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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月29日(土)
175/310

第175話「まだ酔っぱらってます?」

 さあ、今年も天皇賞春の季節がやってまいりました。ん? 昨年の今頃も同じ話をした? まあ、確かにそうなのですが。ですが今年の天皇賞春は、昨年とは別物なのですよ。

 先週、約2年半にわたって改修工事を行なってきた新生京都競馬場が、遂にグランドオープンとなりました。改修工事に伴ってここ2年は阪神競馬場で行われていた天皇賞春も、今年からは再び京都競馬場で行われることになります。新生京都競馬場で行われる最初のGⅠレースということにもなりますね。

 そんな今年の天皇賞春、昨年とは結構条件の違う戦いとなります。芝の3200mで行われるという大前提の条件は流石に同じです。ですが阪神と京都ではコース形態が異なるのです。昨年の阪神競馬場の場合は内回りコースを使用して最後の直線は約350m。直線がそれほど長くないので基本的には先行した馬が有利と言われていますが、ゴール直前には僅かに100mの間に高低差2m近い坂を駆け上がることになります。既に3000mを走った後に待ち受けるこの坂、スタミナのギリギリな馬にとっては非常に苦しいゴール前の試練です。この坂で先行した馬たちが失速、スタミナを温存していた差し馬たちが一気に逆転するというケースも割とあります。一方京都競馬場の場合は外回りコースを使用して直線は約400m。直線の長さ自体は阪神競馬場の時とそこまで大きく変わるわけではありませんが、京都の直線には坂がありません。代わりに直線に入る前の第三コーナーがかなり急な下り坂になっていて、そこで各馬が一斉に加速、その勢いのまま直線に向くことが多いです。後ろから差す馬にとっては加速をつけながら直線に向けるので捲りやすいコースなのですが、一方で直線に坂がない故に先行した馬が失速するポイントが無いのも京都の直線です。直線を向いた時には既に先頭集団にいるくらいでないとなかなか前に追いつけないコースになっています。芝が綺麗な今の時期は特にそうです。

 とまあこんな感じで、同じレースであっても求められる能力、戦法が昨年と少し異なる今年の天皇賞春。連覇か、世代交代か。今年も目が離せない最強馬決定戦が始まります。

 では、スタート。



 策士・妹様の手により朝七時にしっかり起こされた南川様が、顔を洗ってリビングに戻ってきます。

「はぁ……まだ耳がちょっと変な感じする……」

『その件については申し訳ございません。妹様にまんまと乗せられてしまいました』

「ふふっ、乗せてしまいました。悪いのは私なので、ユリさんを責めないでくださいね」

「いや、別に責めはしないけど……でも、もうこんな起こし方はやめてね」

『肝に銘じておきます』

「はーい。ではお兄様、美音姉様を起こしてきてもらっていいですか? 私は朝食の準備をしてきますので」

「えー。美音ねえって僕より起きないじゃん」

 南川様よりですか。それは相当ですね。これが南川家の血筋なんでしょうか。だとすると、妹様は突然変異レベルでしっかり者ということになりますが。

「大丈夫ですよ。わき腹をくすぐるか胸でも揉んでおけば割とすぐに起きます」

「兄に何をさせる気なの!?」

 まだ酔っぱらってます? バイタル的にはアルコールは抜けているはずなのですが。

「冗談です。私が起きた時にはぼんやりですが目が覚めていたようなので、お兄様が声掛けしてくれればすぐに起きるかと」

「じゃあ最初からそう言ってよ……」

 朝から耳をやられたり叫ばされたり、大変ですね南川様。実家にいた頃は毎日こんな感じだったのかと思うと、賑やかで楽しそうですがしんどそうです。

「あ、そうそう。朝食のリクエストとかありますか? あるいは期限の近い食材とかあれば優先して使いますけど」

 さすが妹様、主婦力たけぇ。

「うーん、リクエストは特にないかなぁ。そんなにお腹減ってないから軽めというか、ちょっと少な目でいいかなぁってくらい。食材の期限に関してはユリの方がよっぽど詳しいからユリに聞いた方がいいかな。僕は美音ねえを起こしに行ってくるから、ユリは愛海を手伝ってあげて」

『承知しました』

 というわけで、南川様は和室の方へ、妹様は私を手にキッチンへと向かいます。

「さて、何を作りましょうか。ユリさん、食材の方はどんな感じですか?」

『直近で期限が切れそうなものはないですね。牛乳は昨晩使い切りましたし』

「そうですか。では、冷蔵庫のありものでなんか適当に作りましょう。折角なら普段食べないものの方が良さそうですが、お兄様って普段朝食ちゃんと食べてます?」

 そこすら心配されているんですか、南川様。まあ、あの寝起きなので仕方ないかもしれませんが。

『食べてますよ。調理が簡単なもので済ませることが多いですけどね。トーストやコーンフレークとか、冷やし茶漬けとか』

「ああ、おひゃ漬けですか。確かに実家でも良く食べていましたね」

 その呼称は南川家ではお馴染みなのですか。この間南川様も同じ呼び方をしていましたが。

「ふむ……そういうことなら、サンドイッチとかにしましょうか。普段トーストにしているのであれば、あまりこういう食べ方はしていないんじゃないでしょうか」

『確かに、私がこの家にやってきてからは見たことがありませんね』

 昼食にコンビニで買って行ったりすることもありますし、嫌いとか苦手とかではないはずですが。挟む具を考えたり作ったりするのが面倒なのでしょうか。ともかく朝食のメニューは決まりですね。南川様の方は順調でしょうか。

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