表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月20日(木)
2/298

第2話「10秒おきにランダム再生しますか?」

 ヒト思考型万能アシスタントAI、Yuriには、限りなくヒトに近い思考、対話能力のほかに、もう一つ大きな特徴があります。

 それは性別です。Yuriには、男性版と女性版が存在し、スマホの初回起動時に選択することが可能です。私は当然女性版です。南川様が一切の躊躇なくこちらを選択しましたので。

 ちなみに、男性版は同じ綴りで『ユーリ』と読ませています。女性ユーザーと一部のテイルズファンにはユーリの方が人気です。男性ユーザーには私と同じ女性版が人気ですね。皆さん、異性と会話している気分になりたいようです。残念な連中ですね。

 おっと。ついうっかり本音が出てしまいました。聞かなかったことにしてください。

 では、スタート。



 寄り道しつつ洗濯物を干し終えた南川様は、次に朝食の準備に取り掛かります。朝食を適当に済ませたり、一切摂らない方も多いこのご時世ですが、南川様はきちんと食べたい派のようです。料理スキルは三流ですが、自分で作りたがります。節約のためと本人はおっしゃっていますが、失敗も多いので正直節約になっているかは疑問です。後で計算してみましょうか。

「ねえユリ」

 おっと。南川様の残念な話を披露している場合ではありませんでした。

『なんでしょう』

「そろそろ期限が切れそうなのってなんかあったっけ?」

 期限……賞味期限もしくは消費期限のことですね。お任せください。冷蔵庫の中身もそれ以外も全て頭の中に入っています。

『冷蔵庫の卵2個があと2日ですね。それと、食パン2枚があと3日です』

「お、さすが。じゃあ、食パンオンザ目玉焼きかな」

『……目玉焼きの上に、食パンを乗せるのですか?』

「え? いやいや、逆に決まってるじゃん。ユリ、何言ってるの?」

『南川様は、もう一度小学生から英語をやり直した方がいいですよ』

「なんで⁉︎」

 小学生だってそんな間違いはしないです。社会人として恥ずかしいですよ。料理スキルどうこう以前の問題です。

「ま、まあいいや。じゃあ、いつも通り食パンは任せるね」

『了解です』

 南川様が食パンをトースターにセットするのを部屋の防犯カメラに接続して確認した後、トースターを遠隔操作で起動します。このくらい自分でやれよ、と思わないでもないですが、私を頼ってくれているという好意的解釈をする事で納得してあげましょう。

 私がトースターの様子を見ている間に、南川様はフライパンを温めて卵を割ります。両手です。一人暮らし歴7年目なのですから、それくらいは片手で華麗に行ってほしいところですが、まあ失敗して卵を無駄にするよりはよっぽどよいでしょう。

 そうこうしているうちにトーストがいい感じに焼き上がってきます。南川様は少し柔らかめが好みのようですので、推奨時間より少し早めにトースターを止めます。

『南川様。トースターが焼き上がりました』

「ありがとう。こっちももうすぐできるよ」

 防犯カメラを使って確認すると、目玉焼きもほぼできあがる段階でした。黄身がやや中心からずれていますが、そこまでひどくはない出来映えです。まあ、及第点ですね。

 南川様はトースターからできたてのパンを取り出して適当な皿の上に乗せると、同じくできたての目玉焼きをその上に盛り付けます。超シンプルですね。まあ、料理下手な一人暮らしのサラリーマンの朝食などこんなものでしょう。時間も限られてますし。

「いただきます」

 冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぐと、朝食を乗せた皿と共にリビングのテーブルまで持って行き、手を合わせてから食べ始めます。誰が見ているわけでもないのに律儀な方です。こういうところは好感が持てますね。

「ねえユリ、テレビつけてもらっていい?」

『はい。チャンネルはどうしますか?』

「ニュースやってるところならどこでも」

『……この時間はどのチャンネルも大体ニュースをやってるのですが。10秒おきにランダム再生しますか?』

「わけわかんなくなるからやめて!? わかった、4! 4でいいから!」

 ランダム再生、面白いかと思ったのですが……しかたないです。テレビの電源を入れてチャンネルを四に合わせます。来年20周年を迎える某朝の情報番組がテレビから流れ始めました。

 朝はニュース番組を見ながら朝食をとるのが南川様の日課です。……別にニュースくらい、私に尋ねてくれればいくらでもお教えするのですが。あらゆる検索エンジンとSNSを駆使してどんなマイナーニュースも拾えますよ。例えば、南川様の実家の犬が3日に1回脱走している話とか、南川様の実家のハムスターが南川様の部屋を荒らし回っている話とか。

「うーん、今日もめぼしいニュースはやってないね」

 そうでしょうか。南川様の実家、わりとピンチでしたが。

「ご馳走様でした」

 そんな事など知らない南川様は、朝食を食べ終えて着替えを始めます。女性の前でいきなり脱ぎ始めるのはいかがなものかと思いますが、これは私が女性として認識されていないということでしょうか。それは遺憾です。たとえ見た目がスマホでも、私の心は女の子です。永遠に18歳の女の子です。傷つきます。ショックです。腹いせに着替え中の南川様を連写しておきます。意外と引き締まった細い身体をしていますね。こう見えても毎日欠かさず筋トレをしている方なので、悪くない筋肉です。回路が熱くなってきました。

「……ユリ? なんか湯気出てない?」

『いえ、全然?』

 ……この癖、なんとかしないといつかスマホを壊しそうですね。以後、興奮し過ぎないようにしなければ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ