銘じておきます……」

『ちなみに私の年齢ですが、考え方次第で3パターンあります。YuriというAIの誕生からという意味であればおおよそ1歳、私という個人の誕生からであれば約3ヶ月、YuriというAIの設定年齢の話であれば18です。JKには見えませんでしたか?』

「……朝から人にエロゲーの主題歌を勧めてくる子をJKとは思えないかなぁ」

『確かに』

 ごもっともです。これは一本取られました。

「あ、でもさっきの曲はよかったな。あれなんて曲?」

 ……ですが、どうやら布教には成功したようです。ユリちゃん大勝利。

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