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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月21日(金)
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第19話「くたばれって思いますね」

 現実世界ではゴールデンウィーク真っ只中という事で、折角なので先月の南川様のゴールデンウィークの話でもしましょう。基本的にインドア派の南川様ですが、長期休暇になると遠出や旅行をしたがります。運悪くただの4連休となった今年のゴールデンウィークでしたが、南川様は2泊3日で大分まで遊びに行きました。目的は言うまでもなく温泉です。温泉大好きっ子ですからね、南川様。

 関東から九州など飛行機を使えばほんの1時間程度の旅路ですが、南川様は目的地までの道中も楽しみたいタイプなので、わざわざ在来線、リニア、新幹線、また在来線と鉄道を乗り継いで約5時間かけて大分まで行きました。車窓からの風景を楽しみにしていたようですが、「リニアとか新幹線、速すぎて風景なんも見えない。プロボクサーみたいな動体視力してないと風景楽しめない」と悲しんでました。技術の進歩も良いことばかりでは無いわけですね。まあ、代わりに車中での読書を大満喫してたので結果終始楽しそうでしたけどね。

 現地に着くと、行けそうな範囲の日帰り温泉をひたすら梯子です。私が近場の温泉を探して、赴いては湯船でゆっくり寛ぎ、しばらくしたらまた私が近い温泉を探してそこに赴き、夜になれば予約していた旅館で料理と温泉を満喫し、翌日もまた同じように温泉梯子の繰り返し……という、計画も何も無いのんびりした旅路です。旅程を聞かされた時の私は『こんなんで大丈夫なのでしょうか』と思いましたが、案外なんとかなるみたいです。むしろ時間に追われることのない、大変穏やかな時間を過ごすことができ、正にリフレッシュという感じでした。南川様と一緒にいると新たな発見がいくつもあって楽しいです。まあ、この旅行のせいで帰省が出来なかったので、お姉様と妹様にめちゃくちゃ文句言われてましたけどね。

 では、スタート。



 金曜日だからなのか、いつもよりも少し軽やかな打鍵音を響かせながら仕事を進めること約3時間。お昼の時間がやって来ます。本日もお弁当は持参しておらず、コンビニで調達もしていませんので、外食という事になるでしょう。とは言え外は相変わらずの雨模様ですので、出来る限り近場でご案内してあげるべきですね。

『南川様、本日はーー』

「炒飯」

『ゑ?』

「お昼は炒飯で」

 まさかのウルトラ即答でした。予想外だったので私としたことが変な音声を発してしまいました。

『了解しました。少々お待ちください』

 昨日の夜も食べましたよね、と思いながら近場で炒飯の食べられるお店の状況を検索します。まあ、最大週9で炒飯を食べる炒飯馬鹿の南川様です、このように続けて炒飯を食べることも少なくはないので、同じ料理が続くのを気にするタイプではないのでしょう。

 と言っている間に検索が終了します。既に会社周辺で炒飯を提供している店には行き尽くしているので、お気に入りリスト内を検索するだけの簡単なお仕事でした。

『では、いつもの中華食堂はどうでしょう。雨のせいか普段よりも客入りは少なめで、現時点では空席が8つあります』

「うん、そこで」

 これまた即決した南川様は、折り畳み傘を手にオフィスの階段を駆け下りて行きます。余程早く炒飯が食べたいんですね。

 オフィスを出て最寄駅の方角に徒歩1分、そこが目的の中華食堂です。店のメインとして取り扱っているのはラーメンなのですが、ここの炒飯がめちゃくちゃ美味いと南川様は気に入っています。会社からも近いので頻繁に訪れます。

「いらっしゃいませー。ご注文はーー」

「炒飯大盛単品で」

 席に座るや否や、メニューに一切手も触れずに注文を済ませます。まるで常連です。いえ、週に1〜2回来ていればそれはもう常連ですね。

『それにしても、今日は決めるのが異様に早かったですね』

 炒飯が届くのを待つ間に、気になっていた事を尋ねてみます。

「今日の夜ご飯を炒飯にしようと思ってたんだけど、夜ご飯が飲み会に決まっちゃったからね。なら、昼に炒飯を補給しておかなきゃと思って」

『南川様にとって炒飯はガソリンか何かなんですか? 体内に炒飯メーターみたいなのが付いていて、しばらく補給せずにメーターがゼロになると動かなくなるんですか?』

「……ユリ、何を言ってるの?」

『え、おかしいの私ですか?』

 特定の料理に対して「補給」という言葉を使う方がおかしいと思うのですが……まあ、相手は炒飯馬鹿ですしね。ここは私が折れましょう。

『でも、そこまでして炒飯が食べたいのであれば飲み会の誘いなど断れば良かったじゃないですか』

 周りの方に合わせて自分を曲げるその精神は大変優しくて好印象ですが、我慢のしすぎも良くないですよ。

「……ユリは、「今日の夕飯は炒飯って決めてるから飲み会はまた今度ね」って言って後輩の誘いを断る先輩どう思う?」

『くたばれって思いますね』

「そこまで⁉︎ で、でもまあ、そういうことだよ。夜ご飯をこれにしようって決めてたからと言って、それを理由に折角の誘いを断るのはあんまりでしょ? だから、夜食べるはずだったものを昼食べることにしたの」

『なるほど』

 まあ、わからなくはないですが。ですが、なにもあの町田のために南川様がそこまでしなくても……ユリは少しモヤモヤします。

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