第29話「梅酒のアルコール度数は案外馬鹿にできません」
折角の29話ですので、お肉の話でもしましょうか。作中では思いっきり魚を食している最中ですが、そんなの知ったこっちゃありません。
お肉というと、やはり代表的なのは牛、豚、鶏あたりでしょうか。2030年でもその辺りの食事情はあまり変わりません。まあ、牛に関してはゲップに含まれるメタンガスが二酸化炭素の約25倍の温室効果を持っているため、一時期温暖化対策として流通が止まりかけたのですが、メタンガスの抑制に無事成功したので今も普通に出回っています。
この3種類のお肉といえば、何肉が一番好きかみたいなのがよく聞かれますが、味覚を持たない私が栄養の観点から意見するなら、お肉は必要な時に適切な種類のお肉を食すべきです。例えば鶏肉。ビタミンAが豊富に含まれていますので眼の疲労改善などが期待できますし、消化吸収が良いので胃腸の調子が悪い時やお子様、高齢者にお勧めです。豚肉なら代謝に欠かせないビタミンB群が豊富なのでダイエット中などにオススメだったりします。牛肉は亜鉛が豊富で、皮膚や肌の保護、骨ほ丈夫にするなどの効果が期待できます。意外なところで脱毛防止や精力増強などの効果もあったりするらしいですよ。万能ですね、亜鉛。
もちろん、部位によって栄養は多少異なりますので、実際に食する際にはきちんとご自身で調べてからにすることをお勧めします。
ちなみに、南川様が好きなのは鶏肉です。仕事でパソコンばかり見ていますので、眼の疲労の回復という意味でも良いチョイスだと思います。まあ、本人はそんな事気にして食べているわけではないのでしょうが。
では、スタート。
お2人で天ぷらを口に運びつつ順調に消化をしていると、なんの脈絡もなく町田が切り出します。
「というか先輩、そろそろ私にラエンとか教えてくれてもよくないですか?」
「えー……」
「なんでいつも渋るんですか! 可愛い後輩女子のラエンが無料で手に入るんですよ⁉︎」
「うん、そういうところが理由かな」
自ら可愛い後輩女子とか言ってしまう痛い部分もさることながら、無料でとか言ってしまうのがアウトですね。人によっては有料で教えるんですか、貴女のラエンアカウントは。どこまで自己評価が高いのでしょう。
「これくらい私流のジョークじゃないですか!」
「いや、わかってるよ」
「なら何故⁉︎」
「うーん……真面目な話をすると、町田さんは返信がどえらい早そうだからかな」
「え、そんな理由⁉︎」
え、そんな理由なんですか? びっくりして町田と同じリアクションを取ってしまったじゃないですか。
「いや、人によっては結構気にするところだよ。あんまり向こうの返信が早いと、こっちも早く何か返さなきゃ、って気になっちゃうじゃん? それが僕はあんまり好きじゃなくて」
なるほど。南川様の性格的に確かに気にしそうですね。相手が気にしないよって言ってくれてもつい気にしてしまうタイプです。
「返さなきゃって気持ちが先行して返事が適当になるのは嫌じゃん? ちゃんと考えて、ちゃんと返事したいじゃん? でも既読になってから時間が経つと既読スルーだと思われるかもしれないし、それがきっかけで関係が悪化するかもしれない。そうやって色々考えてたら、下手にラエンとかのやり取りをしない方がいいのかな、って」
コミュニケーションを取った結果悪化するのが嫌だから、そもそもコミュニケーションを取らない。典型的なコミュニケーション下手ですね。仕事だと割り切っていない、南川様の素の部分です。飲みの席とはいえ、相手は仕事の後輩なのでここまで素をさらけ出すのは珍しいですね。お酒の力でしょうか。そういえば梅酒を飲んでいましたよね。梅酒のアルコール度数は案外馬鹿にできません。
「先輩めちゃくちゃ気にし過ぎです! 返信が遅いとか既読スルー程度で私が怒ると思ってるんですか! それは心外ですよ! 既読スルーとかされたらMなのでむしろ悦びますよ⁉︎」
「いや、そういう事じゃないんだけど……」
「いいえそういうことです! あと、ひとつ訂正すると私ラエンの返事めっちゃ遅いですよ! 基本的に通知切ってるので!」
「あれ、そうなの?」
「だって、音ゲー中に通知のバナーとか出てくるのクソウザいじゃないですか! それがどうでもいい奴からのメッセなら尚更です! 勝手にハードモードにされたらたまったもんじゃありません!」
「そ、そうなんだ……」
やけに激しく主張しますね。何かよっぽど嫌な思い出でもあるのでしょう。フルコン直前のバナー攻撃とか。同じ理由で『バッテリーの残量が少なくなっています』攻撃とかも嫌いなのでしょう。何故なら全く同じ理由で南川様もバナーとかバッテリー残量のお知らせが嫌いなので。特に後者は通信切断とかにもなるので、南川様から「ゲーム中には絶対出すな」と仰せつかっています。
「と、いうわけで! ラエン教えてください!」
「あ、ああ、うん」
どの文脈で「と、いうわけで」なのかわかりませんが、なんとなくの勢いに押されるように南川様が頷きます。まあ、南川様が承諾したことなので私からは別に何も言いませんが、今後町田からメッセージが届くたびに私がお知らせしなきゃいけないのは面倒ですね。私の独断で通知をオフにしては駄目でしょうか。
「じゃあ、私がバーコード出すので読み取ってください」
「おっけー。ユリ、頼める?」
『そう言うと思って既にリーダーを起動済です』
「相変わらず仕事が早い」
程なくして町田が表示させたバーコードを読み取り、仕方なく友達に追加します。
「あれ、このアイコン……もしかしてバンドレ?」
「そうです! 南川先輩ならわかってくれると思ってました! 休憩中に遊んでるの見てましたからね!」
バンドレ……ああ、南川様が良く遊ぶ音ゲー、バンドレボリューションの事ですね。どうやら町田も遊んでいるようです。
「そうだったんだ。結構やってるの?」
「ガチ勢を自負してますよ! ランキングイベントは常に100位以内取ってますし、サービス開始から今までの全キャラ引いてます!」
「全キャラ⁉︎ それはどんなガチャ運をしてたらそうなるの⁉︎ それとも廃課金なの⁉︎」
「ははははは廃課金だなんてそそそそそんなわけななないじゃないっすか!」
これは廃課金確定ですね。喋り方の動揺具合と心拍の急な上昇から見て間違いないでしょう。なるほど、貴女の給料はそこに消えているのですね。廃課金の結果、生活費が厳しくなって先輩にたかるって……これは想像以上にヤバい奴ですね、町田。やはりラエンの交換は止めておくべきだったでしょうか。




