第25話「ええと……14月53日とかでしたっけ……?」
大変今更ですが、この辺りで私が知っている町田情報でもお伝えしておきましょうか。みなさん別に知りたくない事だとは思いますが。
以前も言ったように、彼女は南川様の一つ年下にあたる23歳、社会人2年目の女性です。出身は石川県の金沢ですが、大学入学と同時に上京して都内で6年弱一人暮らしをしているので、今や標準語もペラペラで滅多に方言は出なくなったそうです。まあ、ベロベロに酔っ払うと無自覚のうちに出るんですけどね。
他には……ええと、そうですね。性格はご存知の通り無駄に元気が有り余っているタイプです。常にテンション高めでアホな言動も多いです。それもあって周囲からは不思議と好感を持たれていますし、誰とでもすぐに仲良くなります。某SNS「イニェスタグラム」の写真を見る限りでは休日もまあまあ派手な格好であちこち出掛けており、今回のように給料日前に限らず様々な方とよく飲みに行かれているようです。私の第一印象は『なるほど完全に遊んでる女ですね』でしたが、全身スキャンを試みた所まだ膜が綺麗に残っているので、どうやら生娘のようです。胸が絶壁だからでしょうか。確かにあのまな板では誰も……いえ、女の子的にはデリケートなとこですね。同性のよしみでこれ以上つるぺったんに言及するのは控えましょう。
それ以外だと……他に何か私が知っている事ありましたっけ……あ、そう誕生日! 誕生日が…………ええと……14月53日とかでしたっけ……? 駄目です、興味が微塵も無いのでメモリの片隅にも情報が残っていません。町田情報はここまでですね。
では、スタート。
くだらない会話をしている間に、最初の料理が運ばれてきます。メニューは……だし巻き卵に枝豆、それと刺身の盛り合わせですね。
「ふおお! だし巻き! 卵!」
黒い長方形の陶器の皿の上に丁寧に盛り付けられた黄金の宝石のようなそれを見ながら瞳を輝かせて叫んだのは町田です。これまでの傾向から考えて枝豆の方から食べるのかと思いましたが、ここまで卵に食いつくとは意外です。好物なのでしょうか。
「町田さん、ほんとだし巻き卵好きだよね」
「はい! 全食べ物の中でもトップクラスです! まさに黄金の宝石です!」
どうやら南川様は知っていたようですね。私と出会う前に……3ヶ月以上前に、恐らく今と似たような光景を目にしたことがあるのでしょう。なんとなく、面白くありません。あと町田、その表現は先程私が使ったので別の言葉に変えなさい。
「はむ……ほあっ、うまっ!」
「もぐ……ほんとだ、美味い! これは……魚の出汁かな? 海鮮の店ならではって感じだね」
皿の上で8当分にされていたはずの卵が瞬く間に消えていきます。それなりの量はあったはずなのですが、2分と掛からずに全て2人の胃の中へと吸い込まれました。5:3で町田の方が多く食べました。
「先輩、これ追加で頼みましょう! 私これならいくらでも食べられそうな気がします!」
「そうだね。でも、食べ過ぎには注意しなよ?」
「のーぷろぶれむ!」
「……ねえユリ、本当に町田さん酔ってないの?」
『酔ってませんね。至って正常値ですよ』
ですが、確かに普段と比べればテンションは2割増しぐらい高くはありますね。だし巻き卵の影響だと思われますが……こうもテンションが高いと自分の限界を見誤る可能性も高くなりますね。泥酔して帰宅困難などになられると南川様に迷惑がかかりますので、この先は町田のバイタルを注意深く見ておきましょう。
「お次は刺身ですね! ……これ、なんの魚ですか?」
「え……なんだろ。普段あんまり魚とか食べないからなあ。メニューには、季節の魚の刺身の盛り合わせって書いてあったけど」
……魚の区別も出来ないのですか、この2人は。仕方がありません、ここは博識な私が教えてあげましょう。
『左から順にアジ、スズキ、イカ、カツオ、そしてタイですね。どれも今が旬と言われている魚です。そしてどれも大変有名な魚です。大人として、分からないと恥ずかしいレベルです。これぐらい私に頼らずとも分かるようになってください』
「「すいません……」」
『反省しているのなら良いです。それより、刺身は早く食べた方がいいですよ。長く空気に触れていると酸化してしまい、味が落ちてしまうので』
「へぇ、そうなんだ。そういうことなら早めに食べようか」
「ですね! 刺身が私に食われたがっている!」
「そんな事はないと思うけど⁉︎」
「あ、すいません! 生おかわりで! あとだし巻き卵も!」
「聞いてねぇ……」
相変わらず自由な方です。今までは南川様の他にも水戸様という2枚目のストッパーがいたのでなんとかなっていましたが、今日は南川様1枚です。場合によっては南川様の手に負えない事態になる可能性もゼロではありませんね。私も可能な限りサポートしていきましょう。
『初めて入ったお店でその感じはどうかと思いますよ。もう少し常識を身につけた方が良いかと』
「ユリちゃんに常識を説かれた! どうしよう先輩!」
「ええと……店内の注目を集めて結構恥ずかしいから、もう少し大人しくしてくれると嬉しいな」
「先輩がユリちゃんの味方に! グルですか! グルですね! グルコサミンですね⁉︎」
「頼むから声のボリュームを下げて⁉︎」
……これは前途多難ですね。南川様が恥ずか死ぬ前になんとかできれば良いのですが。




