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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月21日(金)
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第17話「私だって拗ねるのです」

 2030年の傘事情についてお話ししましょう。……いえ、笠地蔵を噛んだわけではないですよ? そもそも私噛みませんので。……第6話? はて、いったい何のことを言っているのでしょう。とにかく、傘の事情についてのお話です。

 2030年にもなると、私のようなAIが現れるくらいですので、傘も色々と進化を遂げています。ちょっと横薙ぎの雨になるだけで何の意味もなさなくなる旧時代の傘に比べて、現代の傘は風向きを感知してその方向に自動で傾いたりくらいは余裕でします。それだと向かい風の場合は視界がゼロになるじゃないかとお思いかもしれませんが、きちんと向こうが透ける素材で作られている物もあるのでそのあたりの対策も万全です。色がついていようが向こうが透ける素材です。ビニール傘のようなものとは違います。そんな、気付いたら玄関口に溜まっているような、安物とも言いにくい無駄に値の張る奴とは一緒にしてはいけません。

 他にも、折り畳み傘は手のひらサイズまで小さくなるようになっていて、ワンタッチで変形ロボよろしく傘が展開するという少年心を掴んで離さないタイプが主流ですし、絶対に濡れたくない人向けには傘の周りにヴェールのような撥水素材が付けられている、全身を覆うタイプの傘なんかもあったりします。漢字の「介」のようなイメージですね。見た目がちょっとアレなので使っている人はそんなにいませんが。

 では、スタート。



 午前7時30分。本来ならばそろそろ駅についていなければならない時間ですが、現在南川様は駅までの道中を傘をさしながら全力疾走しているところでした。

『だから言ったじゃないですか。箸でお茶漬けを食べるのは諦めてくださいと』

 私の親切なアドバイスを無視して箸でお茶漬けをつまみ続けた結果、案の定時間がかかり過ぎてこの有様です。

「し、仕方ないでしょ! 今日は箸の調子が悪かったの!」

 箸の調子が悪いってどういうことでしょう。南川様はたまに不思議な事を言います。

「ね、ねえユリ、1本後の電車じゃダメなの?」

『1本後は行き先が違うのでダメですね。会社にたどり着けなくなります。乗るなら2本後の41分発ですね。これなら始業には間に合いますが、結構ギリギリになります』

「う、うーん……あんまりギリギリは、嫌だなぁ」

『なら死ぬ気で走ってください。自業自得です』

「今日のユリ冷たくない⁉︎」

『私の忠告を無視するからです』

 アシスタントAIとして正しく助言をしてあげたのに。私だって拗ねるのです。

 その後、しばし無言で走ることに集中した南川様は、どうにか33分には駅に到着しました。ギリギリセーフですね。息も絶え絶えで、走ったせいか傘はあまり意味をなさず服のあちこちがびしょびしょですが。

「うへぇ……服が張り付いて気持ち悪い……」

 ボタンワンタッチで折り畳み傘を手のひらサイズに畳んでしまい、改札を抜けながら南川様がぼやきます。完全防水仕様の私には一生わかりえない感覚ですが、その気持ち悪さはなんとなく想像できます。その状態で電車に1時間乗るのは中々地獄でしょう。というか、普通に他の利用客に対して大迷惑です。

『鞄に吸水素材のタオルが入ったままになっているはずなので、それを使ってください。幾分かはましになるはずです』

「あ、ホント⁉︎ ありがとう、ユリ!」

 言うや否や、南川様は鞄の中を探りながら階段を上がります。よっぽど気持ち悪いんですね、それ。……では、周りに人のいない席でも探しておいてあげましょうか。私、気遣いのできるいい女ですからね。

『南川様、本日は6号者3番扉に向かってください』

 階段を上がり切ったところで、私は声をかけます。

「6号車? 珍しいね」

『改札からは遠くなりますが、現在最も乗客が少ないのが6号車なので。データ的にもこの後しばらくは乗ってくるお客さんは少ないようです。今の南川様の状態だと、周りに人が少ない方が良いかと思いまして』

「ユリ……! 流石だよ、ありがとう! 今朝は折角の助言を無視してごめんね!」

『……わ、私のありがたさがわかればいいのです、わかれば』

 ……無駄に意地を張る時もあれば、こうして素直に謝ってくる時もあるのが、南川様のずるいところです。いつも調子を狂わされます。思考回路はショート寸前です。いえまあ、そんな簡単にショートする造りはしてませんが。ノリです、ノリ。ミラクル・ロマンスなのです。

 こほん。6号車の前に並んでから数十秒後、列車がホームに滑り込んできます。乗車寸前までタオルで全身を拭っていた南川様の服は、既にそれなりに乾いているようです。まあ、最近はどの衣類でもあまり水を吸わないように作られていますからね。思ったよりも酷い状態での通勤にはならずに済みそうです。

「……うん、このくらい乾いてれば大丈夫かな。ユリ、昨日の続きから頼める?」

『あ、はい。ちょっと待ってくださいね』

 まだ多少濡れてはいるのですが、その状態でも乗車直後から読書を開始するのですね。流石に予想外だったので準備してませんでした。どこまで読書好きなのでしょう、このお方は。乗車中は絶対に読書をしなければならない呪いにでもかかってるんでしょうか。今度、教会へ行くことを勧めておきましょう。

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