第13話「フrrrラペチィーノォォォぉぉぉ!」
南川様がゲーム好きというのは、前回少しお話ししたと思います。スマホゲームが絶大なシェアを誇る昨今のゲーム業界ですが、南川様はスマホゲームも据え置きのゲームも幅広くたしなみます。「据え置きには据え置きにしかない良さ、楽しさがあるんだよ」とは南川様の言。実際、据え置きのゲームの売り上げは、スマホに押されて減少するどころか年々増加しています。AR・VRゲームの一般普及などもその理由の一つですが、単純にゲーム業界という市場自体が年々拡大しているのも大きな理由です。IT技術の発展に伴って生活が飛躍的に便利・快適になり、人々に『時間』が生まれた結果、娯楽やエンターテインメントの需要は恐ろしいくらいに高くなっています。娯楽を代表するものの一つであり、なんならIT技術の発展の恩恵さえも受けるゲームの需要が爆発的に増え続けるのは自明の理です。
……ちょっと話がずれたので戻しましょう。スマホゲームも据え置きゲームも満遍なく遊ぶ南川様ですが、そのジャンルも多岐にわたります。中でも最も多くプレイするのは、いわゆるノベルゲーやギャルゲーと呼ばれるジャンルですね。アクションがあまり得意ではないということと読書好きなことから、シナリオのしっかりとしているこれらのジャンルを好む傾向にあります。それ以外にもRPGやアクション、謎解き、パズル、音ゲー、シミュレーション、カードゲームなど本当に手広くプレイしますが、基本的にはシナリオやストーリーがしっかりと存在する作品が好きなようです。
ちなみに、たまにエロゲーもやります。ですがまあ、本人の名誉のためにここで赤裸々に趣味趣向を語るのはやめてあげましょう。……それに、その情報は私だけが知っていれば良いのです。
では、スタート。
お風呂から上がり、再び元の部屋着に身を包んだ南川様は、濡れた髪にタオルを巻き付けつつ、テレビの前のゲーム機、プラットフォームステーション6、通称プラステ6を起動します。お風呂上がりから寝るまでのこの時間は、こうしてテレビゲームをすることが多いです。もちろん、録り溜めたアニメを見たり、ソシャゲのイベントを走ったりする場合もありますが、7~8割はテレビゲームを起動します。長編シナリオのゲームを始めたときなんかは毎日のようにプレイし続けますね。今がまさにそうです。
程なくして起動したゲームタイトルは『テイルズ・オブ・フラペチーノ』という、まあゲーム好きならまず間違いなく知っている大人気シリーズの最新作です。非常にざっくりとストーリーを説明すると、兄が亡くなった事件をきっかけに国の暗部に触れてしまった主人公が、暗部に追われながらも闘い、国ひいては世界の闇を暴いていく、というような感じです。タイトルからは微塵も想像つきませんね。
南川様はそんなシナリオの中盤あたりを現在プレイしています。敵陣営が出揃ってきて、親玉っぽい奴と1回目の戦闘が発生するあたりです。まるで何度も戦うことを知っているかのような口ぶりに聞こえるかもしれませんが、私はこの先のシナリオを知っていたりはしません。知ってしまうとネタバレしたくて仕方がなくなるので。ただ、このシリーズは同じ敵と何度も戦うのがお決まりみたいなところがあるので、今回もそうなのだろうという推測で発言をしています。それが正しいのかどうかは、ゲームを進めていけば自ずと分かるでしょう。
南川様が最終セーブ地点からゲームを再開します。現在、国の陰謀でいわれのない罪を着せられ賞金首となった主人公たちは、賞金稼ぎたちの追跡を振り切って北へ北へと逃げてきました。そして北の国境近くの森を突破し、後は国境を越えて隣国へ逃げよう、というところからプレイ再開です。
「うーん……通行手形は仲間が偽造したのがあるけど、そんなにすんなり行くかな……?」
『何かしらはありそうですよね。例えば敵の待ち伏せとか』
「あ、それありそう。ここまでの動きから北の国を目指してるのはバレてそうだもんね」
『ええ。この国と敵対している北の国に逃げ込まれれば主人公たちを追うのは難しくなるので、ここで仕掛けてくるはずです』
そんな私たちの予想は的中し、森を抜けた先には敵のリーダー格が待ち受けていました。
『よくここまで逃げ延びたナァ、フrrrラペチィーノォォ。ま、あんな賞金稼ぎ共にゃ捕まるワケネェわな。だからオレがこうして出向いてやった。王は生け捕りをご所望だからナァ、存分に嬲ってヤるゼェ?』
この特徴的な喋りの奴が敵のリーダー格、キリマンジャロです。普段は王の側近として護衛をしたり、国の兵団のトップとして兵士たちを指導したりしている剣も魔法も一級の人物ですが、その時はもっと普通に喋ります。裏の顔になるときだけ、こんなイカれた喋りをします。あ、ちなみにフラペチーノとは主人公の名前です。ボイスを聞くとラの部分がめっちゃ巻き舌なのですが、まさかテキストでそんな表記の仕方をするとは。斬新なライターですね。私は好きですが。
というわけで、キリマンジャロ戦開始です。主人公パーティの選抜4人で戦います。南川様がフラペチーノを操作して、他3人はCPUが動かします。キリマンジャロは剣も魔法も使ってくるので、間合いの取り方が難しそうです。まあ、フラペチーノは主に剣で攻撃するので、接近するしかないのですが。フラペチーノが近づくと、キリマンジャロも当然剣で応戦します。ですが、向こうの方がリーチが長いのと、南川様のプレイがあまり上手くはないのとで、思ったよりもダメージは与えられていません。むしろ喰らっています。まあ、タゲがフラペチーノに集中している分、味方CPUがガンガン攻撃を当ててくれていますが。ですがこのペースではフラペチーノの体力が持ちません。
「あ、あわわ。と、とりあえず下がってグミを……」
南川様は一度キリマンジャロから距離をとってアイテムリストから回復グミを使用します。しかし、距離をとると剣ではなく魔法で攻撃してくるキリマンジャロ、詠唱の短い下級魔法がアイテム使用中で無防備なフラペチーノへと突き刺さります。そして回復グミは効果を発揮することなく、フラペチーノの体力はゼロになりました。その身体がゆっくりと地に倒れ伏します。
「『フrrrラペチィーノォォォぉぉぉ!』」
2人揃って思わず叫んでしまいました。防音の効いた部屋で良かったです。でないと翌日からご近所様に白い目で見られていたこと間違いなしです。
「……蘇生瓶って、残ってたっけ……?」
『いえ。北の森を突破するときに使い切ってますね』
「だよね……はぁ、あとは残りの3人に頑張ってもらって、ダメそうなら対策を練ってやり直しかなぁ」
ため息を吐きながら、南川様はCPUが戦闘中のゲーム画面へと視線を戻します。画面の中では、残ったCPU3人がキリマンジャロから距離をとって構え、魔法の詠唱を始めるキリマンジャロに対してフラペチーノの妹であるカプチーノが弓を連射して詠唱を中断させ、ひるんだところにヤベェ情報屋のドッピオの中距離魔法と王の妾の娘のモカが放つ超火力魔法が突き刺さります。それが、半ば無限ループのように繰り返されます。キリマンジャロ、何も出来ません。ちょっとかわいそうなレベルです。
「……あの、これ……フラペチーノ必要だった……?」
『……考えてはいけませんよ、南川様。彼の犠牲は必要だったのです……』
しばらくして、キリマンジャロの『ぐああああぁぁぁ!』という叫びが聞こえてきました。私と南川様は、しばらくコントローラーを操作するのも忘れて切ない気持ちになりました。フラペチーノの冥福をお祈りします。




