第28話「私はロムちゃんが好きです」
週1で私たちの日常をお届けし始めてから、早いものでもう半年が経過しました。正直なところ、もうそんなに経ったのかという感じですね。だって、作中時間だとまだ2日も経ってないですし。このままではどこぞの麻雀漫画のようになってしまうかもしれません。まあ、例えそうなろうと今のペースは崩さずにのんびり進んでいく予定なのですが。
さて、7月になったということは世間的には海開きということになりますが、皆さんは海はお好きですか? 私はあまり好きではありません。いえ、身体に水が侵入してくるからとか、そんな低スペックな理由ではありません。何度か申し上げていますが私の防水は完璧なので、潮水相手だろうがへっちゃらです。何も感じません。そうではなく、海で遊ぶ人の大半は水着になるので、スマホを持ち歩くのが困難になる点が嫌なのです。ポケットの付いた海パンや、上からパーカーなどを装備しているのであれば話は別ですが、そうでない場合持ち歩く手段はほぼゼロです。Dぐらいの谷間があればワンチャン挟めるかもしれませんが、残念ながら南川様はAなので叶わぬ願いです。
つまり何が言いたいのかというと、せっかくの海なのに私が一緒に楽しめないというのが気に入らないのです。プールも同じ理由で好きくありません。私と南川様の初めての夏はもう目と鼻の先ですが、もし行く機会があれば南川様にはポケット付きの海パンかパーカーを装備してもらいましょう。最悪私に紐を付けて首から提げて貰います。意地でも一緒に楽しみます。
……ですが、24歳内陸住まいの独り身男性が、わざわざ海に出向くことなどあるのでしょうか。想像したら切なくなってきました。
では、スタート。
結局あまり意味をなさなかったPC講義を終えたお2人の前に、本日のメインディッシュ・魚の天ぷら大盛り合わせがやってきます。ついでに本日3杯目となる生ビールと梅酒のロックもやってきます。どちらがどちらの飲み物かは私がお伝えするまでもないでしょう。
「おお……カニをたらふく食べた後の天ぷら……」
「ユリに言われて注文をセーブしといてよかったね。これ以上増えたら流石に2人じゃしんどかったかも」
『だから言ったでしょう』
いつもの3人の中で最も食事量が多いのは水戸様ですからね。この方たちは一般的には少食気味に分類される側なので、この天ぷらでちょうど八、九分目くらいでしょう。胃袋の限界値の計算だって私にお任せなのです。
「で、ユリちゃん! このお魚たちは?」
さも当然のように町田が聞いてきます。刺身の時もそうでしたが、この人一般常識大丈夫でしょうか。今回皿に盛り付けられているのも有名な魚ばかりなので、私が説明せずとも知っていて欲しいのですが。あと、南川様を差し置いて貴女が私に堂々と質問しないでください。私は貴女のアシスタントではありません。私の主は南川様です。なのでこの質問に答える義務はないはずです。というわけで。
『南川様、この馬鹿に説明してあげてください』
「もうなんの捻りもなく罵倒されてる!」
「あはは……えっと、ごめんユリ、僕もわかんないから教えて?」
……貴方も馬鹿だったのですか。いやまあ、南川様も刺身の種類わかってませんでしたし、薄々そんな予感はしていましたが、案の定ですか。仕方がありません、南川様の頼みとあらばお答え致しましょう。逆に考えれば私の頼もしさをアピールするいい機会でもあるわけですし。あれ、そう考えると常識不足を残念に思う感情が薄れていきますね。これがダメ男に惹かれる女性の心境でしょうか。多分違いますね。そもそも南川様は別にダメ男ではありません。
『鱚、鱧、鯵、烏賊、海老、鰤の6種類ですね。中でも鱚や鱧は今が旬の魚ですし、天ぷらが美味しい魚としても有名なので、美味しいと思いますよ。天つゆと塩が用意されていますが、私としては塩でいただく方をお勧めします。その方が素材の味や衣の感触を楽しめますので。ちなみに言うまでもないことだと思いますが、一緒に乗っている野菜は南瓜と茄子、それからオクラです』
「おぉ! ありがと、ユリ」
『いえいえ。このくらい当然です』
私の見事な解説に南川様もご満悦のようです。……え? 最後のオクラだけ何故漢字じゃないのか? そりゃあ、オクラという名前は英語の「okra」に由来するものですからね。そもそも漢字表記が無いのです。無理矢理「秋葵」や「陸蓮根」などの当て字をする事はあるようですが、基本的には片仮名表記が正解です。間違っても小倉とかでは無いですよ。それはアニメ声の可愛い声優か、もしくは九州の競馬場ですからね。私はロムちゃんが好きです。
「ぶぅ。私の時は答えてくれなかったのにー」
感心している南川様の向かいで町田が頬を膨らませています。いやだって、私と貴女が会話したのは今日が初めてですよ? なのにあんな数年来の友達みたいな感じで話しかけられたら、そりゃ塩対応にもなります。それに、さっき私の解説にケチつけましたし。ケチつけましたし。




