第118話「言ったそばから!」
既に3月も終盤、今週はスポーツ界が大盛り上がりですね。サッカー日本代表はW杯出場を決め、プロ野球ではいよいよ2022年シーズンが開幕、そして競馬でも春のGI戦線が今週から開幕します。どの話もしたいのですが、全て話していると本編がなくなるので、今回は馬の話を。この馬だけはちょっと語りたいのです。
春のGI戦線初週は高松宮記念です。元々は夏に行われる2000mのレースでしたが、現在は春に行われる1200mの短距離レースです。スタートからゴールまで僅か1分、その刹那に色んなものを魅せてくれるのがこの春のスプリント王者決定戦です。その優勝馬の中にキングヘイローという馬がいます。
父は80年代ヨーロッパ最強、母はアメリカGI7勝というエリートの間に生まれた超良血馬でした。かかる期待は当然大きく、それに応えるようにデビューから3連勝。しかし彼の前に立ち塞がる同期の壁は恐ろしく分厚いものでした。皐月賞、菊花賞の二冠に輝き、菊花賞では当時の3000mの世界レコードを記録したセイウンスカイ、日本総大将とも呼ばれた歴史に残るダービー馬スペシャルウィークの前に、三冠は2着、14着、5着と結果を残せず。年末の有馬記念もグランプリ3連覇の不死鳥グラスワンダーの前に6着。翌年からは距離を短くしてマイルや短距離、果てはダート競争にも出走しますが、2着や3着はあってもGIの1着にはあと一歩届かず。大きな期待を受けながらもGIレースでは実に10連敗となかなかタイトルが獲れない中、それでも諦めずに挑み続けた11度目の挑戦が00年の高松宮記念でした。
キングヘイローは12.7倍の4番人気。オッズを見ればレースは3強の様相を呈していて、4番人気と言うほど期待されてはいませんでした。実況も道中では一言も触れないまま最後の直線、ゴール前で自慢の末脚を炸裂させたキングヘイローは、大外から全ての馬を撫で切り、クビ差で一着入線。遂にGIに手が届いたのです。何度敗れても諦めずに挑み続けたその不屈の闘志は、華々しい同期たちにも劣らない事でしょう。
皆さんも、限界まで挑みもせずに諦めちゃいけませんよ。諦めたらそこで試合終了です、とどこかの先生も言ってますし。
では、スタート。
あれ以降もチュートリアルから脱線して脱線して脱線しまくること約2時間。スタートした海辺から、ようやく最初の街まで到着しました。
「ふぅ。ここまで長かったね」
『長かったのは主に南川様の脱線のせいですが……』
サクサクと進行通りに進めていれば30分もかからないはずなんですよ、ここまで。
「なんか、しばらくはこの街が拠点になりそうなくらい大きな街だね」
『そうですね。マップを大きく分けると7つのエリアに分かれますが、その内の第1エリアの中心になるのがこの街です』
「7つもあるんだ。最新シナリオまでは相当遠そうだね」
『今から追いつくのは至難の業ですね』
例えシナリオ全振りで全力で進めても数ヶ月は掛かるぐらいボリュームのあるゲームですからね。探索全振りの南川様だと一体何年かかることやら。
「で、チュートリアルはいつになったら終わるの? まだマルチプレイとかは出来ないっぽいけど」
『最低限冒険に必要なチュートリアルはもう少しで終わるかと。マルチプレイに関しては、今ランク3と表示されている冒険ランクが16まで上がると解放されますね』
「……え、めっちゃ大変じゃね?」
『シナリオを進めていれば結構簡単に届きますよ。一説によると冒険ランク55まではチュートリアルらしいですし』
「ごめん、ちょっと何言ってるかわからない」
『私もネットで拾ってきただけなので詳しくは知らないです』
軽く調べたところ、冒険ランク55以降は極端にランクが上がりづらくなるのでそういう言い方をされるっぽいですね。びっくりするくらい上がらなくなるらしいです。
「お、なんか翼貰ったよ。翔べるのかな」
『飛翔というよりは滑空になりますが、翔べますね。ただこれも泳ぎと一緒でスタミナを使うので、翔びすぎには注意してくださいね。突然翼が消えて落下死したりするので』
「あ、翼消えて落下死した!」
『言ったそばから!』
探索ゲーになると人の話が聞かない子ですか。というかそもそもこの街にスタミナ切れで落下死する程の高低差って無かったと思うんですがどうやって死んだんですか。うっかり見損ねてしまいました。後で画面録画のリプレイでも見ましょうか。
「でも、翔べるっていいね。あんまりそういうゲームってやった事ないから、新鮮で楽しいかも」
『翔べるって事はイコールで操作が複雑になるって事ですからね。アクションゲームが苦手な南川様からすると手が出しにくいですよね。このゲームは滑空だけなので簡単ですが』
「……今、サラッと馬鹿にされた?」
『いえいえそんな。私が南川様を馬鹿にするなんてそんな』
アシスタントAIの私がそんなことするわけないじゃないですか。私はただ事実を述べただけです。




