第22話「その辺のバイトリーダーよりも優秀ですよ」
今回は南川様の好きなお酒についてお話ししましょう。え? 前々回もお酒の話をした? まあそんな事もあったかもしれませんが、気にせず話を続けますね。
南川様は甘いお酒を好みます。同僚の水戸様からよく「女子か!」と突っ込まれるくらいには甘いお酒ばかりを飲みます。フルーツ系のカクテルが多めですね。ですがまあ、これにはもちろん理由があります。南川様自身がやや甘党というのもありますが、実は南川様は炭酸が駄目なのです。炭酸水ひと口で音を上げるほどの弱さです。ビールとかサワーとか飲めないのです。なのでそれらを避けてフルーツカクテルばかり飲んでいた結果、今や好物になっているわけです。
お店で飲むだけでは飽き足らず、最近は自宅で自ら作ったりもしています。出来栄えはもちろんお店で提供されているものには劣りますが、徐々に知識と経験を積んで本格的になってきています。私もこの身体でなければ是非ご相伴に預かりたいのですが……え? アンタの実年齢は0歳3ヶ月だし、設定年齢は18歳なんだからお酒は駄目だろう、って? ひゅ、ひゅーるるるる。そんな第3話で語った気がする設定のことなど誰も覚えていないので問題ないですよ、多分。それに、お酒は20歳になってからというのはあくまで人の話なので、AIの私には関係ないはずです。QED。
では、スタート。
コンビニでの用事を済ませた南川様は、町田の案内で本日の目的地へと向かいます。駅へと伸びる大通りから細い路地へと2、3度折れ曲がった先にひっそりと建つそのお店が、本日の飲み会の舞台のようです。
「へー、こんなところにお店があるんだ」
「足で探したらまず見つからないですよね。私もスマホで調べて見つけたので。来るのは初めてです」
「あ、そうなの?」
「はい。海鮮料理が美味しいらしいので来てみたかったんですよ」
「海鮮か。それは楽しみだね」
確かに、調べてみると海鮮で有名なお店のようです。レビューも上々、カクテルも充実しているので、町田にしては悪くないチョイスです。
「すいませーん! 6時半から2人で予約した南川なんですけど」
店内に入った町田が店員に声を掛けます。何故自分の名前ではなく南川様の名前で予約を取ったのか、小一時間くらい問い質したい所ではありますが。
町田の声はよく通るというか、無駄に大きいので、店員もすぐに気付いて2人を席まで案内します。上着を壁に掛け、鞄を脇に置いて椅子に腰掛けた町田は、メニューを広げて食べ物を吟味し始めます。その様子からするとコースとかではないようですね。
「コースにしてもよかったんですけど、初めてのお店なので自由に頼む方がいいと思って。大丈夫でしたか?」
「うん。せっかくだから色んな海鮮料理頼んでみようか」
「ですね!」
それから2人でアレもコレもとメニューを指差しながら見て行きますが、今日はそれらを2人で食べなければいけないことを覚えているのでしょうか。あと、南川様はちゃんと値段も見ながら選んでください。支払うのは貴方ですよ。……仕方ありません、ここは私が進言してあげましょう。
「うん、注文はこんな感じで決まりかな」
『南川様。その量、お2人で食べ切れるのですか?』
「え? あ、そっか。今日は水戸いないのか。いつもの癖で3人分で考えてた」
「やっぱりそうだったんですか。今日の先輩めっちゃ食べる気だなー、と思ってはいたんですけど」
「思ってたんなら言ってよ!」
『ちなみにそのままだとお会計は1万3680円になりますよ』
「……ソレハタイヘンダ。町田さん、なんか減らそう」
「めがっさカタコトでしたね、先輩。まあ、こんなに食べられる気はしないので全然いいですよ。にしても、ユリちゃんってこんな事まで指摘してくれるんですね!」
『私は優秀ですからね。その辺のバイトリーダーよりも優秀ですよ』
「「何故、比較対象がそれ……」」
なに口を揃えて突っ込んでくれてるんですか息ぴったりですかこの野郎。あと町田、ユリちゃんではなくユリさんだと何回念じればわかるんですか。私が口に出して指摘する前に察して欲しいのですが。
「先輩、ユリちゃんって結構ボケたりするんですか?」
「うん。だから、AIとしゃべってるって感じはあんまりないよ。友達とか家族としゃべってる感じに近いかも」
「へぇ〜! そんな事言われると私も欲しくなっちゃいますね!」
「買い換えればいいんじゃないの?」
「私にそんなお金の余裕があるように見えますかっ⁉︎」
「お、おう……なんかごめん」
いや、別に南川様が謝ることはないでしょう。町田はただお金がないことを無駄に威張って宣言しただけです。お金がないのは自己責任です。
『そもそも、どうしてそんなにお金がなくなるのですか? 貴女の会社の給料は平均から見ても悪くない額ですよ? なにに使ったらそんなに困窮するんですか』
「あ、あはは……まあ、乙女には色々あるんですよ!」
『……そうですか』
どうやら人にはあまり言いたくない使い道のようですね。それがなんなのかによっては、私は南川様のために激怒しなければいけないのですが……さて。今晩中に聞き出せるでしょうか。




