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電子少女でも恋がしたい  作者: 古河 聖
2030年6月20日(木)
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第11話「除夜の鐘代わりに108回ほど撞かれてくると良いでしょう」

 突然ですが、私を開発したのはどこのどんな方だと思いますか。当然、第一候補に挙がるのは私の前身とも言えるアシスタントAIの大先輩『Osiri』様を開発した、桃のマークでおなじみのアメリカの企業『Peach』様でしょう。……え? のっけからなんか汚い? 別に私、汚い話などしていないのですが……そう聞こえてしまった貴方はきっと心が穢れているのですね。除夜の鐘代わりに108回ほど撞かれてくると良いでしょう。

 話を戻しますが。残念ながら私の開発元はアメリカではありません。正解は、日本のとある中小企業『超電磁砲撃ち隊』です。そのイカれた社名からなんとなく想像が出来るように、約10年前のアニメ『俺の妹がゼロから始める超電磁砲』で主題に挙げられる『超電磁砲』をどうやったら人間が撃てるようになるか、というようなことを大真面目に研究している会社です。メインで研究しているのは超電磁砲ですが、他にもいくつか部署があり、日夜アニメに描かれる空想の産物を現実で再現しようと頑張っています。私が生まれたのはそのうちの一つで、ロボットなどの研究をしていた部署です。日本アニメーションの先駆けとも言われる『鉄腕アムロ』や、未来道具で主人公を助ける国民的ネコ型ロボット『ドラ八清一』など、心を持ったロボットの存在は古くからアニメに多く描かれ、将来こんなロボットが本当に造れれば、と誰もが想い続けていたものですからね。研究に熱が入るのは必定ですし、その熱意こそが私を生みだしたのです。

 ……失礼。自分のルーツのことなので少し熱が入りました。

 では、スタート。



 卵その他諸々を買い終えた南川様は、一直線で自宅へと向かいます。別に「見たいテレビが!」みたいな理由ではありません。単に早く帰りたいだけです。

「ただいまー」

『お帰りなさいませ』

 今朝と同じようなやり取りを玄関で交わしたのは19時45分のことです。スーパーに寄っていた分普段よりは多少遅めですが、南川様の帰宅時間は大体このくらいです。距離が距離なので、サラリーマンの平均よりも遅い方ですね。

 家にあがった南川様は、スーツを着替えるよりも先に買ってきたものを冷蔵庫へとしまいます。私はどの食材がどこにどのくらい入れられたのかをモニタリングしつつ、リモート操作でお風呂の自動洗浄を開始します。リモートで操作できるなら帰宅前にやっておけば、とお思いかもしれませんが、南川様の帰宅後のルーティーンは夕食→お風呂なので、このタイミングで良いのです。早くつくりすぎても湯が冷めてしまいますし。先にお風呂に入りたい時は事前にそう言ってくれますからね。サポートしやすいご主人様で助かります。

 スーツから部屋着に着替えた後は、キッチンで夕飯の支度です。と言っても、今日の夕食は冷凍炒飯に決まったらしいので、袋から皿に移してレンジにぶっ込んだだけですが。まともに料理をするのは3日に1回くらいの印象です。まあ、南川様に限らず料理をする人は全国的に減少傾向にありますが。いくら冷凍食品やレトルト技術の発展が著しいとはいえ、もう少しこまめに調理をするようにした方がいいと私は思いますけどね。できて困ることでもないですし、料理はやらなければできるようにはなりません。技術の発展も良いことばかりではないということです。私のようなスーパーサポートが現れる一方で、代わりに廃れていくものがあるのが現実なのです。

 洗濯物を取り込みながら待つこと3分。電子レンジが夕飯の完成を告げます。以前は7、8分かかっていたのが今やこれで、味は店レベルでおまけにコスパもいいときていますので、料理離れが進むのもまあ納得はできるのですが。頑張って手料理を振る舞っても『いや冷食の方が美味しくね?』とか言われた日には二度と料理をする気など起こらないでしょう。それどころか普通に破局案件です。皆さんくれぐれも言葉には気をつけてくださいね。料理は味だけじゃありません。そこに込められた心をきちんと汲み取ってあげてください。……って、私はなに恥ずかしいことを説いているのでしょう。後生なので忘れてください。

「……ユリ、なんか熱くない? 大丈夫?」

『大丈夫です。ちょっと電子レンジの熱がうつってしまっただけです』

「どういう言い訳なの、それ……」

『そ、それより南川様。冷凍食品ばかりに頼っていないで、もう少し自分で料理をした方がいいですよ?』

「うーん、そうは言っても冷食の方が普通に美味しいからなぁ」

『……では、一つ例え話をしましょう。将来、南川様が結婚して子供が出来たとします。昔と違って夫婦共働きが当然のご時世です、南川様が一人でお子様の食事を用意しなければならない場面も少なからず訪れるでしょう。その時でも、南川様は今と同じセリフを口にしながら自分の子供に冷凍食品を提供できますか? 「僕が作るより美味しいから」と、冷凍食品をサーブし続けるのですか?』

「うっ。そう言われると確かに、なんだか罪悪感が……」

『別に冷凍食品が悪いとは言いませんよ。多少栄養の偏りは出るでしょうが、献立次第ではカバーもきくでしょう。ですが、南川様も言ったように親としてなんとなく罪悪感がありますよね。ならばと自分で作ろうとしても、今まで冷凍食品に頼ってきたツケで大したものは作れません。そして子供に無邪気な笑顔でこう言われるのです。「パパの料理より冷食の方が美味しいね!」と』

「ゴハッ。そ、それはかなりキツいかも……」

『でしょう? それが嫌なら、今から料理をする習慣をつけた方がいいですよ。一朝一夕で上達するものじゃないですからね』

「肝に銘じておくよ……」

『それがいいでしょう』

 世の中には、手料理を振る舞ってあげたくても様々な事情でそうできない方だってたくさんいるのです。例えばそう、私みたいに。


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